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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
73/260

魔法少女と黒十字

「よっ」


 翌日、登校して教室で会った一野聖に昨日と同じ挨拶をした。


「おはよう」


 席に着く彼に手を上げて自分の席に鞄を置くと、聖が俺の元へとやってきた。


「放課後の予定は?」

「お前に付き合うんだろ」

「そうだったね。じゃあその時に」

「帰りながらどうするか決めるか」


 お互いに頷き合うと、彼は自分の席へと戻っていった。

 入れ替わりにやってきたのはダブルオーの二人だ。不気味な踊りをしながら俺の机の周りをうねうねと蠢いている。気色悪い。


「お前……俺たちを捨てたのか?」

「お前に抜けられていっぱい悲しい」

「止めろよ。お前らは二人で一つのダブルオーだろ。最初から俺の入る余地なんてなかったんだよ」


 俺は二人を諭すように優しい声音で言ってやった。


「三人で一つになろうぜ!」

「はぐれ三兄弟でいこう」

「くっつくな気持ち悪いやめてマジで頬を擦り付けるなぁ!」


 肩を組んできた二人が両サイドから俺にすりすりしてくる冗談抜きで背筋がぞくぞくと怖気立ち鳥肌が立ってきた。


「見苦しいんだよおめーら」


 ゴツン。

 両側にいた二人が頭を押さえて除霊された悪霊のように去っていった。

 俺を両拳で救ってくれた救世主は京子だった。


「助かったぜマジで」

「あんなおぞましい光景見せられていい気分しないっての。なあ?」


 京子が呼びかけたのは隣の席の委員長だ。


「う、うん……二人には悪いけど、ちょっと」


 委員長の笑顔が引きつっている。腕を擦っているのは、俺と同じように鳥肌が立っちゃったからかもしれない。


「悪いねえ。二人が俺にちょっかいかけてきたせいで」

「本当だよ。あぁ気持ち悪い気持ち悪い」


 女子にそこまで言われるのは若干同情してしまうが、これを機に二人も行動を改めてくれればと思うのである。


「ちくしょうあいつだけ女子と話しやがって……」

「おのれおのれおのれおのれ……」


 ダブルオーの席の方から呪詛が聞こえてくる気がしたがそっちからの声には耳に蓋をして聞かないようにしよう。


「今日も一野と一緒に帰るのか?」

「ああ」

「また二人で街を散策するの?」

「まあ……そんな感じかな」


 本当のことを言えないから昨日に続いて嘘をついて誤魔化すしかないことが徐々に申し訳なくなってきた。


「私らも連れてけよ。裏道の名店から何から教えてやるぜ」

「いや! 今は聖と二人でのんびりゆっくりでいいかなって……」

「ちぇっ。じゃあいいよ。智花ー、今日どっか寄って帰ろうぜー」

「いいけど、今日は部活いいの?」


 京子と委員長は二人で放課後談義を始めた。彼女たちから開放されホッとしていると、その向こうでは聖が他のクラスメイトの女子に絡まれていた。困ったように笑っている様子を見ていると、どうやら俺と同じ目に合っているらしい。

 彼と目が合った。

 お互い大変だなと目配せすると、小さく苦笑していた。あいつとの距離が少し近づいた気がした。だからこそ、余計彼の助けになりたいと思うようになった。


――――――


「――てわけで今日も活動の方は休ませてもらおうと思います」

『うん、分かった』

「全然顔出せなくてすいません」

『いいっていいって。君がいない間は全部カリンがやってくれてるから』


 スマートフォンから聞こえる音無先輩の声の向こうから、四之宮先輩が不平を漏らす声も小さく届いてきた。今度部室に行った時は面と向かって四之宮先輩に謝罪と感謝をしておかなくては。


「早ければ明日には顔を出します。それでは失礼します」

『ハーイ』


 プツリと電話が切れたのを確認し、校門で待ち合わせていた聖と共に歩き始めた。


「すまないね。君も部活に行きたかったろう」

「いいってことよ。次にボランティア倶楽部に行く時はお前も連れて行く予定だしな」

「ふふ、期待しているよ」


 俺だってその期待に応えたい。彼の力がきっとボランティア倶楽部の助けになってくれるはずなのだから。


「それで今日はどこへ?」

「ああ……力の許容を受け渡すからには、変身してもらってた方がいいと思うんだよな、多分。四之宮先輩に力の拒絶を受け渡そうとした時もそうしたからさ」

「ということは変身できる場所が必要だね」

「パッと思いついたのは昨日と同じ公園だけど、人目がゼロってわけじゃないからな」


 あるいはボランティア倶楽部の部室も候補に浮かばなかったわけではないが、彼をあそこに連れて行くのは入部してもらう時だと勝手に決めていた。


「…………あ」

「どうしたんだい?」


 一つ思い出したことがある。この間の倶楽部活動で先輩たちが変身した場所があるじゃないか。

 思い立った俺は聖を連れ、とある住宅街を抜けた先にあるとある古びた洋館まで案内した。


「――それでこの人を連れて来られたんですね」

「ああ」


 慣れた様子で踏み込んだ俺と覗うようにしてついてきた聖を出迎えてくれたのは、ボロボロになった洋館の意志が具現化して現れた異国風の少年である。

 詳細な説明は省いたが、彼が変身しても問題のない場所を探してここに来た旨を伝えると、


「構いませんよ。貴方たちにはお世話になりましたし、手伝えるのでしたら喜んで」


 断られることなく協力してもらえて安堵した。

 同時に朽ち果てた館内の様相は花が咲き乱れるように一変し、整然として荘厳な立派な洋館の模様に様変わりしていた。


「こちらの方が生きた人間には落ち着くかと思いまして」

「悪いな気を遣ってもらって」


 少年のサービス精神に感服しつつ、これでどれだけ強力な力を振るっても現実の世界に影響はない。ユニコーンとタウラスが使える異相転移みたいなものだ。


「よし、それじゃ始めるか!」


 と勢い込んで後ろに控えていた聖に声を掛けたが、彼は茫然とした様子で辺りを、俺たちを見ていた。


「……ボランティア倶楽部っていうのはこういう事態にもよく遭遇するのかい?」

「よく……てわけじゃないな。俺も裏の活動を経験したのはここが初めてだし、いつもは学校の部活や行事のお手伝いが殆どだな」


 長らく活動していれば、こういう異常事態にも頻繁に遭遇するのかもしれないが、俺もまだまだ入部したての若輩者なのだ。


「想像してたよりちょっとハードだね……」

「入部の約束は忘れるんじゃないぞ?」

「上手くいけば、ね」


 彼が背に回した手を前に戻すと、ユニコーンデバイスが持たれていた。いよいよ俺の力が彼の力の役に立つのか、試す時が来た。


「不思議な空間だな」


 突然現れた闖入者の声が聞こえ、その場にいた三人の視線がエントランスホールの入り口へと向けられた。


「お前は……!」

「双葉明……」

「ど、どうやってここに?」


 俺たちがここに着いた時はいなかったと思う。いたら聖が気付かないはずはないだろう。この空間に来てから、あいつが入ってきたのか。

 少年も驚いてる様子だ。恐らく想定外の現象なんだろう。


「あいつに近付くなよ。やばい奴だ」


 俺は少年を匿うように腕を横に伸ばし、ジリジリと後退した。


「どうする聖。まだ試しちゃないぞ」


 彼に聞こえるだけの声量でぼそぼそと話しかけたが、答えは返ってこない。どうすべきか、彼もまだ考えを巡らせている最中なのだ。


「こんな所で遊んでいていいのか?」

「遊んでいるわけじゃない。お前に勝てる力を手に入れるための特訓を始めるところだったのさ」

「ほう」


 ぴくりと明の眉が上がる。聖の言葉に少なからず興味を抱いたようだが、すぐに平静に戻った。


「だがどちらにせよ特訓とやらに時間を費やす暇はないぞ」

「どういうことだ?」

「お前が邪魔しなきゃすぐにでも聖は力を発揮できる」

「……」

「かも……しれないんだぞ」


 口を挟んだら睨まれたので俺の語尾はしゅんしゅんと尻すぼみになっていった。あいつこわい。


「……昨日黒十字から作戦の通達があった。今日、貴様を炙り出すために野臼町一帯を火の海にするとな」

「なっ……」

「おいおい冗談じゃねえぞ!」


 そんなことを聞かされたら、すぐにでも現実に戻って何とかしなくちゃという思いが芽生えてくる。だが何故こいつはその作戦を聖に明かすんだ? まさかもう実行されているのか。


「黒十字だって戦力は疲弊しているはず。この間もさして強くない怪人しか出せなかったじゃないか」

「残った幹部三人が全員動く」


 幹部……それって滅茶苦茶強いんじゃないか? それが一斉に三人も動くっていうのは一大事じゃないか?

 聖の表情を伺えば、これまで見たことがないほど険しいものだった。


「どうやらジェノライナーとの戦闘で貴様の居場所に目星を付け、全ての戦力を以って決着をつけるつもりらしい」


 俺はどうすればいい。必死に考え、背中にいる少年に小声で訊いた。


「電話通じるか?」

「え?」


 唐突に声を掛けられて目を丸くしていた少年だったが、首を左右に振った。


「分からないです……」


 試してみるしかないってことか。聖のことといい、何から何まで初めて尽くしで試すしかない現状だな。


「俺にも戦闘に参加しろと通達が来た。その前に貴様に用があった」


 手を差し伸べた明は淡々と告げてきた。


「力を寄越せ。貴様に代わって俺が黒十字を潰してやる」


 それは初めて聞いたぞ。明も黒十字を倒すつもりがあったのか。いやしかしそれを信じる程あいつのことを知っているわけじゃない。


「力は渡せない。君に渡しても黒十字に奪われても、所詮黒十字に利用されるのがオチだ」


 だよな。そんな甘言を受け入れる程お人好しじゃないよな。


「そうか……なら戦え。どの道俺を倒さねば幹部の元へは辿り着けん。そして貴様が俺を倒すことなど万に一つも」


 明が聖に指を突きつけ……こそこそとしていた俺を見つけて俺の方へ動いてきた。


「お前、何してる?」

「いやいやちょっと電話……帰りが遅くなるって。ああすいません先輩。えっとそういうことなんで……そっちの方はお願いします」


 幸いにも電話はちゃんと通じた。プツンとスマートフォンの通話を切ると、俺は聖の肩に手を置いた。


「なあ、幹部とやらの方は気にすんな」

「は?」

「お前は目の前のあいつに集中しろ。大丈夫……現実の方は心配いらねえ」


 肩に置いた手にグッと力を入れる。それが彼を安心させたのか、それとも俺の工作を読み取ったのかは定かじゃないが、彼はふと笑った。


「……そうだよね。まずは明を倒さなきゃ進むことすらできない」

「ああ!」


 それから小声で耳打ちすると、彼は確かに頷いてから腰にデバイスをあてがった。


「おい、もっと離れとくぞ」

「は、はい」


 館の主の少年を連れ、壁際まで移動する。ここまでしか離れられないけど、近くで俺たちがうろちょろしていてもしょうがない。


「実力差を見せられてまだ無駄な戦いをするか」

「無駄かどうかは君が決めることじゃない」


 対峙する二人がそれぞれのベルトの角に手をかけた。


「僕たちが決める!」


 紅と蒼の閃光を迸らせ、二人の戦士が声を張り上げた。


「「変身!」」

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