魔法少女と後悔
対面していた後輩が彼女の中の激情も持ち去ってしまったのか、音無彩女は気の抜けたように窓の外を眺めていた。
外を行き交う人々が彼女の瞳に映り込むが、外の人は彼女の視線などまるで感じていないかのようにただ自分の進む先を見て歩いていた。
勢いに任せて酷いことを言ってしまった。自分で勧誘しておいて、自分で突き放すとは、本当に自分勝手な先輩であると自覚させられていた。
だが後輩はそれに屈せず、自分の意志ですべきことを宣言して去って行った。なんと強い子だろうか、アイアンウィルの名に相応しい強い心を見せられた想いだ。
それに比べて、自身の何と矮小なことか。
食器の擦れ合う音に気付き、テーブルに視線を落とした彩女が目にしたのは、淹れたてのコーヒーが湯気を立てているところだった。
カウンターを見ると、店主の男性が彩女の飲んでいたコーヒーカップを片付けているところであった。
口髭を蓄えて白髪交じりの髪を後ろに流した男性は一瞬だけウィンクをしてみせた。
「ありがとうございます……」
温かいものに交換してくれたことに礼を述べ、シュワシュワと泡を弾けさせる真っ黒な液体を一口含んだ瞬間、
「ブフゥァーッ!」
と炭酸仕立てのコーヒーが激しく飛沫し、テーブルを広々と汚した。
「なん、なん、なん!?」
不意打ちで衝撃的なコーヒーを振る舞われたせいで酷く咳き込む彩女の顔は、色々とべちょべちょになっていた。
そこに横から差し出されたのは清潔な白いハンカチ。背筋を伸ばし立つ店主の男性が、彩女を見下ろしながらまたもウィンクを飛ばす。
「ありがと……貴方の仕業じゃないですか!」
ハンカチを引ったくるようにして、顔をぐしぐしと拭う。
店長はもう片方の手にしていた布巾でテーブルをサッと拭う。
「ああもう……酷いなあ」
そう言いながら、最後にハンカチで目を押さえた女子高生は尚も不平を漏らして肩を震わせていた。
「もう……」
三回り程歳の離れた少女がハンカチで顔を拭うさまを、初老の店主だけが満足気に見届けていた。




