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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と一野聖

 目覚めは非常にすんなりとしていた。

 あれだけズタボロにされたのだからもっと痛みのある目覚めになるかと思っていた。

 なんともないってことは、先輩が完璧に治してくれたんだなあと理解した。

 思うことはたくさんあった。瀕死の俺の前に現れたのはあいつだったのかとか、あの後怪人はどうなったのかとか、結局先輩に頼っちゃったなとか、今俺どこにいるんだろうとか。


「……どこここ!?」


 横になっていた体がガバっと跳ね起きた時、初めて布団に寝かされていたことに気付いた。そして布団の傍に音無先輩が控えていたことにも。


「あ……」


 と声を漏らしたのは二人同時だった。それから、何か言いたくて話しかけようとしては遠慮するという躊躇いを孕んだ動きをお互い繰り返した。

 俺の言いたいことは決まっている。助けてくれてありがとうございますだ。

 けど、しばらく倶楽部を放り出してこそこそと活動していたから話しかけづらいというのもあるし、何よりこの前喧嘩別れみたいなことを喫茶店でしでかしてしまったことがその思いに拍車を掛けていた。

 音無先輩も同じモヤモヤがあるからなんて言っていいのか分からないのかもしれない。

 居心地の悪い空気を打ち破ったのは俺とは別の男声だった。


「驚いた。本当になんともないみたいだ」


 ハッとして顔を上げれば、開け放たれた襖の向こう、台所を背にしたクラスメイトが立っていた。


「具合はどうだい? 見た目の怪我は完治しているようだけど」

「あ、ああ……体の中も平気だ」


 そう告げると、彼はぎこちなくにこりと笑った。左頬に貼られたシップが彼が表情を作るのを妨げていたからだ。


「先輩から話を聞いた時は正直疑っていたよ。あの怪我が治るのかってね。でもこうして目の当たりにすると、貴女の力の凄さを信じるしかないですね」


 俺の足元の方で、一野聖が畳の上に腰を下ろして先輩と同じように正座した。俺と先輩の顔を見回してそう言う聖に、先輩は申し訳無さそうに話しかけた。


「やっぱりその傷、治すよ。そうしなきゃ気が済まないし」

「いえ。本当に気にしないでください。明日になれば治りますから、本当に」


 先輩の申し出を手を振って断っている。その表情は相変わらず笑っているが、困っているようだった。

 未だに正確な情報が掴めずにいる俺は、言葉を交わす二人を交互に見やるしかできなかった。何か訊いていいのだろうかと状況を呑めずにいたところ、


「……ここは彼、聖くんの住んでるアパートだよ」


 どうやら起きた時に口にした問いに答えてくれたらしい。ようやく音無先輩と一言ではあるが、言葉を交わすことができた。


「君があまりにも重傷で病院に運ぶしかないと思っていたところに音無先輩がやって来られて。色々あったけど、先輩なら君を治せると言ってくれたから一先ず人目を避けるために僕の所へ運んだんだ。さっきも言った通り、初めは疑っていたんだけれどね」


 つまりは先輩と彼のおかげで俺は無事に地獄の淵から生還することができたというわけか。

 そして俺には確認しておきたいことがあった。彼が助けてくれたというからには間違いないことだとは思うが、本人の口から直接聞いておきたかった。


「あの……サイの怪物から俺を助けに来たのは、お前……なのか?」


 ゆっくりとした口調で確かめる。彼は変わることのない柔らかな笑顔を浮かべている。


「自分が死にかけたのに気になるのは僕のことかい?」


 呆れたと言いたげに深く息を吐いた彼は、言葉を選んでいるのか少しだけ間を置いた。


「……いや、異常事態に慣れているからこそ気になるのかもしれないね」

「言われる程慣れちゃないよ。異常な世界に足を踏み入れてまだ数える程しか経ってないから」

「それにしては随分と余裕を持って……そうか、先輩たちと慣れ親しんでいるからかな」


 それはあるかもしれない、と彼に言われて納得しそうになった。


「君が横になっている間、ある程度は音無先輩から伺っているよ。ボランティア倶楽部に入ってスペシャライザーって呼ばれる者として活動してるって」

「おま……一野くんもそうなのかって聞いたんだけど、答えてくれないのか?」

「僕はスペシャライザーじゃないよ」


 違うの!? と驚いて目を見開いてしまった。てっきり間違いないと思っていたから余計に面食らった。


「と、いうかそういう呼称でまとめられているということを先輩に聞くまで知らなかったから。貴女たちが僕もそれに該当すると判断するなら、そうなんでしょう」

「驚かせるなよ……」


 やっぱり彼もスペシャライザーで間違いないようだ。まあ俺自身先輩たちからその名称を教えてもらうまでは全く知らないことであったから、彼が馴染めないと感じても当然だ。

 ごめんごめん、と言って立ち上がった聖が右手を後ろに回し、再び前に戻した時、その手には見たこともない機器が持たれていた。どこから取り出したのか、まるで四之宮先輩の手品のようだ。


「それ、君が腰につけていたやつでしょ?」


 先輩はそれに見覚えがあるようだ。聖は頷き、話を始めた。


「ユニコーンデバイス。僕はこれを使うことでエストルガーという超人に変身することができる。そしてその力を使って黒十字結社という軍団と戦っていたんだ」

「アーケード街に現れた化け物がその手先だった……」

「そう。そろそろ現れるんじゃないかと予測はしていたんだ。だから今日はもう関わるなって警告はしたんだけど……」

「そ、そうだったのか……悪かった」

「いや。僕ももっと強く言っておくべきだったよ。だから助けさせてもらった」


 くそう、見た目に違わぬ良い奴じゃないか。女子人気が高いのも頷けるぜ。


「次は僕の質問に答えてもらおうか?」

「お前の?」


 自分のことしか考えていなかったから、向こうから聞きたいことがあるとは想像していなかった。


「僕が正体を明かしたのは、音無先輩が倶楽部のこと、自分のこと、そして君のことを話してくれたからだと思って欲しい」

「……それが礼儀だと思った?」

「うん。分からないのは僕の正体を知らなかったはずの君が、この数日どうして僕に異常にこだわってきたのか」

「あ、ああ! 言っておくが別にお前に恋愛感情があったわけじゃ」

「れんあいかんじょう?」

「違います! 先輩反応しないでください!」

「いやぁ、ああ言っておけば気味悪がってもう付きまとわれないかと思ったんだけど……」

「そうたくん……ひじりくんのことが」

「違いまぁす!」

「拙かったかい?」

「拙すぎるわ!」


 カクカクシカジカとしてどうにか音無先輩には妙な誤解をされずに済んだところで、気を取り直して聖が咳払いをした。


「コホン。それで、何故君が僕に目を付けたのか。理由があるのならきちんと説明してもらいたいんだ」


 勿論、話すつもりだ。それに都合のいいことに今は部長もこの場にいる。音無先輩に顔を向けると、先輩も俺に気付いた。


「先輩。俺、彼をボランティア倶楽部に勧誘したいと思ってます」

「……うん」


 うん? ということは、勧誘に関しては先輩の合意を得られたということでいいのだろうか。


「その件は草太くんに任せるよ……」


 それにしては浮かない声音に聞こえる。本当にこのまま勧誘を続けて大丈夫だろうかと若干不安になってしまうが、それもこれもボランティア倶楽部発展のためだと思って話を進めた。

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