ゲイとおっさんとディーフォームズ。
更新空きまして申し訳ありません。
今回は短めです。
「うわぁ、もういる」
会議室のガラス越しに既にスタンバってるおじさん達を見て、ついドアノブに置いた手を引っ込めてしまう。予定時刻より三十分前だぞ。
あ、エイジに睨まれた。はいはい、行きますよ。
私はゲーム時代のブラックリリーの片腕『シャドーキャット』だった男、今は私の秘書をしている猫山田影司の眼力に負け再度ドアノブに手を伸ばす。
ちなみに眼鏡の似合うイケメンである彼も超次元遊戯制作陣の魔の手にかかればごりごりのゲイに変わる。ミズチと違いそこそこの人気だったのは購買層の違いだろうか。
「遅れて申し訳ありません」
謝罪の言葉と一緒に会議室に入るとその場の全員の視線が一斉に私へ向かう。特によれよれのおっさんとナイスミドルからの視線が熱い。
よれよれの白衣を着た冴えないおっさんは南斗星七朗と言って、ギャルゲーヒーロー『スターバスター』を生み出した天才科学者で、高そうなスーツをばっちり着こなしたお髭のナイスミドルは乙女ゲー戦隊『レインボーカラーズ』を作った『セブンカラーカンパニー』の社長、七色虹蔵だ。
二人の見た目の差でも激しい男女差を感じる。
脇役の男なんぞ汚くていいという男性向けと、脇役のおっさんでもナイスミドルを求める女性向けの違いって奴をだ。
「わしらが早く来すぎただけだ。すまんのぅ、年寄りは色々気も下も早くてなぁ」
南斗博士がにやにや笑いながら話す。相変わらずセクハラ発言がうざい。
だけどまあ、精神年齢がアラフォーで止まった(今世はノーカンです)私にそんなセクハラが聞くわけがない。
前世ではもっと露骨な下ネタだって笑顔で返してきたのだ。
「あら、枯れてないだけお元気でいいですわね」
私がにこりと笑って返すと南斗博士は口を盛大にへの字に曲げ、「悪野の鬼百合はからかい甲斐がないのぅ」とぼやく。おい、鬼百合って呼ぶな。
鬼百合とは、私が『悪野超次元能力研究所』を有象無象の手から守るために色々やらかした結果ついてしまった不名誉なあだ名だ。これを知る者はよれよれのおっさんとナイスミドルの他にも結構いる。
この業界では公然の秘密だったりするのだ。超不名誉。
「嫌ですわ、南斗のおじさま。十代の時のヤンチャを蒸し返さないでくださいよ」
ほほほ、と口に手を当てて笑うと「あれがヤンチャで済むのかい」とナイスミドルがげっそりした顔で呟く。
おいそこのゲイ、貴様も何うんうん頷いてるんだ。お前は身内だろうが。
「まあ、そんな昔話は置いておいて。皆様、もうお集まりのようですし始めてしまいましょうか」
まだ三十分も前だけどな。
普通なら有り得ない進行だけど、おっさんらも乗り気だし始めてしまおう。
「では猫山田。始めて」
「はい」
私の指示に、エイジが優雅に一礼したその時だった。
自社ビルの中をけたたましいサイレンが鳴り響いたのは。
「ちっ、会議前だってのに」
「お嬢、素が出てますよ」
「あら嫌だ」
思わず舌を打ったことをミズチにたしなめられ、ゆっくり口元を隠す。
まあ、ここにいるおっさんらは私の素はおろか寝小便垂れてた頃から知ってるんだけどさ。
『ディーフォームズが出現しました。場所はBー21エリアです。黒鬼隊の皆様は速やかに所定の場所へお集まりください。繰り返します。ディーフォームズが出現しました……』
サイレンのあとに社内を満たしたのは機械音声。「黒鬼隊が見られるのか」と目をキラキラさせるのはいつまでも少年の心を忘れないおっさんら。
「エイジ、ミズチ」
「はっ」
「心得ています」
名前を呼んだだけで理解してくれるW秘書は本当にデキる奴らだ。
「おじさま方。申し訳ありませんが、私は少々退室させて頂きますわ。
会議の進行は猫山田が……いえ、それよりもここで黒鬼隊の映像を見せた方がいいのかしら」
私の言葉におっさんらは目を期待で輝かせる。顔にはありありと「黒鬼隊が見たい」と書いてあった。
全くもう、このおっさんらは。
「猫山田。スクリーンを」
「はい」
ゆっくりと現れたスクリーンにざわめくおっさんら。
なんて可愛い反応なんだ、愛い奴らめ。
「それでは皆様。ご視聴お楽しみください。
猫山田、あとは任せたわ」
「分かりました、お嬢様」
一礼するエイジの顔がとても嬉しそう。
おっさんハーレムはお前にとってご褒美か。
「ミズチ、行くわよ」
「はい」
入室からわずか十五分。
私はミズチを伴い部屋を後にすることとなった。
むぅ、これで会議はおじゃん。スケジュール調整がまた面倒くさくなった。
このイライラはディーフォームズ達にぶつけてやろう。
お読み頂きありがとうございました。