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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と捜索

「なにシケた面してんだよ」

「お天道様が出てるというのにお前の周りだけ湿気がすごいな」


 体育の授業中、数日前と全く同じ場所で同じ台詞を吐きながら俺に絡んでくるのはダブルオーの二人だった。


「あっち行けよ鬱陶しい」

「連れねえなあ」

「共に行こう体育館」

「また覗きか……懲りないな」


 嘆息する俺についていく気が全くないと見るや、二人は立ち上がった。


「じゃあちょっくら行ってくるわ。俺らのチームの試合が始まるまでには戻ってくる」

「必ず生きて帰ってくる」


 坊主とメガネの二人組がダバダバと走って行くのを呆れ気味に見送る俺の両手には、ソフトテニスのボールが一つずつ握られていた。両方の手で柔らかなモノを揉めば能力の発動が早くなるのではという仮説を確かめるための修行中だ。


「先輩たちの役には立たない能力だけどな」


 だが、先輩たちの役に立ちそうな人を探すことはできる。というかこの前の体育の時間に力になる可能性のある人物を見つけていたかもしれない。

 京子の打球が直撃する寸前、エンブレムアイが捉えた紋章。その持ち主はこのグラウンドにいる。

 先日と入れ替わって女子はフットボール、男子は野球をしているが、俺がグラウンドで注視している人物はただ一人。今バッターボックスに入っているクラスメイトの一野聖……ヒトツノヒジリ。

 俺と同じで今年からこの街に現れた高校生であり、引っ越してきた彼の中学生時代以前を知る者は誰もいない。ダブルオーの二人もそれほど親しくはなく、事前に彼について訊ねてみたが皆が知っている程度のプロフィールしか知らなかった。

 そして男の俺が言うのも癪だがイケメンだ。両親のどちらかが外国人らしく、金髪碧眼。それでいて日本人的な線の細さと異人のスタイルの良さが合わさってカッコイイというより美男子。はしたなく騒ぎ立てる女子は目に見えていないが、クラスの中での人気はトップだろう。その隠れた人気の高さに陰で歯噛みする男子も多い(無論ダブルオーもだ)が、当人にそれを鼻に掛けた様子もなく男子にも人当たりの良い態度を崩さず接してくる。なので一部の男子も心奪われているとか何とか。

 そんな彼だが人と積極的に関わろうとしないため、クラス内での影は意外と薄い。


「……」


 なので、今覗きがバレて先生から逃げるダブルオーの方が、良くも悪くも人からの注目は集めてしまう。

 俺自身、エンブレムアイで紋章を見たのが彼の頭上ではなかったかと気に留めるまでは、そういえばクラスにかっこいい奴がいたな程度の認識だった。

 もしもボランティア倶楽部に誰か誘うとしたら彼しかいない。というか、彼しか探せなかったのが真相だ。

 この数日、人目のつかない所に赴いては、校内を行き交う生徒をエンブレムアイで観察していたが、都合良く見つかるはずもなかった。

 一野聖も観察していたけど、数日の間で彼が頭上に紋章を現すことはなかった。

 学校内で魔力やそれに類する特別な力を解放することはまずないだろう。だから校内でスペシャライザーを見つけることは絶望的だということは分かっている。

 この間の体育の時間も、紋章が見えたと思ったのはほんの少しの時間だった。もしくは自分の見間違いだったのではないかと自信さえなくなってくる。

 もしも見間違いだったのなら、今の俺はソフトテニスボールを二個揉みしだきながら男を観察しているただの変態さんだ。

 更にもしも、だ。彼もしくは他に誰かスペシャライザーを見つけられたとして、その人物が音無先輩の代わりを務めるに相応しい人物でなければならないという条件もある。

 先輩と同様に運動ができ、先輩と同等の戦闘力を有しているか。ボランティア倶楽部の裏の活動を内緒にしてくれるという信用に足る人物であるかも大切だ。

 授業中にこうして一野聖のバッティングを見ていると、運動神経は人並だろうか。ピッチャーから打ったボールはサードとショートの間をするりと抜けていくが、レフトに捕球された。一塁には間に合ったが、走る速さも目を見張るものではない。野球の一打席だけで断定できるものではないが、至って平凡な運動神経なのではなかろうか。


「ナイスバッティン!」


 グラウンド脇に控えているチームメイトが送るエールに笑顔で応える一野聖。何て爽やかな奴だ。


「とは言えあいつ以外に取っ掛かりがねえんだよな……」


 ボール弄りを止め、膝に置いた腕で頬杖をついて爽やかイケメンを見守っていると、


「あ」


 目が合った。ついと目を逸らしたのは、別に彼にドキドキしたからではないので悪しからず。


「ドゥホアッ!?」


 そして背けた顔にドンピシャで突き刺さるサッカーボール。顔面で一番出っ張っている鼻の頭が焼けるように熱くなるのを、空を見上げながら感じていた。


「相沢くん!」

「お前なんでいつもそう都合悪い場所にいんだよ!」

「委員長……京子……」


 いち早く駆けつけてたクラスメイトの名を口にした。別に俺を心配したからじゃなくて自分の蹴ったボールの先に俺がいただけのことなんだろう、それくらい分かっているさとキッカーであるソフトボール部の女子に目で語りかけた。


「俺が死んだらあの覗き魔たちを一緒に地獄に送ってくれ……」


 それだけを言い残し、俺はがくりと事切れた。

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