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1.

 コンコンコン……私はお父様の書斎の扉をノックします。

「お父様、お話があるのですが……よろしいでしょうか?」

「おぉ、香子。なんだい? 言ってみなさい」

 扉を開け、書斎の中へ招き入れてくれる。


「私、実は――」



 その日、私、橘香子たちばなきょうこはお父様にお願いをしました。

 それは――アルバイトがしたい、というものです。

 自慢になってしまうかもしれませんが、橘家は古くから続く名家です。

 なのでアルバイトをしなくても日々の生活に困る事はありません。本当に恵まれていると思います。


 それでも、私はアルバイトがしたいのです。


 私のお願いを聞いたお父様は、少し困ったように頬を掻きます。

「香子はどうして、アルバイトをしたいと思ったんだい?」

 突然アルバイトしたいと言い出せば、理由が気になるのは当たり前のことでしょう。


「実は、菊乃ちゃんから少女漫画を借りたんです」

「菊乃ちゃん、というのは香子のクラスメイトだったね。それで?」


 私が菊乃ちゃんに借りた少女漫画のあらすじはこうです――。

 お金持ちの御曹司、令嬢が多く通う学園に庶民の少女の主人公が入学します。その学園で、一番人気の御曹司と恋に落ちる。という内容なのですが……

 二人の恋を邪魔しようとする令嬢が出てきます。家の権力を振りかざし、クラスメイトたちを使い主人公を虐め抜きます。そんな中でも一生懸命に学園生活を送る主人公に、他の御曹司たちも惹かれていき、いつの間にか、主人公の少女と令嬢の学園内の立場が逆転します。最後には今までの行いを御曹司たちによって全校生徒にバラされ学園中が混乱。令嬢は、これ以上悪評が付くことを嫌った実家から勘当され、路頭に迷うのです。


 今まで、家のお金で何不自由なく暮らしていた令嬢に、自分で生活するだけの稼ぎを作れるとは全く思えませんでした。

 それを考えた時、もし私がそうなったら?多分、何も出来ず路頭に迷うのでしょう。

 寒々しい光景が妙にリアルに思い浮かべられました。だからせめて――。


「せめて、アルバイトを経験しておきたいのです」

「……うーん、成る程なぁ。香子は自分でお金を稼ぐ経験がしたい、ということだね?」

「そうです、お父様」


 私の話を聞いたお父様は、少し何かを考えるように顎を撫でていましたが、やがて顔を上げ私に視線を合わせます。


「わかった、アルバイトは認めよう」

「本当ですかっ? ありがとうございます!」

 思わず前のめりになった私の様子に少し笑いながらお父様の言葉は続きます。

「ただ、アルバイト先は私が決めていいかな?」

「はいっ! もちろんです」


 アルバイトをお父様に認めていただけて、ホッとしました。これで今夜はグッスリ寝れます。

 実は、菊乃ちゃんに借りた少女漫画を全部読んでからというもの、嫌なイメージが消えず少し寝不足気味になっていたのです。そのことを菊乃ちゃんに話したら笑われてしまいました。私にとっては本当に怖いことだったのに……。

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