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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動四
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魔法少女と飛甲翔女

「這いつくばらせることはできませんでしたが、予定通り事が進みそうで何よりですわ」

「……目的は魔女ね?」

「貴女を這いつくばらせたいというのも目的なんですけれどね」


 レヴァテインが蒼槍レーヴァを構え直し、更にスカーフを傍らにたゆたわせる。

 槍と自律兵器による波状攻撃が想定された。

 レヴァテインが動けば迎え撃たざるを得ないが互いの武器がかち合った瞬間に厄介な砲撃が飛んでくる。

 かと言って砲撃をかわし続けていては攻め手に欠け、いずれ体力が先に尽きるだろう。あの自律兵器の動力が不明な以上、あれが動かなくなることを期待するのは愚策。となれば。


「おや?」


 レヴァテインが動きを止めて観察する先で、マジシャンズエースが腰のカードホルダーに手を伸ばし、そこから一枚カードを抜いた。


「トリックドロー。ダイヤ」


 望みのカードを引き当てる。それはダイヤのエース。

 金色の雷鎚が花梨の体を貫いた。バチバチと大気を弾く雷光と雷音がレヴァテインの視力と聴覚を一時遮断した。

 そして雷に紛れて花梨の立つ場所から放たれてきたのは、無数の弾丸。


「……ッ!」


 フォームチェンジの際の衝撃に反応が遅れた玲奈の代わりに銃弾を全て撃ち落としたのは、彼女を守る四基のスカーフ。


「そいつが邪魔ね」


 雷は収束し、消える。代わって姿を現したのは、色を赤から黄色へ変えたマジシャンズエースだった。

 髪は黄色の縦ロールとなり、マフラーは消えてメガネを掛けている。

 ミニスカートはロングスカートへと丈を変え、ハートフォームと比べると動きにくそうな格好となっている。

 だがそれを問題としないのは、手にしていた武器が大鎌ハートスレイヤーから、機関砲ダイヤスリンガーへと変容していたからである。

 変わらないのは、左腕を覆う鎖と包帯のみ。

 機動性を殺す代わりに、遠距離からの攻撃でレヴァテインを近付けることなく制する。それが花梨の導き出した解決策であった。


「遠距離戦特化フォーム……私を近づけないつもりですわね」

「その厄介な兵器もね。お高いんでしょう? 撃ち落とされたくないなら引っ込めたら?」

「たかが機銃一つにやられるほど鈍くはないのでご心配なく」


 余裕を見せつけるように笑うレヴァテインを、マジシャンズエースは更に笑った。


「そうね。では手数で圧倒できるようなショーをお見せしましょうか」


 マジシャンズエースの手には既に五枚、カードホルダーからドローされたトランプが扇状に広げられていた。

 レヴァテインに見せつけたカードは、全てスペードのマークで揃えられていた。


「フィニッシュ・ドロー……フラッシュ」


 ショーの開幕を告げると機関砲は姿を消し、代わりに頭上に召喚されるおびただしい数のライフル銃。

 奇術師は指を鳴らし、それを合図に幾多のライフル銃が天より落ち始めた。左右の手でそれを手にすれば間髪入れずに引き金を引く。

 ライフル弾の雨が四基のスカーフとそれを操る魔法少女、五つの標的に降り注ぐ。

 飛甲翔女はその場を動かず、その身は蒼槍レーヴァで守り、スカーフは己に向かってくる弾丸を全て撃ち落とす。同時に奇術師への砲撃も敢行する。

 マジシャンズエースは次々に頭上より供給されるライフル銃を踊るように受け止め、一発撃つ毎にライフルを投げ捨て、次の銃をキャッチする。時折自律兵器の光線が体を捉えてくるが、まるで計算されたかのような動きでかわし、時にはライフルで撃ち抜き相殺する。

 銃弾の交差はほぼ互角。だがレヴァテインは見ていた。マジシャンの頭上から落ちてくるライフルが有限であったことを。

 銃の供給が止まる。その時が奇術師の四肢を撃ち抜く瞬間であると。そしてその時は訪れ、スカーフに指示を飛ばす。


「今です!」

「フィニッシュ・ドロー、フル・ハウス」


 玲奈の命によりスカーフが花梨の四肢へ砲撃を加えたのと、その射線にリフレクターが出現したのは同時だった。

 玲奈の傍で、四基の自律兵器が破裂音を立てて地に落ちた。


「軽率ね。次の手も読まずに勝利を確信でもしたのかしら」


 完璧な射角で打ち返されたビームはスカーフを貫いた。これまでの玲奈の戦闘力の大きな部分を担っていた兵器は、これで使用できなくなった。

 現状の把握が遅れているのか、未だ言葉を失って立ち尽くしている玲奈だったが、マジシャンズエースの攻撃は終わっていない。


「第二幕は続いているわよ!」


 光弾を反射したリフレクターは二人の周囲に無数に展開しており、この反射兵器を操る魔法少女の手には回転式拳銃と自動式拳銃が握られていた。


「下手に動くと狙いが外れて大怪我するわよ? 気を付けて逃げまわってね」


 マジシャンズエースは両手を大きく広げ、両手の銃の引き金を幾度も引いた。

 無数の弾丸が反射する音があちこちから木霊する。


「はぁ!」


 迫り来る弾丸の一つをレーヴァで払い落とす。だが背を向けたところから腕や足を掠める弾丸が襲い掛かる。


「くぅぅ……!」


 全てを斬り払うには手数が圧倒的に劣ると悟ったレヴァテインは壁を背にし、ウィングラックが発するエネルギーをシールドとして変換し、前面へ展開した。

 幸いにもマジシャンズエースが放った弾丸の威力はシールドを貫く程のものではない。着弾した弾は勢いを失い、やがて消滅していく。

 このまま弾丸を凌ぎつつ、次の手を考えなくてはならないレヴァテインに、ショーの第三幕の開演を告げる声が届く。


「フィニッシュ・ドロー。ストレート・フラッシュ」


 拳銃もリフレクターも消え、だが玲奈はこのシールドを解除するわけにはいかなかった。

 視線の先には敵の攻撃を遮る盾を立て、その上にスナイパーライフルの銃身を置き狙いを定める魔女がいたからだ。メガネ越しに覗く照準サイトが捉えているのは、シールドを張るレヴァテインの体の中心。

 パチ、パチと溢れる力が雷となりマジシャンズエースから放たれる。金色に輝く光をまとい、ライフルの砲口にはこれまでの比にならない強力な魔力が集約していく。


「死……」


 彼女の指が引き金にかかる。レヴァテインはシールドの出力を最大まで引き出した。


「ネ…………?」


 引き金は引かれ、圧縮された超電磁砲の一撃は逸れることなく標的へと突き進んだ。


「きゃああああッ!!」


 着弾の衝撃は防御シールドを展開していたレヴァテインの体を安々と吹き飛ばしていた。

 直撃していたならば大きく抉れたこの密室の壁と同じ目に合っていたかもしれない。だが彼女はあの超電磁砲の一撃を受けたにしては、傷は大したことはなかった。


「はぁ、はぁ、はぁはぁはぁはぁハァハァハァ……」


 ストレート・フラッシュを放つ直前、花梨は集中力を大きく乱し魔力の集約を拡散させることで超電磁砲の破壊力を大きく削ぎ、更に狙い撃つポイントを玲奈の体からその横の壁へとずらしていたのだ。


「情けないわね……全く」


 死ネと口にした刹那、魔女に呑まれていたことを自覚した。

 九条さんを殺すつもりなんて毛頭ない。彼女は何か事情があってこのような手段を取らされているに過ぎない。だから少しだけ力を削ぐことができればそれ良かった。

 ストレート・フラッシュは完全にやり過ぎであり、そこから自分の中の魔女が表層に顕在してきていた。

 寸前で気付けて、彼女を手に掛けることがなくて本当に良かったと花梨は安堵していた。

 魔女の支配から自力で脱するために体力を大きく消耗していたが、機関砲を杖代わりに立ち上がるとゆっくりと壁際に倒れる魔法少女のところへ向かった。


「九条さん……」

「ゴホ、ゴホ」


 横たわったままの彼女は体を震わせ咳き込んでいた。ようやく無事を確認すると全身から力が抜けそうになっていた。

 だがこれで終わりではない。誰が何のために玲奈をけしかけ、花梨の内に眠るナイトメアの魔女を狙ったのか。それを聞き出しておきたかった。


「クッ……ククク」


 体を震わせる玲奈の声が代わり、花梨は眉間にしわを寄せた。


「九条、さん?」

「ククク……アハハハハ……やはりセーブしたままでは最強の魔女を宿す貴女には力不足でしたか」


 ふらふらとではあるが立ち上がった玲奈の表情は、不気味に嗤っていた。


「九条さん! いい加減正気に戻りなさい! 貴女はこんなことができる人じゃなかったはずよ!」

「できるんですよ、私には」

「できないわ。貴女には誰よりも高潔で正義を愛する心があったじゃない」

「愛する……心」

「そうよ。慈悲深く、正しきことに力を行使する優しい貴女がこんなことを自分の意志でするはずがないわ」

「そう……愛するから、愛するからこそ私は貴女を殺さなければならないんですわ!」

「え……」

「この一年、いいえ出会った時からずっと貴女が羨ましかった! 誰よりもあの人の傍にいて、誰よりもあの人と深く結びついて、その心を独り占めしていった貴女が!」


 玲奈は泣いていた。その涙と悲しみに暮れた表情は花梨の平らな胸を強く打った。彼女の想いと言葉は本物なのだと。


「本当に羨ましかった……死線を越えたあの時だって、最後まであの人のお供をしたかった。一緒に貴女を助けたかった。置いて行かれた……悔しい、いつも特別な位置にいて、あんなに大切に思われて……私も一緒にいたい。貴女たちと三人…………」


 そこで彼女の涙は途切れた。想いの吐露が中断したことに、話を受け止めていた花梨は訝しんだ。

 そして再び口が開かれた時、玲奈の表情は死んでいた。


「……三人はいりませんわ。私とアヤメさん二人だけでいいのです。貴女がいなければよかったんです……貴女はここで魔女として覚醒して、研究に貢献してください」

「…………歪んでる」


 花梨の表情は怒りに染まっていた。

 今の感情の変貌ぶりは、何かの力が介入しているに違いないと思わせるには充分であった。

 そんなことをする者が、できる者がいるとすればまず疑わしいのが、玲奈の所属する機関である。

 加えて研究に貢献という台詞。確信に近い疑念を抱いた視線が、誰の姿も見えぬ小窓へと向けられた。


「さあ! 貴女を這いつくばらせるという私の願い、ここで叶えましょう!」


 玲奈は高らかに叫び、その身を眩く輝かせる。光の中、二対の羽を背負うレヴァテインのシルエットが変貌するのを目にしたところで、花梨の意識はぷつりと途切れた。

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