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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動三
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魔法少女と続・誕生日会

「続きまして! 古文のオヂ先生の物真似いきます」


 張り切って宣言したクラスメイトのダブルオーの大野がボランティア倶楽部の部室の扉から廊下に出ていき、再び入ってきた。背中を丸めて腰を落としたその姿はオヂ先生に瓜二つだ。


「アア……はいはい、それじゃ授業始めましゅよ」

「アヒャヒャ! 似てる! メッチャ似てる!」


 声真似までした大野渾身の物真似は音無先輩にバカ受けだった。

 ここは西台高校の旧校舎にあるボランティア倶楽部の部室。今大笑いしている人がこの同好会の部長である音無彩女さん、一学年上の先輩である。


「ねえ! 似てるよね!?」


 彼女が話しかけたのは一番近くに座るクラスメイトの四之宮花梨先輩。ボランティア倶楽部の一員であり、音無先輩の一番の友人だ。


「まあ……そこそこね」


 そうは言うけど眉がピクピク動いてるし口角も上がりそうだ。大野がプルプル震える手にチョークを持ち黒板に字を書くフリをした時、プフッと息が漏れた。

 実際に大野が黒板に字を書くスペースはない。何故なら今、そこには黒板一面を使って音無先輩の誕生日を祝うメッセージが書かれていたからだ。

 今日は先輩の誕生日。そして、俺は友達と一緒にそれを祝うパーティを、ここで開いていた。


「あいつにこんな持ちネタがあったとは……ごめん、鈴白さんは全然分からないよね」

「んぐっ……。でも、皆さん楽しそうですから大丈夫です」


 ここにいる中で唯一この学校の生徒ではない、中学生の鈴白音央さんに話しかけた。隣の席に着く少女は、切り分けられたバースデーケーキをもぐもぐしていた。お皿を置いてそう言ってくれる口の端には、生クリームがたっぷり付いていた。


「おい岡田、次お前なんかやってくれよ。交代だ」


 オヂ先生の物真似を終えた大野が席に戻りながら、隣の席の岡田を煽った。

 やれやれと立ち上がった岡田が先程まで大野がいた場所へ動いた。


「あいつ、何やるんだろうな?」

「さあ……岡田くんって読めないよね」


 小声で話しているのは、大野と岡田と同じく俺のクラスメイトの柏木京子さんと委員長……中園智花さんだ。

 みんな、先輩の誕生日ということでパーティの準備まで手伝ってくれたいい人たちだ。


「ではメロン先生の物真似を」


 メロン先生というのは、俺たちの担任である夕張みどり先生の愛称である。


「ってお前いつの間にそんなのできるようになったんだよ!」

「いや、初めてやるが?」

「バカじゃねえの!?」


 ツッコミが追いつかない。何故か自身に満ちた表情で廊下に出ようと扉を開けた岡田だったが、その顔がメガネごと扉の前に立っていたものに当たってよろめいた。


「む、すまん」


 と、ぶつかった岡田に掛けられた声は、あいつがぶつかった相手からのものだった。


「いえ……」


 そう言う岡田が相手の顔を確かめた。室内にいた俺たちも、突然の来訪者に視線を注いでいた。

 それなりに長身な岡田より更に背の高い学生服の男子。坊主に近いほど刈り込んだ短髪も相俟って、高校球児のような印象を受けた。

 ぶつかった岡田は勿論、ここにいるクラスメイトと高校の生徒ではない鈴白さんは全員頭上に疑問符を浮かべていた。

 俺だって見知らぬ人物の突然の来訪に首を捻っていたが、やがてそれが見たことのある顔だったことに気が付いた。

 先日、一人で部室で留守番をしていた時に訪れた人だ。目立つジャージ姿でなかったから、すぐに思い出せなかったんだ。


「先輩……」


 椅子を鳴らして立ち上がった音無先輩は目を丸くしている。驚きの表情を浮かべたまま、岡田の代わりにその人の前へ歩み出ていた。


「済まない、取り込み中だったか」

「ええ……何か?」


 何事か言葉を交わす二人。どういう関係なのだろう。四之宮先輩なら何か知っているかもしれない。


「ゴメン、ちょっと出てくるね。すぐ戻ってくるから」

「悪いな。少し借りていく」


 考えている間に話が進んでおり、俺たちの見ている前で音無先輩はさらわれていった。

 しばし呆然としていた俺たちだったが、


「……今の、誰だったんですか?」


 という鈴白さんの言葉にハッとした。


「そ、そうですよ! あの人は先輩とどういう関係なんですか!?」


 俺はこの中で唯一事情を知っていそうな四之宮先輩に訊ねていた。

 オレンジジュースをズズーッと飲み終えた先輩が紙コップを置くと、


「ま……あの子モテるからね」


 ぼそりと口にした。

 モテるっていうのは、つまり、そういうことで呼び出されたのか?


「私行ってくる」

「京子ちゃん!?」


 一番に動き出したのは柏木さんだった。引き止めようとしているのか慌てる委員長に向け、


「だって気になるだろ!?」


 と目を白黒させていた。憧れの先輩のそういう場面に出くわしたせいに違いない。

 同意を求めるように詰め寄られた委員長がやがて、


「……それは、少しは気になるけど」


 伏し目がちにそう口走っていた。


「わ、わたしも気になります!」


 鈴白さんまで立ち上がっていた。女子三人寄ればなんとやら、ワイワイ騒ぎながら部室を出ようとしていた。


「お、俺たちも行くぞ!」

「行くのか」


 先輩が気になるのか女子を追いかけたいだけなのか、大野が叫んで岡田が続く。

 俺だって気になる。気になるが……と、俺の視線に気付いた四之宮先輩と目が合った。


「先輩は……どうします?」

「ああ。私は結果分かってるからパス」


 素っ気ない答えだったが、そう言える程お互いのことを理解している証拠なのだろう。流石です。


「気になるなら行ってみたら? 貴方、あたし達のマネージャーなんでしょ?」


 微笑んで、どうすべきか判断に迷っていた俺の背中を押してくれた。


「は、はい! すぐ戻ってきます!」


 四之宮先輩に見送られて、先にこっそり後を追っていた五人の所へと急いだ。

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