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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と説得

前回の話の最後に追加したシーンがありますのでそちらから目を通してもらえるとありがたいです。

「よっ」


 翌日、登校して教室で会った一野聖の顔には腫れも痣の痕も何もなかった。


「おはよう」


 席に着く彼に手を上げて自分の席に鞄を置くと、来た方向へ戻り再び聖の席の元へ。


「放課後暇か?」

「時間ならあるよ」

「じゃあちょっと付き合ってくれ」

「どこへ?」

「二人っきりで話せるところまで」

「いいよ。それで君が納得してくれるのなら付き合おう」

「っし。じゃあ放課後、先に帰んなよ?」


 微笑みは同意と取っていいだろう。これで放課後の時間は確保してやった。

 これまで俺の尾行を撒いて接触しないようにしていたのは間違いないが、昨日のせいで向こうも接し方を変えてきたようだ。俺を納得させる、っていうのは、これ以上勧誘しないよう話をつけるつもりなんだろう。

 自分の席に戻って考えたのは、どうやれば彼を納得の上で倶楽部に引き入れられるかということだったが、そんな俺の思考を邪魔する存在が机の回りにやってきた。


「相沢ぁ」

「珍しいなぁ」


 ダブルオーの二人が不思議な踊りをしながら俺の周囲をぐるぐるしている。鬱陶しい。


「あのイケメンと話すような関係をいつ築いたんだよ? 昨日か?」

「意外だ……お前は俺たちとおなじはぐれグループだと思っていたのだが」

「はぐれで括るな。あと一野もどっちかっていえばはぐれじゃねえの?」

「あんな奴を俺たちと同列に扱うんじゃねえ!」

「畏れ多い……」


 ああはいはい、と手を振って二人を追い払うと、今度は隣の席の委員長が話しかけてくる。


「けど相沢くんが一野くんと話してるところ、私も初めて見たよ」

「ああ……学校で話すのは俺も初めてだ」


 メガネの奥の瞳を丸くして驚いてる。確かに初めて話すのに放課後の約束を取り付けるなんて不思議に見えて当然だろう。


「じゃあ学校の外で色々話してんのか?」


 むぐ、と喉を鳴らしてしまったのは、頭の上に京子の腕が乗っかってきたからだ。次から次へ話しかけてきて、そんなに珍しかったのか。


「まあ、色々とな。なんだよなんで気になってんだよ」

「草太と一野じゃ接点全ッ然ねえじゃん。だから変に思うんだよ。なあ?」


 と、腕を乗せたまま隣の委員長に話を振りやがった。


「それ言うなら京子と委員長だって一目見ただけじゃ接点あるようには思えねえよ……なんで委員長は京子と仲良いの?」

「私と京子ちゃん? 中学校の頃からずっと同じクラスだったから、自然と……かな?」

「ほら、すげえ接点あるだろ? 転校してきたばっかのお前と一野じゃ……」


 そこで彼女が何かに気付いたらしく、言葉を区切った。俺も今、一野との数少ない接点に気が付いた。


「転校生同士だから気が合うとか?」

「そうそう! お互いまだ街に慣れてないから二人で散策するんだよ!」

「えっと……慣れてない人同士で?」

「なーんか……妙な話だなそれも」


 委員長と京子から訝しげな眼差しを向けられてしまった。確かに今の言い訳は苦しいものがあったと自分でも思ったが、ホームルームの予鈴が二人の視線から俺を救ったのだった。

 今の俺と聖の関係ってクラスメイトにはそんなにおかしく見えてしまうのか。これはさっさと話をつけなきゃならないなと思った。

 良い方に転ぶか悪い方に転ぶかは分からない。だけど今日、放課後にバシッと決めてやる。先輩たちにも悠長にしている時間は残されてないかもしれないのだから。




 下校時、学校を出るまでの間に色んな女子から見られた気がする。

 なんであんたが一野くんと一緒にいるのよ!

 と、言葉にされなくとも言われているのを背中で感じた。気がした。気のせいかもしれない。気のせいと思っておこう。


「お前って帰る時いつもあんなに女子に見られてるの?」


 学校を出て街に降りてから、本題とは関係のない話題で話しかけた。関係ない話題だが、気になる話題ではある。


「いいや? 帰る時に挨拶を交わすくらいで、特に見られていることはないよ」


 じゃあなんで今日はあんなに視線を感じたのだろう。


「今日見られていたのは君と一緒だったからかな」


 口に手を当ててクスクスと笑う姿は絵になる。


「笑えねえって。刺すような視線も感じたっつうの」


 少し大袈裟に言いながら通りを歩き、探していたのはこの間音無先輩と話をした喫茶店だった。

 確かこの辺りだったはずだが、不思議なことにその店の看板どころかあった場所すら見つけられないでいた。

 狐につままれるというのはこういう少し不安を覚える気持ちのことだろう。

 仕方なく、俺はその通りを素通りして中央公園を目指した。


「一体どこへ案内してくれるんだい?」

「中央公園にあるマジカルシェイクってお菓子の移動販売車知ってる?」


 いいや、と首を振られた。といことは彼はあそこに集まる魔法少女やスペシャライザーには遭遇したことはないのか。俺も会ったことがあるのは鈴白音央ちゃんだけであるが。


「そこの店長さんのことは少し知ってるから、内緒話をさせてくれって頼んだらテーブル貸してくれると思うんだ。そこで話そう」

「ああ、いいよ。それでちゃんと話をつけよう」


 やっぱり向こうはそのつもりだった。笑って賛同してくれて、説得が上手くいきそうな雰囲気を感じさせてくるけれど、音無先輩が言った通り、その顔の下には変わることのない堅い意思を秘めているはず。それをどう切り崩すか、俺のボランティア倶楽部マネージャーとしての力量が試されるのだ。

 中央公園の更に中央。広場になっているところに今日もマジカルシェイクの移動販売車は鎮座していた。店外に並べられた五つのテーブルにはお客さんの姿はなく、車の中にいる店長、真神風里さんがいるのみだった。


「オー、相沢くん! いらっしゃあい」


 そして真っ先に俺の姿に気付いた店長は、元気な声で出迎えてくれた。


「ご無沙汰です。この間は先輩の誕生日に色々助力してくれてありがとうございました」


 快活に笑う彼女に、俺はすっと頭を下げた。


「いいってことよ! 誕生日は盛り上がった?」

「おかげさまで」


 うんうん。満足気に頷く真神さんだったが、世間話はそこまでですぐにお店の店長の顔に戻った。


「それで。今日はお友達を連れて来てくれたの?」


 店長に視線を注がれ、隣の聖は軽く頭を下げた。所作一つとっても丁寧で、かっこいい。

 そして店長の顔になった彼女には申し訳ないことだが、今日はお客さんとして来たわけじゃないのだ。


「あの。ちょっと彼と話をしなくちゃならなくって。それで、あんまり他人には聞かれたくないことなんで」

「いいよー。隅っこのテーブル使っちゃって」


 話が早い! こんなにすんなり受け入れられて俺は狼狽えそうになるし、聖も少々驚いた様子だ。


「話が早いね……」

「俺も驚いた……」

「はは! そういう話をしたがる子が割りと利用してくからね。男の子同士ってのはあんまり記憶に無いけど……まあ気にせず、気の済むまで話し合ってってくださいな」

「あ、ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げ、聖はまた小さく会釈した。

 女の子たちの憩いの場として、かなり色々と利用されてたらしい。だからすんなりと受け入れてもらえたんだろう。その子たちって言うのが、スペシャライザーかどうかまでは流石に知ることはできないけれど。

 一番隅っこのテーブルまで行くと、「取り敢えず座れよ」と連れに促した。

 彼の真向かいに俺も腰を下ろすと、さてどう話を切り出したものかと一瞬思案した。


「それで今日はどんな話をしたいのかな?」


 隙を突いて先に切り込んできたのは聖だった。テーブルに両肘を置き、組んだ手の上に顔を乗せて微笑んでくる。そういう仕草は女の子にしてもらいたいものだと思いつつも、向こうから訊いてきたのは僥倖だ。


「分かった。まずはうちの事情を聞いてもらいたい」

「それは昨日大体話してくれたじゃないか。それを踏まえた上で僕は断ったはずだけど」

「大体、だろ。詳細までは話しちゃない」

「話せるところまでしか聞いてないからね」

「だから全部話す」

「その上で決めろと?」


 俺が頷くと、彼の眉根が寄った。


「外に漏らせない重要な秘密もあるだろう。話して平気なのかい」

「お前にならいい。っつうかそうでもしないとこっちの切羽詰まった状況も分かってもらえないだろ」

「……分かったよ。君たちにも深い事情がありそうだ。聞くだけ聞こう」


 君たちにも、か。


「ありがたい」


 そして俺が彼に語ったのは、ボランティア倶楽部の活動で音無先輩に掛かる負担を減らすために運動ができ、戦える人物を探していること……これは昨日説明したが、改めて伝えておいた。そして負担を減らした音無先輩に、彼女が大好きなロードバイクで自転車部の助っ人に入って充実した活動をしてもらいたいと俺が思っていること。更に、もう一人の先輩である四之宮先輩の内に巣食う魔女の力がいつか彼女を呑み込んでしまう危機が迫っていること、最悪の場合だが先輩と渡り合える実力を持った部員を増やしておきたい旨を伝え、そうならないためにも対策や手段を一緒に考えてくれることも活動内容に含めて説明した。


「そういうわけで、だ」


 話の締めくくりに向かう。


「お前の実力を見た俺としては、是が非でも一野聖……エストルガーに力を貸して欲しいと強く願ってる」


 かなりシリアスに、おちゃらけた空気を出さずに彼の目を見て告げた。

 話を聞き終えた聖はテーブルに置かれたコーヒーを一口、流し込んだ。話の最中で真神店長が俺たちに持ってきてくれたサービスだ、ありがとうございます。


「昨日、一つ聞きそびれていたんだけど」

「何だ?」

「僕の力に何故気が付いたのか」


 それは俺の能力に関わることだった。ボランティア倶楽部の事情を包み隠さず話す中でも、俺を含めて先輩たちの具体的な能力については意識的に口にしないよう避けていた。

 けど、彼が気になるというのなら話しておくべきか。どうせ大した能力じゃない、先輩たちの力について訊かれるよりよっぽどマシだ。


「それは俺の能力だ。特別な力を持った相手の頭上に紋章みたいなのが浮かんで見えるんだよ。最近手に入れたばかりの力だから学校にいる時も誰かに気付かれないように能力を引き出す練習を軽くやってたんだけど、この間の体育の授業中にたまたまお前の上に紋章が見えて、それで何か力を持ってるんじゃないかって気が付いたんだ」

「そうだったのか……あの時」


 俺が京子の打球を額に受けた時のことだが、思い当たることがあったように目を伏せている。


「ちなみに今はその紋章とやら、見えているのかい?」

「いや。能力発動してないから見えないし……多分発動しても見えないと思うぜ。何度か練習してる時にクラスメイトを見ることがあったけど、紋章を見たのはこの前が初めてだった。普通に過ごしてる時は相手の上に何も見えないよ」

「だろうね」


 あれ。俺はそこでようやく気付いた。


「じゃあなんでお前はあの時力を使おうとしてたんだ?」


 そうじゃなきゃ、彼の頭上に紋章が見えるはずがない。普段から力を潜め、誰かを巻き込まないことに努めていた彼なら尚の事釈然としない。


「別に使おうと思っていたわけじゃない。ただ……僕にも色々とあるんだよ」

「訊かせてくれよ」


 俺はすかさず食いついた。相手が口を開く前に捲し立てた。


「こっちの事情を話したからそっちも話せって言うつもりはない。けど、今までの話を聞いてそれでも勧誘を断るっていうのなら、やっぱりそっちの事情も気になっちまう。先輩からはお前が嫌がるようならすぐ止めるように言われてるから、無理に訊き出そうとは思ってない。けどさ……」


 相手の意見を尊重するような物言いをしておく。そして、こちらの事情を聞いた彼なら、俺が訊けば自分の事情を話してくれるかもしれないという確信とは程遠い淡い期待を抱いていた。


「……分かったよ。そちらも踏み込んだ話をしてくれたんだ。こっちももう少し話そう」


 そして俺の期待に彼は答えた。

 やっぱりこいつは義理堅いのだ。昨日、先輩が自分たちの事を話したらこいつが自分の正体を語ってくれたことからそうじゃないかと思っていたが、はっきり言って賭けに近かった。そして俺は賭けに勝った。

 肝心なのはここからだ。彼の事情を取っ掛かりにして頑なな拒絶を切り崩す。いよいよ俺の口先が問われる。


「君の話に四之宮先輩が出てきただろ。僕の抱えてる問題は、その人と少し似ているんだ」

「まさか!? お前も力に呑まれて……」

「逆、かな。力に対する耐性が強いせいで力が外に溢れる……君が見たのは、偶然その瞬間だったんだよ」

「むぅ……力への耐性?」


 少し話が見えてこない。耐性っていうのはどういうことだろうか。


「説明には僕と黒十字のことから話した方が分かりやすいね。少し退屈な話になるけれど、耳を貸してくれるかい」

「ああ勿論だ」


 どんどん話してくれ、胸を張ってそう答え、一野聖の語る物語に聞き入った。

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