魔法少女と寄り道
黒十字のことについて俺たちが話すために訪れたのは、マジカルシェイクである。
と言ってもよく行く中央公園にある移動販売車の方ではない。商店街にある本店に俺たち四人はやって来ていた。
時刻は既に七時近く、外は暗くなり始めている。こうなるとお客の入り具合にもよるが、移動販売車の方は店仕舞いをして営業をやめているかもしれないからと先輩たちが言ったので、珍しく本店へ赴いた次第である。
でもどうして部室や先輩の家など、他人の目がない場所で話をしないのかと訊いたところ、
「動いた後は甘いモノが食べたいしさあ!」
とは音無先輩の言である。
「それじゃあ四名様ご案内~」
まず出迎えてくれたのは、マジカルシェイクの副店長である巻菱蓮さんだった。
案内されたのは店の奥、隅っこのテーブル席だった。店内にいる他のお客さんからは少し離れており、あまり聞かれたくない話をするには丁度いい。
席に着く間にざっと店の中を見回してみたが、店員さんも含めて男は俺一人だけである。不愉快というわけではないが若干居心地が悪く感じた。
「何食べる? あたしはシュークリームとチョコケーキと……新作の」
メニュー表を開いた音無先輩がぱっぱと食べたいものを挙げていく。
「僕もシュークリーム。四色のミルフィーユ……メープル仕立てのコーヒーを」
「俺は家に帰ったら夕飯ありますんで……炭酸ジュースだけで」
「あたしもコーヒーだけでいいわ」
「ダイエット?」
「二人が頼み過ぎなのよ」
「俺たちは動いてませんから……すいませえん!」
皆の注文が決まったところでマネージャーとして店員さんに呼びかけると、すぐに制服を着た黒髪の人が来てくれた。
「……注文は」
えらく小声で聞き取りづらかったけど、注文を訊ねられたらしい。
皆の分の注文を伝えると、店員さんは小さく会釈して戻っていった。美形だけど愛想のない印象だ。
「もっとニコニコしなさいって言ってるでしょぉ」
カウンターの奥で巻菱さんのゲンコツを頭に喰らっていた。まだ働き出して間もないのかもしれない。
「それじゃあ……何から話したらいいかな?」
「先輩から話すより、まずは聖から黒十字のことについて語ってもらった方が四之宮先輩も理解しやすいと思います」
「そうしてもらえると助かるわ」
四之宮先輩が促すと聖は頷き、そして口を開き始めた。
彼が話す内容については、事前に俺が聞いていたことが殆どだった。自分の生い立ち、組織との関係、逃げ出した後の経過。
去年の冬に一大決戦があり、黒十字結社の戦力を大幅に削いだところに話が及んだ時、二人の先輩は顔を見合わせた。
やっぱり自分たちが力を取り戻した時期にそんなことがあったことに、何か感じるものがあったのだろう。因果関係があるかは分からないし、あるとこじつけるのは強引だとは思う。
それから現在まで残っていた黒十字の戦力について。首領と三幹部、その下にいた複数の怪人。そして、エストルガーと同等の力を持つアステリオーのことだ。
「三幹部は音無先輩が撃退してくれたと聞いています。明……アステリオーは同じ時に僕が追い払いました」
そこで聖は話を切った。内容的に一段落ついたところだ。
俺たちのテーブルには話の最中に届いた注文の品がずらりと並べられており、音無先輩の前のスイーツは既に半分ほど消えていた。
「じゃあ黒十字結社の今の戦力は首領クロスクロイツと残った怪人、あとは非戦闘員の学者だけということかしら」
四之宮先輩が訊ねると、聖はゆっくりと頷いた。
「そうなると思います。ですが」
少し言い淀んだ聖の言葉の続きを俺たちは待った。音無先輩は食べてた。
「僕を誘き出すために野臼町を攻撃すると明は言っていたけど、その割にはやけにあっさりしていたというか……」
「本気を感じなかった?」
「ええ……明は本気だったと思います。戦っていて何となく感じました。でも三幹部の方は……」
聖の視線が音無先輩に向く。彼女の意見を聞きたいのだろう。釣られて俺と四之宮先輩の顔も、ぱくぱくもぐもぐスイーツを食べる先輩へと向いていた。
「……っも? んもも」
ごっくん。
喉を鳴らして口に詰めていたお菓子を腹に収めた先輩がふぅと満足気に息を吐いて話し始めた。
「正直なところ、火力は凄かったけど強敵じゃなかったね」
「あいつらの強さはよく知っています。いくら先輩といえども、三人同時に相手をするのは大変だったと思っていました」
聖の言葉を受け、先輩はそこで頭を振った。
「同時ならね。けどあたしが相手にしたのは一体……三人の体を三等分にしてくっつけた、歪な怪人一体だけだよ」
そこまで詳しい話を聞いたのは、俺も今日が初めてだ。そして話を聞く程に、疑念が湧いてきた。
「三幹部が一つになって襲ってきたのに、弱かったんですか?」
うん、と先輩は頷く。
「一人ひとりの動きは悪くなかった、けどバランスが全然取れてないって思ったよ。あれなら三人バラバラに襲ってきた方がよっぽど手こずったと思う」
そして彼女は自分の感じた率直な意見を口にした。
「あれじゃまるで……まとめて処分しようとしたみたい。そう思っちゃうくらい、不十分な強さだったと……あたしは感じた」
音無先輩と聖、そして俺は黙って思案していた。一体どうしてそんな攻め方をしてきたのか。何か裏でもあるのか、と。
沈黙を破ったのは、四之宮先輩が啜ったコーヒーカップをカチャリと置いた音だった。
「首領が生きている以上、まだ黒十字は消滅していないんでしょ」
「え、ええ」
答えた聖に、だったら、と先輩が続けた。
「また何か悪さをしでかしてきたら、その時対応するしかない。相手の居場所も今は分からないんでしょう?」
「はい……」
「なら今は深く考えるだけ無駄よ。黒十字という組織のリスクが残っている……それだけ頭の隅に置いておきましょう」
「そうっすね。鳴りを潜めているならこっちからどうこうできないですし、今はただ待つしかない……聖もそれでいいか?」
「ああ。異論はないよ……でも黒十字とは別にアステリオーのことも覚えておかないと。彼は組織とは無関係に動いていると思いますから」
「じゃあそのことも頭の片隅に……アヤメもそれでいいでしょ?」
さっきからじっと黙っていた先輩に四之宮先輩が声を掛けると、やがてゆっくりと先輩が口を開いた。
「あと二品、追加してもいいかしら……」




