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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と二人目の新入部員

 翌週になっても相沢草太がボランティア倶楽部に顔を出さないことに、部長である音無彩女は不満そうに頬を膨らませて部室の机に突っ伏していた。


「何ぶーたれてんの?」


 合わせた机の向こう側に座り小説を読んでいた四之宮花梨は、目の前で不満げにしている部長の姿が目障りになっていた。


「だってー。あれから何にも連絡ないしー」

「あんたからしなさいよ」

「早かったらあの次の日に顔出すって言ってくれたしー」

「立て込んだ事情ができたんでしょ。気になるならあんたから連絡しなさいよって言ってるの」

「でもー草太くんのこと信じてるしー」

「だったらシャキッとして待ってなさいよ。こっちはあんたのスケージュール管理もやってて疲れてるのよ」

「嘘だー本読む余裕あるじゃーん」

「息抜きくらいさせなさい」


 ハードカバーの小説に栞を挟んで綴ると、目の前にある彩女の頭頂部目掛けて本の角を。


「い……ったぁ!」


 モロに角が直撃した頭を両手で擦り苦悶で黙った彩女を見下ろすと、花梨は満足気に頷いて読書を再開するのだった。

 その時、ガラガラと部室の扉が開かれ、室内にいた二人の視線がそちらに集中した。


「先輩……お久しぶりです」


 そこに立っていたのは、彩女と、表情には出さなかったが花梨も待ちわびていた後輩の姿だった。


「草太くん! んもぉ、連絡くらいしてよ!」

「す、すいませんでした!」

「何責めてるのよ。部長なんだから貴女が事情を訊いてあげるべきでしょ? ……久しぶりね。入って」


 花梨が促し、彼を招き入れようとした。だが中々入ってこないことに気付き、席に戻りかけていた彩女と花梨の足が止まった。


「どうしたの?」

「久々だから入りづらい? 気にしなくていいのよ」

「ああいえ……そうじゃないんです……そうじゃ」


 要領を得ない説明に、先輩二人は顔を見合わせて疑問符を浮かべた。


「えっと、四之宮先輩は詳しく知らないと思いますけど、俺が音無先輩の代わりになりそうな新入部員を見つけてこようって決めて……」

「ああ。大体この子から聞いてるわよ。クラスメイトの男子を見て貴方の目が光ったって」


 それは後輩の能力、エンブレムアイに掛けた軽いジョークだったが、それに反応してくれない後輩を見て残念に思うと同時に、反応する余裕がないのかしらと訝しんだ。


「ええ……そう、なんですけど……」

「聖くんの勧誘に失敗しちゃった? そうなら、全然気にしないでいいんだよ」


 彩女がフォローするように言ったが、彼は即座に否定した。


「いえ! 勧誘は成功しました! 聖、俺たちの手伝いをしてくれるって……入部してくれるって」

「本当!?」

「あらま、朗報じゃないの」


 それは二人にとって非常に喜ばしい知らせであった。ボランティア倶楽部の活動の幅が広がり、戦力も充実する。長らく二人だけで活動してきた彩女と花梨だったが、短い期間で部員が二人も増えることは新鮮な出来事である。


「ねえねえ! 早く聖くん呼んできてよ!」

「一野聖くん……ですっけ。入部届書いてもらわないとね」


 二人がそわそわと動き出そうとしたのを制すように、草太は声を上げた。


「もうここに来てます! 連れてきてます!」

「オオー!」

「あたしは初めて会うわね」


 二人はウキウキとした視線で後輩を見つめる。まるでそれに根負けしたかのような雰囲気で、草太は部室内から伺えぬ位置で待機していた人物の腕を引いた。


「ほら、もう出てこい!」

「い、嫌だ! やっぱり恥ずかしい!」

「どうせバレるんだ! ていうか今日クラスメイトには告白しただろ!」

「それもこれも君のせいだろ! 恩人なんかじゃない、仇敵だぁ!」


 何故か出てくるのを拒む新入部員を心待ちにしていた二人は、後輩二人のやりとりを耳にしてふと思った。

 あれ、彼の話し相手って女の子?

 その疑問はすぐに解決した。

 相沢草太に腕を引かれて現れたのは、女子の制服を着こなし長いブロンドヘアを首の後ろで結った、見目麗しい美少女だった。


「あう……あぅ……」


 先輩二人に見られ言葉を失う美少女は、今にも泣き出しそうだった。


「……男の子って聞いてたんだけど」

「草太くん……一野聖くんは? 彼を勧誘したんでしょ?」

「ええ……ええ! だから! こいつが聖です!」


 そう紹介された少女は、とうとう泣きだした。


――――――


「えぇと……つまり」


 情報を処理しきれずに頭から煙を吹いている音無先輩に代わり、彼……いや、彼女と初めて顔を合わせた四之宮先輩が話をまとめてくれている。


「ユニコーンデバイスの力を完全に引き出すために、一野くん……さんの」

「くんでいいです!」


 そう激しく主張され、四之宮先輩も困り気味だ。


「と、とにかく彼女の」

「彼でいいです!」

「そう言うなよ! もう女の子なんだから!」

「君のせいだ!」

「ちょっと二人とも落ち着きなさい!」


 珍しく、四之宮先輩に大声を上げさせてしまった。俺と聖はしゅんとして、大人しく先輩の言葉を聞いた。


「聖さんの紋章とデバイスの力を、相沢くんが繋ぎ合わせたのね?」

「はい……」

「そのおかげで聖さんは自身の力を完全に引き出すことができた」

「はい……」

「けどその作用のせいで……性別が……」

「変わってしまったんです!」


 聖がすごい剣幕で主張する。主張されても四之宮先輩にはどうしようもないのは分かっているのだろうが、せずにはいられないのだろう。


「……力に覚醒して変身を解いた時に、初めて自分の身に起こった惨状に気が付いたんです。その時、デバイスに仕込まれていたメッセージが起動したんです」

「メッセージ?」

「聖が組織から逃げ出した後に、彼を育ててくれた人が仕込んでいたっぽいです」

「その人は分かっていたんです。ユニコーンの力を受け入れた時、僕にこういうことが起こることを。黒十字を倒すためにはそれが必要で、もしそうなったときに僕が女の子になって、取り乱さないようにとそれを残してくれたんです」


 それにしては随分取り乱しているけど。突っ込んだらまた責められそうだから黙っておいた。


「思えば僕の体を蝕んでいた発作も、鎧装が最適の形になろうとして男のままの体を締め付けていたんですね……耐性っていうのは、性別が変わらないようにという僕の本能が発していた危険信号なんですね……それを君が!」

「ま、待て俺のせいじゃない!」


 結果的に非難の矛先は俺に向いてしまった。


「君のせいだ!」

「そうしなきゃ明に勝てなかっただろ!?」

「そうだけど……いや、それとこれとは別だ! 今すぐ僕の体を元に戻して!」

「む、無理!」


 美少女に胸ぐらを掴まれて言葉責めされる。事情が違えば堪らないシチュエーションだろう。


「何をにやけてるの!」

「わ、笑ってねえ!」

「あー……相沢くん、一ついい?」

「はい、何ですか?」


 四之宮先輩が質問してくれたおかげで聖からの責め苦が収まった。ありがとうございます先輩。


「相沢くんが許容の力で彼女とデバイスの力を結びつけたのなら、今度は拒絶の力でその結合を断てないの?」


 その質問に、俺は首を左右に振った。


「勿論試しました。けど無理です、ユニコーンの力は聖にがっちり食い込んでいて……。今の俺じゃ、あの力をどうこうするのは無理です。音無先輩の狼や……先輩の、魔女みたいに」


 そう。先輩は小さく呟き納得した。


「そういうわけで、僕はボランティア倶楽部に入部させてもらいます!」

「……ハッ!? 入部してくれるの、聖ちゃん!」


 これまで呆けていた部長が、聖の言葉で覚醒した。聖ちゃんと呼ばれた彼は複雑な表情をしていたが。


「……どの道、僕を元に戻す可能性があるのは相沢くんしかいないようですし、それなら彼の傍にいて常日頃から色々試す機会が多い方がいいですし」


 なんだかんだで、協力の約束は果たしてくれる。いいやつだ。


「それに……彼との約束ですし」


 やばい、なんでそんな艶かしい言い方をするんだこの男は。思わずドキッとしたじゃないか。まずい、まずいぞこれはこいつは男なのに。


「……? 相沢くん、どうしたんだい?」

「どうもしねえ! 俺はまともだ!」

「……?」


 畜生、キョトンとした目で俺を見やがって。可愛いじゃないか。いやだめだそんな感想を抱くな俺。


「でも性別が変わったりして、学校の方はよく受け入れてくれたわね」

「ああ……それはさっきお話した僕を育ててくれた人が、この状況を見越して色々と仕込みをしておいてくれたんです」

「良かったわねぇ……流石に性転換なんてあたしらじゃ手に負えないもん……」

「はい……けど書類上の訂正より、現実の生活での行動を訂正する方が大変ですけど」


 そりゃそうだ。彼のこれからの学校生活や私生活を思うと、その苦労は想像を越えて大変なものになるだろう。


「とりあえず」


 四之宮先輩は机から一枚の用紙を取り出した。それは俺も書いたことのある、入部届のプリントだ。


「書いてもらおうかしら」

「分かりました」


 聖は制服の胸ポケットに差していたペンを取り、記入を始めた。胸、膨らんでるなあ。


「草太くん? どこ見てるの?」

「スケベね、貴方」

「頼むから僕をそんな目で見ないでくれ」


 女性陣からガンガン責められ、俺は果てしなく凹んだ。


「けど嬉しいなあ、部員が増えて」

「そうね。役割分担も見直さなきゃならないわね」

「それはマネージャーである俺の役目っすね!」

「お手柔らかに頼みます、先輩、相沢くん」


 そして彼は名前を書き、性別欄の男女の男の方に丸を付けた。


「「「そこは女でしょ」」」

「イジメだああああぁぁぁぁっ!!」


 新入部員の嘆きの声が、旧校舎に木霊した。

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