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02 自称旦那が信じてくれない

 ……ってそんなこと、この状況でそのまま鵜呑みにはできない。


 私は、にこにこしている彼の顔をまじまじと見上げた。

 嘘をついているようには……見えな……くもない……。

 いや、うーん、どうなのだろう。


 改めて彼の顔を観察する。

 長く繊細なまつ毛に縁どられた形のいい瞳。

 さらさらと流れる癖のない髪。

 すっと通った鼻筋。

 薄い唇は、楽しげに弧を描いている。


 どこから見ても完璧に整っていて、甘さを感じさせる顔立ち。


 ……こんな美形と初夜!?

 初夜を迎えるということは、つまり彼と私が結婚したということだけれど……。

 ないない、ありえない!

 だって、なんでこんなキラキラした人を私が捕まえられるの。

 私ってそんな美人なの……!?

 ちょっと期待してしまう。

 鏡、鏡。

 視線をきょろきょろ動かして見ると、鏡ではなく窓ガラスに映る自分の姿が見えた。


 ……ん、普通だ。

 一瞬、美人かと勘違いして、調子に乗ったのが恥ずかしい。

 ものすごく残念というわけではない。

 けれど、目の前にいる美形と結婚できるほどの美人とは到底思えなかった。


「百歩譲っても一夜限りの……はっ、そういうこと!?」


「え?」


 彼がぽかんとしている隙に、サッとその腕の中から抜け出す。

 四つん這いでベッドの端まで辿り着き、そのまま急いで降りようとした。

 けれど、すぐに腕を掴まれ、引き留められてしまった。


「待って、どこへ行くつもり?」


「ごめんなさい! 記憶のある私が、どういうつもりで一夜限りの過ちを犯そうと思ったかわからないけれど、いまの私としては、そんなただれた関係無理です! お願いですから帰してください!」


「一夜限り? ハッ。ありえない。ずっと欲しかったんだ。一夜で済むわけがないだろう。これから毎晩君がうんざりして嫌がったって、繰り返し抱くつもりだよ」


「……!?」


 何を言っているのこの人!?

 とんでもない言葉の羅列に、理解が追いつかない。

 だってそんな……繰り返し抱くとか……!!


 絶句して振り返ると、心底うれしそうにうっとりとした微笑みを浮かべる彼と目が合った。


「と、ととと、とにかく離してくださいっ」


「そんな意地悪を言ういけない唇は、口づけで塞いでしまおうか?」


 口づけ……!?


「悲鳴をあげますよ……!?」


「初夜を行っている部屋から、悲鳴が聞こえてきても、聞き流されると思うけれど」


「……!?」


 すごいものを見る顔をしてしまった。

 その途端、彼が血の気の引いた顔で焦りはじめた。


「あっ。いやそんなことはしない、しないしない。君が嫌がるようなことは、間違ってもしないよ!?」


 当たり前だ、冗談ではない!


「それに! 初夜という設定も、そろそろ笑えないのでやめてください!!」


「……」


 彼は押し黙った後、突然その場に額をこすりつけた。

 え!?

 土下座!?

 彼がぐりぐりと額をおしつけるたび、真っ白なシーツに皺が寄る。


「ごめん! 何が原因で君を怒らせてしまったのか正直まったくわかってない。でも僕がまたやらかしたってことだろう? 本当にごめんなさい。この通り謝るから、記憶喪失のふりはやめて、怒りをそのままぶつけて欲しい。だってこんな特別な日に忘れたふりは、僕の図太い神経を持ってしてもきつすぎるよ……」


 呆気にとられながら、目の前にある彼のうなじを見下ろす。


 怒っているから、記憶喪失のふりをしているって思い込んでいるの……?

 そんなこと普通はしないだろう。

 そう言ってみたら……。


「え? だって今までもそういうこと、たびたびあったよね」


「そうなんですか?」


「僕がアデリーヌを怒らせて『あなたなんて知りません。どちらさまですか』的なことを言われたのは、二十三回」


「なんで回数まで覚えているんですか!?」


「君との思い出ならなんだって覚えているよ。どれもとても大事なものだから」


 両手をベッドについたまま、はにかむようにへへっと笑って、彼が私を見上げてくる。

 おかしいな。

 すごい美形なのに、だんだんその印象が薄れて、ちょっと気持ち悪い人に見えてきた。


 でも、うーん。

 二十三回……。

 もし彼の言う言葉が真実だったら……。

 二十三回も忘れたふりをされれば、二十四回目だって同じだと思うだろう。


 さてどうやって私が本当に記憶喪失なのだと、信じてもらおうか?

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