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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と後輩

 この数日、部室の雰囲気が妙に感じられることに、四之宮花梨はほんの僅かではあるが落ち着かない気分になっていた。

 席に着き、カバーを掛けた文庫サイズの小説を読む手を止めた彼女がぼそりと呟く。


「今日も彼は来ないわね」


 がたごとどさっ。

 その途端、目の前の席で全く進んでいない勉強をしていた音無彩女の机は筆箱やスマートフォンだけを残し、積まれていた教科書はノートは床に散乱していた。

 あたふたと拾い集めるさまを見下ろしながら、花梨は小さく溜め息を吐いた。


「ったく。何があったかは訊く気はないけれど、喧嘩したのなら早く仲直りはしておいてもらいたいわ」


 その言葉にノートを拾う彩女の手は止まり、


「……喧嘩じゃないよ」


 なんとも弱々しい声でそう答えるのだった。


「だったら」


 と言ったところで花梨はうっと言葉を呑んだ。

 彼女を見上げてくる彩女の瞳が、まるで少女漫画のそれのようにうるうると潤んでいたからだ。


「うわぁぁん、どおしよぉぉ!」


 そして即座に座る彼女の腰にしがみついてきた。これには花梨も面食らった。


「……どうするも何も、あたしとしては彼に部活に来てもらいたいだけで。彼が来ない原因が貴女にあるならそれを取り除いて……」

「……謝れってこと?」

「それが必要ならそうすべきね」


 何に対して謝罪が必要なのか、それは訊ねない。この数日彩女の方からこの事で相談がなかったということは、踏み入って聞かれたくない事で揉めているのだろうと彼女は察していたからだ。


「けどさ」


 彩女はまるでいじけた子どものように、花梨の太ももに人差し指を突き立て、のの字を書くように指を動かす。


「草太くん、電話もせずにメールだけだしさ……きっとあたしの声なんて聞きたくないくらい怒ってるんだぁぁ……」


 一層腰に強くしがみつくと、おいおいと漫画のように声を上げて泣いている。

 スカートはクリーニングに出さなくちゃ……。

 そんな心配をしながら、花梨は泣きじゃくる部長に言い聞かせる。


「だったら余計あんたから彼にアプローチしなきゃダメでしょ。年上で部長なんだから」


 部長はスカートに顔を埋めたまま、時折ズビズビと鼻をかんでいるような音が聞こえてくる。

 クリーニング代を請求しようかしら……。

 そう考えた矢先に顔を上げた部長の顔はくっしゃくしゃになっていた。


「話聞いてくれるかなぁ……」

「聞いてもらえるよう努力なさい」


 そしてタイミングを測ったかのように鳴ったのは、机に残っていた彩女のスマートフォンだった。


「丁度その彼からの電話よ」

「えぇ!?」

「良かったわね。口を聞きたくないほど嫌いになってたワケじゃないみたいよ」


 花梨がメガネの奥の目を細めて笑っていたのは、突然の電話に慌てる彩女が面白かったからだ。

 そんな彼女を尻目に、他人の電話だというのに花梨は遠慮なく自分が電話に出た。


「ちょっとぉ!」

「怯えた小動物のような目をして電話に出ようとしないからよ。もしもし相沢くん? お久しぶり」


 だが、ニヤニヤとしていた花梨の表情はすぐに硬くなった。

 電話の向こうから聞こえるのは息遣いだろうか。判然としない状況は、何かしらの異常事態に遭遇したために連絡してきたのではと思い至り、即座に電話を彩女に手渡した。


「ちょ! い、いきなり渡されても」

「いいから出なさい。様子が変だわ」


 花梨が真面目な声音に変わっていることはすぐに分かり、そしてそれは彩女の中にあるスイッチを切り替えた。


「もしもし、どうしたの? 草太くん?」


 返事はない。ただその代わりに、ただ一言。


「助けて」


 とだけ。


「行ってくる!」


 立ち上がり駆け出す後ろ姿には、先程まで泣いて花梨の腰にしがみついていた頼りなげな部長の面影などなかった。


「場所は?」

「携帯電話からの通話先なら分かる!」


 連絡先に登録している番号は追うことができる。そういうアプリが、彼女のスマートフォンにはダウンロードしてある。


「仲直りしてきなさいよ」


 丁度部室の扉を開けたところでそう言われ、一瞬彼女の動きが止まったが、


「うん」


 と頷き、彩女は部室を、旧校舎を飛び出していった。


「世話の焼けるる部長だこと」


 一人部室に残された花梨は椅子の背に体重を預ける。


「相沢くんがいなきゃあ雑務があたしに回ってきて大変なんだから。彼にはもっと頑張ってあの子をフォローしてもらわなきゃならないのに」


 そう。あたしの代わりに。

 彼女は左腕を抱き、心の中で呟いた。



 そして今、電話を掛けてきた相沢草太の現在地をサーチして探し当てた地点の上空へと到達する稲妻があった。

 普通の移動手段なら三十分。ブレイブウルフの足でも全速力で数分は掛かるはずの道程を殆ど時間を掛けずに到着することができたのは、彼女の能力の一つである雷光速の動きである。

 隣町までの移動はワイルドエナジーの消費も大きかったが、何に変えても急がなければという思いから負担を顧みずに能力を使っていた。


「……あそこ」


 電話の発信があった地点の近辺まで来れば、正確な場所までは彼女の犬耳が導いてくれる。

 騒々しく異変を感じさせる所があるし、何より微かに黒い煙が立ち上っているのが見えた。

 街中で人目がありそうだ。なるべくならあまり顔は見られたくない。

 そう思い、首輪からなびくマフラーを数回、口元に巻きつけてから異変の起きている地点へと降り立った。

 道の向こうではアーケード街の入り口で火と煙を上げる自動車が転がっている。今は人気はいない。

 と、彼女の視線の先、道路沿いのコンビニから歩み出てくる白い影。一際目を引く角を額に携えた、白い鎧装を身にまとった異形の存在。その腕に抱えられるは彼女が探しし可愛い後輩。


「――」


 傷だらけの後輩の姿を見た瞬間、マフラーに隠された彼女の口元はバリバリと歯を噛み締める激しい音を立てた。

 胸の内に渦巻いた憤怒の矛先は、彼女は知らないがその後輩を助けた者へと向けられた。

 大気を震わす咆哮に、エストルガーは身構えた。

 敵意? 怪我人を抱えているのに新手の相手をする訳にはいかない。そもそも何者? 黒十字の怪人とは全く違う姿形だけど。


「その子を放せえぇぇええ!!」


 白色の一角獣に漆黒の魔狼が襲い掛かる。

 エストルガーとブレイブウルフ。それぞれの物語を背負った二人の邂逅はあまり平穏なものではなかった。

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