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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と力量差

 二人が声を重ねて叫び、ベルトの角を手で弾く。

 紅と蒼の輝きが聖と明から発せられ、渦巻き絡み、尋常ではないエネルギーの放出を感じさせる。

 俺は鈴白さんを抱きながら、巻き起こる二つの力の渦を見ているしかできなかった。


「お兄さん! あの、二人は何をしてるんですか!」

「彼らは……鈴白さんと同じスペシャライザーだよ。俺と一緒にいた彼は、後から来た男の人と敵同士だから、戦わなくっちゃならないんだ」


 彼女は言葉を失ったようだった。いきなりこんなことに巻き込んで、本当にすまないと思った。


「――ぉおおおおっ!」


 光を裂いて飛び出したのは一本角を携えた白鎧の戦士だ。エストルガーと名乗るその中にはクラスメイトの一野聖がいる。

 彼の拳が未だ巻き起こる闇の柱へと突き刺さった。先手を取った聖の攻撃は届いたかのように見えた俺の耳に届いたのは、


「――温いな」


 という男の声と背中を蹴り飛ばされて横に吹き飛ぶエストルガーの体が大地を削る音だった。


「くっ……」


 苦しげな呻きを漏らしながらも体勢を立て直し、片膝を付いて顔を上げたエストルガーの視線の先にいたのは、闇を纏い現れた人の形をした者だった。

 外見の形はエストルガーと方向性の似たコンセプトなのか、共通する部位も見られる。だが大きく違うのは黒く染まった鎧の色、そして頬から後ろに向いて伸びる輝く二本で一対の蒼天色の牙だった。

 一瞬、なんと心の安らぐ優しい色を灯しているのだろうかと感じ入ってしまった。状況にそぐわない想いを抱いてしまったことに、魅了でもされてしまったのかと肝が冷えた。

 俺は頭を振った。正気に戻れ、あいつは敵だ。

 そして今、聖を挑発するようにクイクイと指を曲げている。

 誘いに乗ったか、聖は地を蹴り飛び出した。

 弾丸の如く突き進む聖の拳はしかし、黒鎧の顔に届くことなく止められる。


「ぐはァ……っ」


 エストルガーの白鎧、その腹部に敵の蹴りが深々と突き刺さっていた。完全に動きを見切られているが故の、完璧なカウンターだ。

 再びエストルガーは吹き飛ばされ、二人の距離がまた開く。


「しっかりしろ、聖!」


 アドバイスも手出しもできない俺にはそんな檄を飛ばすことしかない。

 返ってきたのは聖ではなく、敵の声。


「何を期待している。諦めろ」

「ま、まだ始まったばかりだろ!」

「無理だな。こいつは最後に戦った時から全く成長していない。俺は違う。こいつが雲隠れしている間にもタウラスの力を俺のものにするために血反吐をはく程の修練を繰り返した」


 一足で間合いを詰める明が繰り出す拳を、聖は腕を交差させ前面で受け止める。


「がああああっ!」


 だがその体はガードごと殴り飛ばされた。先程から一方的に吹き飛ばされてばかりの現実は、二人の実力差を如実に表していた。


「異相転移もできない様子だった時は目を疑った。同時に落胆した。一時は好敵手とさえ認めていたが、俺は既にお前の遥か先にいるらしい」

「勝手なこと言いやがって……聖が全力を出せれば、きっと負けないはずだ!」


 聖の代わりに俺が言い返していた。すると黒を纏った男の首が俺と鈴白さんの元へと向けられた。あ、やべ、ちょっと勢い任せに喋っちゃった。


「こいつはこれ以上力を引き出せまい。ここが限界だ。それはあいつ自身がよく分かっていることだ」


 てっきり敵意や攻撃の矛先がこちらに向くんじゃないかと良からぬ予感がして身構えたけど、意外にも言葉だけで済んだ。

 あいつが言っている限界っていうのは、多分聖の耐性のことだ。それが働いている限り、今のあいつじゃこいつに勝てないと、そう言われているのだ。

 そしてそれが事実なのだと、今目の前で繰り広げられた。それを覆すには、俺が聖を助けなきゃならない。


「はぁ……はぁ!? ぐぅあああ!」

「どうした、聖!?」


 突然彼が苦しみだした。今になって攻撃の痛手が苛んできたのか。


「見ろ、これが半端者の末路だ。自分の力を支配できず、逆にその身を苦しめられる。何と惨めで滑稽な姿だ」


 まるで発作を起こしたように痙攣し、のたうち回る姿が俺の瞳に痛々しく映る。これがユニコーンデバイスの力に対する強すぎる耐性の代償、水と油が混ざらないかのような不和を生み出しているんだ。


「もういいだろう。その力を俺に寄越せ。貴様より有効に活用してやる」


 まるで最後通告。とどめを刺すつもりだという気配が伝わってきた。


「……どうして?」


 これまで黙って二人の戦いを見ていた鈴白さんがぽつりと呟いた。


「どうして戦ってるんですか?」

「だからあの黒いのが敵で、多分聖の力を手に入れようとしてるんだ!」

「でも……悪い人じゃないです」

「な……」


 何言ってるんだ鈴白さん。そう思った時、彼女はするりと俺の腕から逃れていった。


「ちょ、待って!」


 彼女はその小さな体で二人の間に割って入ろうとしている。引き止めようと駆け寄るが、俺には聖と明の戦いの場に飛び込む度胸がすぐに作れず、足が竦んでしまった。

 その隙に鈴白さんは躓きそうになりながら懸命に走り、明のそれ以上の接近を阻むように苦しむ聖の前で両手を広げた。


「……退け」

「ひぐっ、……ど、どきません!」


 立ちはだかる少女は威圧感に屈さない。そこにいるのはもう少女じゃない、何かを守るために戦う魔法少女。


「これ以上誰かを傷付けるなら……」


 打ち鳴らす手の間から現れたのはトゥインクルバトン。両手で構えたバトンの先端を黒い戦士へと向けた。


「……なるほど。お前たちが巻き込まれたのはそういうことか」

「どうしてこんなひどいことをするんですか!」


 鈴白さんはまだそんなことを言っている。その優しさが彼女自身を傷つけやしないか、それが怖い。


「それが俺の成すべきこと。奴を倒すことが俺の全て」

「ううん。本当はそんなことのできない優しい人のはずです! そうじゃなきゃ、手を差し伸べたりしないはずです!」

「……退け!」

「どきません!」

「もういいだろ!」


 言い合いを続ける二人の間にとうとう俺は割って入った。さっきまでは怖くて近づけなかった空間に鈴白さんが切り開いてくれた細い道を頼りにして。


「なんだお前」


 視線の矛先が鈴白さんの傍に立つ俺の方へと変わった。怖気づきそうになるけど堪えることができたのは、鈴白さんが近くにいてくれるからだ。


「お前が強いのはよく分かったよ! お前なら聖をいつでもサシで倒せるだろうな! だから今日はもういいだろ!?」

「お前の指図を受けると思うか?」


 伸びてきた手が俺の胸ぐらを掴み上げる。足が地面から浮きかけ、その手首を両手で掴み苦しみに耐えようとした。


「くっ……、このまま続けるなら、あんたの望んでないことになるぞ……!」

「なにぃ?」


 疑問符を口にする男の手に掛けられたのは、鈴白さんが突きつけていたバトンの先端。これ以上の俺への狼藉を食い止めていた。


「……」

「な? 望んじゃないだろ……」


 うるうるとした瞳の鈴白さんを見下ろしていたが、やがて俺を掴む手を離したことで俺の尻は地面にぶつかった。


「お兄さん! 大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。俺は平気」


 胸ぐらを掴まれた時はやばいと思ったが、こうして開放されたってことは思った通りだ。

 こいつは聖を打ちのめしはするが、他の誰かに手を挙げようとはしない。それを示してくれたのはこの少女だ。別にあいつが優しいと言っていたのを真に受けたわけじゃない、ただ止めに入る鈴白さんを退かそうと思えば力づくでやれたはずだ。それをしなかったってことは、あいつの中に少なくとも彼女を傷付けないようなルールがあったんじゃないかと考えたからだ。

 こうして誰もいない場所に移したのも、あいつ自身が他人を巻き込みたくないと思っていたから、なのだろうか?


「まあ、いい」


 踵を返し、黒の戦士が俺たちの元から離れていく。今回は見逃してもらえた……そう判断していいのか。


「次はこうはいかない。誰の邪魔もなく、その首をもらう……と言っても、聞いてはいないか」


 そう言うと男の体から鎧装が弾け飛び中空に消え去った。それに呼応するように、俺たちの背後にいた聖からも鎧が消えた。


「聖!」

「大丈夫ですか!?」


 彼の体にはいくつも痣が刻まれている。あの短い時間でこれ程の痛手を負わされてしまっているだなんて。


「あ、あれ? ちょっとあんた達、どうしたのさ!?」


 その声にハッとして辺りを見回すと、そこは荒廃とした開けた大地ではなく、見慣れた公園の広場。声の主は、真神さん。

 俺たちの様子に気付いた店長は車内から駆け出し、一緒に聖の傍に膝をつく。


「これは、君が……?」


 真神さんが視線を向けた時、既にそこには黒服の男の姿はなかった。


「……っ、とにかく彼を安静な場所へ。ベンチでいいかしら」

「はい! 運びます」

「音央ちゃんはハンカチを濡らしてきて」

「分かりました!」


 真神さんの指示を受け、俺と鈴白さんは聖の手当に奔走した。

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