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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動四
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魔法少女と歓迎会

 放課後になり、中央公園まで大勢で出向いた俺は歓迎会の主催者として主賓と参加者の前で挨拶を始めた。


「それでは一野聖のボランティア倶楽部の入部を歓迎するささやかな会を始めたいと思いますが」


 マジカルシェイク移動販売店舗の端のテーブルをお借りしての歓迎会。一つのテーブルに全員が着席し、その前には一人一つずつ様々なケーキとオレンジジュースが並んでいる。

 真神店長はお店の中で業務に励んでいるので今はいないので後で聖ときちんと挨拶しに行くとして、いつものようにここにいた鈴白さんが俺に一番近い場所に座していた。


「……」


 彼女は俺を見つつも、ちらちらと同じテーブルに着く聖を窺っている。彼女にもきちんと事情を説明しなくては。


「部員以外の人にもわざわざ参加してもらって俺も聖も嬉しい気持ちで一杯です」

「中園さん、柏木さん、ありがとう」

「ううん。折角誘ってくれたんだし」

「なんか楽しそうだったしな」


 クラスメイトの女子二人は昼休みの時に誘っていた。二人とも都合良く予定が空いていて助かった。


「音無先輩が遅れてくるという事で今は四之宮先輩しかいませんが」

「本当にごめんなさいね。あの馬鹿が勝手なことしちゃって」

「いいえ、歓迎会をして頂けるだけで僕は満足です」


 そう言ってもらえれば音無先輩も気が楽になるだろう。


「参加者は以上ですが」

「ちょっと待ったあぁ!」

「何故俺たちを紹介しない」

「呼んでねーからだよ! 勝手に参加してんじゃねーよ!」


 ダブルオーの二人がテーブルに着けず、女子の輪から弾かれる形で強引に参加していた。


「何で呼んでくれない!?」

「騒がしくなるからだよ!」

「お前が俺たちを除け者にするからだ」

「だからお前らは関係ねえじゃん!」

「委員長も柏木も関係ねえだろ!」

「はぁ?」

「わ、私たち?」


 委員長たちに流れ弾が飛び、歓迎会の場には少し険悪なムードが漂いそうになった。


「はいはい落ち着きなさい。賑やかな方が聖くんも嬉しいでしょ?」

「そうですね。僕は全然構いませんよ。相沢くんの友達なら、親しくしておきたいし」


 四之宮先輩がフォローし、聖がダブルオーに微笑みかける。


「……俺、今ちょっと」

「ああ……女子からあんな笑顔向けられたことがない」


 胸を押さえて二人が呼吸を荒らげていた。


「僕はおと……うぅ、強く言えない」


 聖が声を荒らげかけたが口を噤んだ。そう、世間的には聖は女性ということで生きていくことになる。勿論、どうにかして性別が戻れば堂々と男と宣言していけるのだろうが、悲しいことに今は女だ。ダブルオーの二人を否定はできない。

 ともあれ二人のおかげで場の空気は和らいだ。すかさず俺は手を叩き、皆の注目を一身に集めた。


「はい! それじゃあ部長は不在のままですけど、始めたいと思います。では一野聖さん、開会のご挨拶と乾杯の音頭をお願いします!」


 俺が促すと、聖ははにかみながらもジュースの注がれたコップを手に立ち上がった。


「僕のために歓迎会をしていただいて本当にありがとうございます。特に四之宮先輩と相沢くんに感謝を。それと場所を貸してくれた真神さん、一緒に参加してくれた鈴白さん。最後に、僕の事情を知りながらもただのクラスメイトとして接してくれる中園さんと柏木さん」


 そこで一旦言葉を区切る。すると、テーブルの輪から外れ気味のあの二人が必死なジェスチャーで懸命に聖にアピールを始めた。


「それから大野君と岡田君にも」


 それを聞いて二人はほっと胸を撫で下ろし、満足気に頷いていた。


「遅れてくる部長には後で直接言葉を伝えようと思います。それでは、長くなりましたが」


 聖がコップを前にかざすと、俺たちもコップを高く掲げた。そしてタイミングを見計らい、全員で声を揃えた。


『カンパーイ!!』




 歓迎会が始まってしばらく。聖はクラスメイトのメンバーと話に興じていた。その様子を確認してから、俺は鈴白さんを連れて丁度手の空いた真神店長の元へ向かい、聖のことについての説明をしていた。


「へぇ……あの子の力のせいで性別がねぇ」

「ま、まだ信じられないですぅ」


 二者二様の反応であった。鈴白さんに至っては、まだ現実を受け入れられないようで目をぐるぐるさせていた。


「そういう現象がありえないとは言い切れないけどね」

「特殊な力を扱ってますからね、俺たち皆」

「けど私の経験上でも出会ったことはないから、かなり稀な事態なのは確かだと思うわ」


 腕を組み、移動販売車の出入口に背を預けて俺の話を聞いてくれた真神さんが言うからには、本当に珍しいことなのだろう。


「一時的じゃなくて永続的な影響っていうのもすごいわね」

「ええ……おかげでこれからの生活で苦労すると思います」

「戸籍とかどうしたのかしら?」

「それは彼の……聖の協力者だった人が性別が反転することを見越して、生前に色々と手を回してくれていたらしいです。元々あいつ、特別な出自で戸籍なかったみたいですし……情報の書き換えもしやすかったんじゃないですかね」

「そう……。なんにせよ、書類上の問題よりも実生活の問題の方が課題になってくるってわけね」

「ですね」

「その辺は相沢くんがマネージャーとしてちゃんとフォローしていかなきゃね」

「そりゃあ男でもできる限りのことはやっていきますけど……女の子の生態は俺にとって未知すぎて未知すぎて……」

「そこは中園さんと柏木さんが教えてくれるってさ」


 俺たちの話に加わってきたのは、話の中心であった聖であった。


「他の皆は?」

「四之宮先輩と一緒に盛り上がっているよ。先輩がこっちに行って来なさいって」


 ナイスなフォローありがとうございます、先輩。


「あの二人が手伝ってくれるならクラスでも安心できるな」

「うん。まずはお手洗いの使い方とか、男と女で違うところからしっかり教えてもらわないと」


 ふと俺の脳裏に、女子トイレを使う聖の姿が浮かんできた。勿論その姿は女性の格好であり、何を変な妄想をしてるんだとぶんぶん頭を振って妄想の雲を追い払った。


「ふむ……」


 店長が深刻そうな表情で聖を見ている。その様子に気付いた俺と聖は何事かと店長の言葉を待った。


「……下着はどうするの?」

「下着、ですか?」


 突然の質問に聖がぎこちなく答え始めた。


「今は家にあるのをそのまま。ちゃんと着ていますけど」

「ブラは?」

「も、持ってるわけないじゃないですか!」

「よし。今度お姉さんと一緒に買いに行こう!」

「えぇ!?」


 これは予期せぬ展開だ。まさかこんな形で女性の下着売り場に行く機会がくるだなんて、心の準備ができていない。


「そんなのいいですよ! 今ので充分……」

「いいえ! 女の子にとって下着は命……お姉さんが貴女にピッタリのを選んであげるわ」

「そうだぞ聖! 俺もついて行ってやるからきっちりと選んでもらうんだ!」


 困惑する聖を俺は精一杯説得しようとした。が、それを遮るように俺の肩に手を乗せてきたのは、真神店長だった。その表情はまるで俺を憐れむような、悲しい目をしていた。


「相沢くん……それだけはダメよ」

「な、何故ですか!」

「下着選びは異性には決して見せてはならない女の子にとって大切な儀式なの。だからいくらマネージャーとはいえ、君を連れて行くことなんてできないのよ」

「そ、そんな!?」

「……ていうか相沢くん。女性の下着売り場に入ってくるつもり?」


 考えるまでもない。無理です!


「というわけだから音央ちゃん? 今度一緒に下着買いに行きましょ」

「…………ほぁ! あわわ、わたしもですか!?」


 勿論よ。店長は頷き、聖と鈴白さんの手を引いてテーブルを囲む女性陣のところへと向かった。


「注目! 今度ここにいる皆で聖ちゃんにあう下着を買いに行きます!」


 その宣言に女性陣からはおぉという感嘆の声が漏れてきた。顔を真っ赤にして聖は照れているが、最早俺にお前を救う術はない。諦めて行ってくれ。


「……」

「……」

「……」


 モテない男子トリオにとって全くの未知、不可侵の聖域とすら呼べる女子の下着トークにはついていくことなどできず、俺たち三人はテーブルの輪から外れてしまった。


「悲しいな、俺たち」

「惨めだな、俺たち」

「今なら二人の気持ちがよく分かるぜ」


 そう言った時、二人の首がギリギリと音を立てて俺に向けられた。息を呑んだ直後、俺は二人に首を締め上げられていた。


「なんだその上から目線の物言いは!」

「最近女子と話す機会が多いから調子に乗ってるな」

「誤解だおめぇら……ギブ、ギブ」


 二人の腕をタップするが、嫉妬心に支配されたダブルオーは手を緩めることはなかった。

 ホワイトアウトしそうになる視界に人影が映った。ああ……お迎えが来たのかと勝手に悟ってしまったが、どうやら違ったようだ。


「ゴメーン! お待たせ!」


 ああ先輩、音無先輩が来てくれた。俺を助けに来てくれた。と、霞みゆく意識の中でこれまた勝手に解釈していた。

 だが俺を助けてくれたのは事実だ。音無先輩に気付いたことで、ダブルオーの腕が俺から離れたのだ。


「こんにちは!」

「お邪魔しています」


 挨拶をするダブルオーから少し離れ、俺も先輩に声を掛けた。


「ゴホゴホ……お疲れ様です、お待ちしてましたよ」

「うん! 本当にお待たせしてゴメンね!」


 謝るのはもういいですからと声を掛け、男子不可侵のガールズトークに花を咲かせる女性陣の傍へ先輩を促した。

 皆も音無先輩が来たことを歓迎し、面子が揃った歓迎会はいよいよ盛り上がるのであった。


「……まあ、場が賑やかになるのはいいことだけどさ」

「俺たちってさあ」

「いてもいなくても変わらない、な」


 俺と大野と岡田の三人はひっそりと身を寄せ合い、ちびちびとジュースを口にしながら深い溜息を吐くのだった。

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