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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と好敵手

 彼が標的を街で見つけたのは偶然だったが、その場を彷徨いていたのは必然だった。

 エストルガーの居場所を探っていたジェノライナーがやられたという報告はその日の内に黒十字結社の本部へ通達されていたが、通達が届くより早く彼がそれを知ったのは、去年の十二月以来感じることのなかったエストルガーの力が開放されるのを感じ取ったからだ。


「やはり近くにいるか……エスト」


 探し求めて数ヶ月。何ら手掛かりのなかった状況に見出した一筋の光明。

 長らく破顔していなかった顔をにやりとさせ、その場から姿を消した。

 そして翌日、隣町まで足を伸ばした彼はとうとう見つけたのだ。学生服を着て誰かと共に歩く標的の姿を。

 彼は後を追った。あいつを倒すこと、それが目的なのだから。


――――――


「うにゅぅ~?」


 マジカルシェイクにやって来た下校途中の鈴白音央が目にしたのは、何やら真剣に隅っこのテーブルで話し合う相沢草太と、同じ制服を着た知らない男の人だった。


「かざりさーん」

「いらっしゃい! 何か飲む? あまーいカフェオレを考案中なんだけどさあ」


 真神風里からあまいと聞かされれば試飲したくなる気持ちがむくむく小さな胸の中で膨らむが、ぶんぶんと首を振ってカウンターにぶら下がるようにちょこんと手を乗せ、爪先立ちになって車内の店長に気になったことを先に訊ねることにした。


「お兄さんは何をしてるんですか?」

「今はお友達と秘密の内緒話中。邪魔しちゃダメよぉ?」


 店長は口の前で指を立てると、ぱちんと片目を閉じて少女に釘を差した。


「し、しませんー! わたしだってそれくらいのせちゅ、せつ……節度、ありますー!」


 ぷんすかと頬を含まらせて怒る様子は小動物のようにしか思えず、風里はぷすくすと堪えた笑いを漏らした。


「今日はお手伝いしてくれるの?」

「はい、いいですよ!」


 からっと表情を笑顔に変えると、軽快な足取りで移動販売車の中へ。

 しばらくして再び太陽の下に現れた時、彼女の格好は中学校の制服からマジカルシェイクの制服へと変わっていた。


「んー、戦闘衣装もいいけどやっぱり音央ちゃんにはうちの制服が似合うわねえ」

「えへへぇ」

「どう? 将来本当にうちで働かない? 良い条件で雇うわよぉ?」


 指をワキワキと動かし怪しげなオーラを発して誘う店長に怯えながら、


「か、考えておきますぅ……」


 とだけ彼女は答えた。


「それじゃあ今日も張り切って!」

「はぁい!」


 二人は拳を振り上げて気合を入れた。

 が、肝心のお客さんはというと隅っこのテーブルで話す男子だけ。閑古鳥が鳴いていた。


「ま、まあ開店したばかりだからね。まだまだこれからよ!」

「は、はい! ……あ、お客さま!」


 広場を窺った音央が気付いたのは、こちらに向かって歩いてくる黒い格好をした男の人だった。

 今日のお客さんは男の人が多くって緊張しちゃいます……けど、ちゃんとお手伝いしなくちゃ。

 そう胸の中で呟くと、トレイを小脇に抱えてトタトタと歩み来るお客さんへと近付いた。

 丁度、今いるお兄さん達と同じ高校生くらいの人かな?

 そう考えたせいなのか元来のおっちょこちょいのせいなのか、足元の注意を怠った少女は何の段差もない場所で躓いた。


「ひゃ」


 ぽすんっ。

 小さくて軽い彼女が青年にぶつかると、簡単に跳ね返されて尻餅をついてしまった。


「きゃっ」


 小さな悲鳴と一緒に、トレイを落としたうるさい音が辺りに木霊した。

 地面にぶつかったお尻がひくひくと痛むが、まずはぶつかってしまったお客さんに謝らないとと顔を上げた時、痛みに潤んだ瞳に飛び込んできたのはぶつかってしまった相手が手を差し伸べてくれている姿だった。

 ムスッとした表情は怒っているせいだと思い手を取るのを遠慮していたが、青年が一向に手を引かない様子を見ていると自分が手を取るか立ち上がるまでそうされている気がしてしまう。

 ビクビクと右手を伸ばそうとした時だった。二人の間に割って入る人影は、先程まで知り合いのお兄さんと一緒の席にいた金髪の青年。


「気を付けて! こいつは……黒十字だ!」


 くろじゅうじ?

 キョトンと首を捻る彼女は肩に触れられてはっと我に返った。


「鈴白さん! 大丈夫?」

「はわわっ! は、はい!」


 肩を抱くようにして声を掛けてきたのは知り合いのお兄さん。いきなり彼の顔が近くにあったせいで緊張し、頬がぽんっと紅くなった。

 けど、転んだところを助けに来てくれたにしては……少しおっかない感じがすると敏感に感じ取っていた。


「なになに? どうしたの?」


 騒動に気付いた風里が車内から顔を覗かせる。一体何事か分からない音央は店長に答えることはできなかった。


――――――


 俺は鈴白さんを抱え起こすと、一歩二歩と後退った。


「何もされてないかい?」

「は、はい……」


 突然の事態に状況を呑み込めてないのか、呆けたような返事だった。

 俺だっていきなり聖が駈け出した時はどうしたのかと思ったが、黒十字だと口走れば慌てて近くで倒れていた鈴白さんの身の安全を確保しに行った。


「ちょっとぉ。店先で揉め事?」


 背後の車内からそう漏らす真神店長には何と説明したらいいものか。逃げるように促すべきか。


「えっと……わ、悪い奴が来ました!」

「悪い奴? 勘弁してよぉ、この間も来たじゃない」


 度々すいません。何とかお店に被害を出さないよう聖に言ってみます。


「あの……」

「うん?」

「あの人、悪い人ですか?」


 腕の中の鈴白さんがそんなことを訊いてくるので、俺は大声で言い聞かせた。


「何言ってんだい! 君だって突き飛ばされたじゃないか!」

「いえ、あれは……」


 持ち前の優しさで庇おうとしているのかもしれないけど、そんなことをする必要はない。あの黒い奴は聖の敵、黒十字結社の手先らしいし。


「探したぞエスト」

「久し振りだね、探されたくはなかったけど」


 緊張の色を滲ませる聖の声色。相手は余裕を見せつけるように口元を歪ませている。

 恐ろしい笑みだと思った。怖気づきそうになるけど鈴白さんの手前、情けない様子は見せたくない。


「聖! ここじゃあ……」


 昨日のアーケード街のような惨状にしたくはない。真神さんにはいつもお世話になっているのだから。


「分かっている! 明、戦うというなら相手になるけど場所は変えるぞ」


 アキラ……それが今相対している敵の名前か。けど、敵というには昨日のジェノライナーとは大きく異なっている。あれは怪人、そして今いるこいつは人間だ。


「必要ない。ここでいい」


 俺も聖も息を呑んだ。そりゃあ向こうからすればここで戦って周囲を巻き込むことに何の抵抗もないのだろうが、これほど無碍に突っぱねられるとは。鈴白さんも店長も巻き込みたくはないのに。


「貴様ぁ……!」


 聖が語気を荒らげている。こんなに感情を露わにした雰囲気を垣間見せるのは初めてのことだ。


「フン、誤解するな」


 だが俺たちの内心を読み取ったらしい男が鼻で笑い、地面に手をついた。


「何をする気だ!?」

「黙って見ていろ、半端者が」


 男が気合を込めた瞬間、ドンと体を震わせる異常な気配を感じた。


「はわわっ!」

「なんだこりゃ!」


 俺は鈴白さんと抱き合ったまま、周囲を警戒していた。そして、世界が変わっていく瞬間を目の当たりにした。

 空は黒く、荒廃とした剥き出しの地面は鈍く蒼く、その景色が地平の果てまで続いている世界。

 中央公園とは全く違う場所に忽然と俺たち四人だけがやってきたようで。


「これは……異相転移!」

「知っているのか、聖!」

「ああ。デバイスの力を持つ者が使える、違う空間への転移技だと思ってくれ」

「違う空間だって?」


 言われてみればこの世界、以前体験した魔女の領域と空気が似ている気がする。あれも現実とは少し違う異なる世界だったけど、見た目だけの変化ならこちらの世界が圧倒的、まさに別世界だ。


「フン、これで貴様も周りに遠慮することもないだろう」


 男の言う通り、場所が公園でなくなったということは周囲のモノにも人にも被害を与える心配はない。さっきまで背後にあった移動販売車と店長も、この世界にはやってきていない。


「俺とお前しかいない……ここが貴様の墓場と」


 男が聖に指を突きつけ不敵に言い放つ。

 と、そこでそいつの視線と俺の視線が交わった。そして首を傾げるような仕草。


「おい、お前」

「……あ、俺?」


 聖に向けられていた指先がスイと俺の方へ移動してきた。


「なんでここにその子と一緒にいる?」

「いや何でと言われても……あんたがここに移動させたんじゃないのか」

「ここには俺と同じ力を持つエストしか連れてくるつもりはなかった。何故普通の人間であるお前たちがいる」


 同じ力……つまりあの場にいたスペシャライザーを移動させたということか? 

 だとしたら俺と鈴白さんがここにいるのは納得だし、あの場にいた唯一の普通の人である真神店長がいないのも頷ける。


「彼らは関係ない! 僕が相手だ!」


 聖が右手を広げ俺たちを庇うように立ち塞がる。


「離れよう。ここにいたらあいつの邪魔になる」

「あ……はい」


 俺は鈴白さんを離さずに対峙する二人から更に距離をとった。


「……まあいい、俺の目当ては貴様だけだ。貴様を倒し、その力を手に入れてやる!」


 聖の持つユニコーンデバイスを奪うつもりなのか。

 だが宣告する男は既にデバイスをその手にしている。いや、しかしあれは聖の物とは形状が違う。

 聖のデバイスはユニコーンの横顔を模した一本角だが、あれは獣を正面から捉え左右に太い角が生えた形状をしている。

 腰にあてがえば、それは音無先輩のスマートフォンと同じようにベルトとなり装着された。

 同時に聖もユニコーンデバイスを召喚し、装着した。


「「変身ッ!」」

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