お姉ちゃんが転生してから現在までをつらつら語るだけ
完全なる設定説明回です。
突然だが、私、悪野黒百合は前世の記憶を持っている。
元々、前世の記憶自体は物心ついた辺りからあったのだが、転生先がどこか気付いたのは少し成長してからだった。
転生先は某所ではまだまだ盛況なテーマであるゲームの中だ。
それに気付いたのは十一歳の時。両親の突然の死により私達姉弟は頼る者がいなくなり、まだ六歳になったばかりの弟、桜仁を私が親代わりとなり真っ当に育てようと決心した時のことだった。
遺品整理中に出てきた高校時代の父の写真を見て、激しい既視感に襲われて気付いたのだ。
……まだ六歳のうちの弟、ギャルゲーの悪役じゃねぇか、と。
ヒーローが迫りくる悪の女怪人を倒しつつ彼女らと恋愛していく現代もののギャルゲー、『恋愛ヒーロー“スターバスター”』のラスボス『ルーンマスター』にそっくりな父の写真を手に取って思った。
そして、成長したら私もこうなるだろう亡き母の大学時代の写真を見て、更に気付く。
そう、自分の立ち位置だ。
スタバス(『恋愛ヒーロー“スターバスター”』の略称)の噛ませ女幹部? それともメインヒロイン? はたまたただのモブ?
どれも違っていた。いや、自分でもかなり驚いた。
だってゲームジャンル違うんだもん。
私はスタバス制作陣(正式名称『超次元遊戯制作会社』)が作った同じく現代ものの乙女ゲーム『恋愛戦隊レインボーカラーズ』(略してレイカラ)のラスボス、『ブラックリリー』だったのだ。
……うん、まさか乙女ゲーのラスボスとギャルゲーのラスボスが姉弟なんてね。悪野の名前は伊達じゃないわ。
私は、なんとなく憂いを秘めているように見える大人しそうな北欧系美男である父と、きりりっとしたつり目のせいで高笑いが似合いそうな女王様に見える黒髪美女の母との結婚式の写真を眺めながら思わず遠い目をしてしまった。
ちなみに前世の私は、スタバスもレイカラもプレイはおろか設定集をそらんじられるくらいドハマリしていた。両者の発売から、三十七歳の三回目の本厄中に落雷に打たれて死亡するまでの三年間、仕事以外の時間を捧げてきた。
やおいも百合もノーマルもどんなカップリングもおいしく頂き二次創作もしてきた。当然、ゲームにハマってからは恋人なしでしたけど何か問題でも?
うん、話がそれた。とりあえず幼かった私は、あれほどドハマリしたゲームへ転生した衝撃を脇にうっちゃり弟とのこれからの生活を平穏なものとするために前世三十七年、現世十一年の知識を総動員する作業に専念した。
前世で一人っ子だった私は「おねえちゃん」となつく可愛い弟を手放したくなかったのだ。
ブラコン? 上等だ。
本来のブラックリリーは世界中の男の中から自分の理想の男を見つけるなんてくだらない理由で世界征服をしようとしていたけれど、私は弟のためなら世界全てを敵に回したって怖くない。
私にはそれだけの能力があった。
超次元能力。ゲームの黒百合や桜仁が世界征服を企めた一番の理由にして、それ以外はほぼ変わらない前世とこの世界の唯一にして最大の違い。
超次元能力とはいわゆる超能力や魔法に近いもので、強い弱いの差こそあれほとんどの人間が使えるものだ。私も桜仁も両親からそれなりに強い能力を受け継いでいた。
そして、超次元能力の研究をしていた両親から能力の効率的な使用方法も学んでいる。前世で元厨二病患者だった私は浮かれに浮かれ、貪るように能力の使い方を覚えた。
そう浮かれていたのだ。
それは超次元能力だなんて特徴的な名称と強弱の差こそあれブラックリリーの能力を使えていたのに、ここが『レイカラ』の世界だと気付かないほどにだ。国から研究を委託されるくらい業績を上げている超次元能力研究所を構えた両親から教わるものに夢中になっていた。
そのせいで十一歳当時の私は既にゲーム内のブラックリリーを超えていた。
戦闘、諜報とオールマイティに使える私の超次元能力『ブラック・タロット』はチートと言ってもいいほどに成長していた。
また前置きが長くなった。これからはかいつまんで海外での学会帰りに交通事故で両親が亡くなったあとの話を説明しよう。
私は、私達二人の保護を名目に父と母の遺産を狙おうとする自称親戚共や研究所の利権を奪おうと画策するライバル研究所などなどから、前世の三十七年で培った大人の狡さと現世の十一年でのびのび学んだチート級能力を用い、それらを跳ね退け時には物理的に黙らせた。
桜仁が中学に上がるまでには全て片付き、『悪野超次元能力研究所』は所員のみんなと私の協力者達によって急成長し、『AKUNO株式会社』へと変わった。ほぼお飾りの会長となった私は、両親の遺産に手をつけることなく暮らせるだけの収入を得て弟の世話に全力を出せることになったのだ。
当然、男を得るために世界征服をする暇など微塵もない。
十年経ち「お嬢は普通の感性を学ぶべき」と社員の皆々様から言われて女子大生をしている私は、弟の世話と二度目の大学生活と余り役立ってはいないが会社経営に忙しいのだ。
恋愛? いらない子ですね。
ゲーム内のブラックリリーは立ちはだかるレインボーカラーズ(戦隊名)のイケメン達を得るべく果敢に向かっていたが、今の私は興味がない。
プレイ当時は二次元だからこそ画面の前できゃあきゃあ言っていたが、いざ現実でお付き合いを、と考えるとノーサンキュー。グチグチと十六かそこらの小娘に自らのトラウマを吐露し、無料カウンセリングで癒されてからはそれを恋愛と勘違いしこじらせる二十代や三十代など必要ない。それにほだされるヒロインとの関係は見事な共依存としか思えないし、まだうら若き女子に何をしているとしか感じない。
そもそも私、前世も現世もビアンだしね。
オタク百合好き貴腐人ビアンだった前世のことには触れないでください、マジで。
お読み頂きありがとうございました。