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弟とゲームする時間は至高です。

まだまだ説明回は終わりません。

 乙女ゲームの悪役に転生した私の前世は同性愛者でした。


 ゲーム世界に転生して、二十一年経ったけれどアラフォーオタから女王様系美女にメタモルフォーゼした今もムラッとくるのは女性に対してだけだ。

 だから『レイカラ』のイケメンズはいらない。ヒロインちゃんもわざわざ探し出してゲットしようと思うほど魅力を感じない。


 それに美女や美少女なら今周りにあふれているのだ。

 そう、弟である桜仁がラスボスする予定だったゲーム『スタバス』の攻略キャラ達だ。


 私が基本優しく、時に厳しく育てた最愛の弟は世界に絶望した悲しき悪役『ルーンマスター』にはならずチート級の能力を持ちながらのほほんと男子高校生の日常を送っている。

 ゆえに彼女達との関わりも「上司と部下」ではなく、「クラスメイト」だったり「教え子と先生」だったり「姉の友人」だったりと変わっていた。関係はゲーム時代より良好なようで、弟の周りには立派なハーレムができあがっていた。


 儚げ系美少年と彼へ集う美少女や美女達。周りにいるモブ男達はさぞや壁を殴りたいことだろう。私も自分の弟でなければ壁をガン殴りしていた。

 けれど私は桜仁のお姉ちゃんだ。まだ友人関係を越えていない彼らに小姑のように苦言を呈することはない。


 もちろん弟が不義理なことをすれば全力でお説教(物理)するし、彼女達が悪意を持って我が最愛の桜仁に近づくならばあらゆる『力』を使い、潰したことだろう。

 だが現実にはいい子達ばかりなのだ。お姉ちゃんは桜仁が誰を選んでも笑顔で「弟をよろしくね」と言える自信がある。その時に涙がにじむくらいは許してもらいたい。


「反抗期? 何それおいしいの?」と言わんばかりに幼少期と変わらずなついてくれる可愛い弟と顔も性格も申し分ない女の子達に癒される私はマジで勝ち組だと思う。

 この生活がずっと続いてくれればと信じていない神に願うのも仕方がないことだろう。


 今も最愛の弟と二人で対戦するパズルゲー超楽しい。

 ぽつぽつ学校で起こったことを話す弟がたまらん可愛いのである。


「姉さんさぁ」

「んー?」


 またぽつりと桜仁が呟くように話す。最近大人に見せたいのか「お姉ちゃん」から「姉さん」に呼び方が変わっているのがこれまた可愛い。

 私は生返事ではあるが、弟の背伸びの仕方に内心は盛大に萌えている。前世から私は感情が顔や行動に出にくいのだ。


「恋人、作らないの?」

「あー……いらないねぇ」


 まさかの恋の話。略してKOIBANAである。弟も誰に似たのか(十中八九私だろうが)表情に乏しく声に起伏がない。お互いローテンションのなか、恋バナである。


「僕は別に女の人連れてきたっていいんだよ?」


 指はコントローラーを操作したまま、桜仁はちろりと横目で私の顔を伺った。

 私は画面から目を動かさないが、視界の端に映った弟の表情に心の中で苦笑した。浮いた話が一切ない私が心配なのだろう。


 桜仁には数年前にカミングアウト済みだ。

 隠していた百合ゲーやら同人誌を下着ドロが盗品をブルーシートに並べられるがごとくベッドに乗せられ「お姉ちゃんは女の人が好きなの?」と聞かれたあの日はその場で舌を噛んで死のうと思った。その羞恥に耐えきり「うん、ごめん」と言っただけにとどめた過去の自分を誉めてあげたい。弟にトラウマを植え付けずに済んでよかった。


 優しく育った我が弟は「僕は別にお姉ちゃんが幸せになれるなら女の人が好きでも何でもいいよ?」と言って受け入れてくれた。

 本当に私にはもったいないできた弟である。


 今では好みのタイプについてお互いローテンションのまま語り合ったりすることもある。

 弟は周りから厳しそうに誤解されがちだが、実際は優しくて少しドジなタイプがいいらしい。ギャップ萌えってやつですかね。

 私? 私は束縛しない人がいい。好きに放牧してくれて帰ると「よーしよし」ってしてくれそうな牧場主みたいな人。最後に付き合った前世の彼女とか思い出しくもないわ。束縛強すぎて服まで指定されてたかんね。


 また思考がそれた。どうにも私は前世から脳内で語る癖があって困る。


「うん、(おう)ちゃんが受け入れてくれてるのはわかってるわ。本当に今、そういう人がいないだけだから」

「……そう……」


 私が無難な返事をすると桜仁は少し残念そうというか不満そうな顔をする。そんなに姉が売れ残るのが不安なのだろうか。

 心配なぞせずとも老後の貯蓄はしているし、国民年金以外にもいくつか年金の積み立てもしているぞ。終の住処にする予定の老人ホームの目星もつけている。ただ同意書にサインだけしてくれればいいのだ。お姉ちゃんはそれ以上迷惑をかけるつもりはない。

 あ、できれば未来に生まれてくるだろう甥っ子だか姪っ子とかその子供とかをたまに連れてきてはくれないだろうか。全力で甘やかす自信がある。


「そういう桜ちゃんはどうなの?」

「む……僕もいないよ」


 盛大に脳内脱線をしつつ、私は桜仁に反撃を食らわす。

 あ、ちなみに対戦の方は私が優勢です。まだまだお姉ちゃんは負けませんよ。

 大人げないって言わないでください。


「ヨウちゃんとか周りにたくさん女の子いるじゃない」

「ああ、みんなはそういうのじゃないから」


 ヨウちゃんとは本来の桜仁が作るはずだった組織『ゾディアック』の側近であった彼と同い年の幼なじみ、『炎拳(えんけん)牡羊座(アリエス)』になる予定だった娘、白井(しらい)(よう)ちゃんのことである。

 牡羊座を冠する彼女はその名に恥じぬ猪突猛進さ(羊なのに猪ってのも変だけど)と元気さを持っている。ヨウちゃんとはいつも一緒にいるし仲良く話してるからホの字なのかと思いきやそういうのではないらしい。

 というかみんなってことは全員恋愛対象ではないのだろうか。世の男性全てが壁を殴りたくなる台詞。弟じゃなければ敵認定していた。


「みんなは同士って感じかな」

「え? 桜ちゃん悪の組織でも作るの?」


 私は思わず右目を黒い眼帯で覆ったローブ姿のルーンマスターを思い出してしまう。

 桜仁は少しだけ顔をしかめて「何言ってるの、姉さん」と呆れた声で言った。そりゃそうですよね。弟を悪の道に向かわせないために私は全力を出したんだし。


「あ、負けちゃった」


 同士というのが気になったけど、桜仁はテレビ画面の対戦結果に話を移した。

 何とか勝ちました。大人げない姉です。


「もっかいする?」


 私が聞いた所で「失礼します」と低めの女性の声が響いた。

 声のした入り口へ顔を向けると濃い翡翠色の髪を顎の下辺りで切りそろえた三十代前半くらいのクールビューティが立っていた。いかにも「仕事できます!」と言った様子のスーツを身につけた彼女は私を見ると冷たそうな表情を崩しにっこり笑う。


「お嬢、仕事の時間ですよ」

「わかったわ、ミズチ。今行く」


 私は彼女の名を呼び立ち上がる。「じゃあ、行ってくるわね」と挨拶し、桜仁の銀白色のさらさらの髪をなでるのは忘れない。桜仁は少し目を細めてから「いってらっしゃい」と言ってくれた。

 よし、午後も頑張れる。


 ちなみに私は黒髪黒目だが、みんなゲームの中のキャラだけあってカラフルな髪や目の人が多い。

 桜仁なんて銀白色の髪に右目が青で左目が黒色だしね。オッドアイって憧れだよね。


 私は完治したはずの厨二病が再発しそうになるのを耐えながら自室を出たのであった。

お読みいただきありがとうございました。

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