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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の課外活動
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飛甲翔女の帰還

 魔女を逃し、ブレイブウルフと拳を交え、音無彩女と別れた飛甲翔女レヴァテイン・カスタムは人の目の及ばぬ高さを飛び、帰る場所へと戻っていた。

 その眼下にあるのは大地と海の境界を人の手で造り替え、海洋の一部を埋め立てて建造された人工島。

 広大な敷地に建ついくつもの建造物は全て同じ機関の所有物である。

 洋上の学術研究都市、マガツ機関。それがこの人工島を占める組織の名称である。

 上空を飛翔していたレヴァテインが降り立っていったのは、機関の中枢部にあたる建物の屋上である。

 屋上にある扉は電子ロックで施錠されていたが、彼女が正面に立つと、


「戻りましたわ」


 その帰りを待っていたかのように重厚な音を立てながら左右に開かれた。

 情報を司る中央センターの管制室へ続く通路を進む九条玲奈は、休日だというのに東台高校の制服を身に纏っていた。深い理由があるわけではない、ただそれが正装と思っていたからだ。そしてここは正装をするに相応しい場。職場のようなものである。その点では学業が本分の彼女が制服を選択することは至極当然と言える。

 玲奈がウキウキした様子で歩いているのは、最近疎遠になっていた音無彩女と再会したためであることは言うまでもない。いつもにこやかな微笑を浮かべているが、今は常より僅かに口角が上がっている。だがその微細な変化に気付ける者は、この施設の中にはいない。

 浮かれているとは言わないまでも気分が昂ぶっているのは確かであったが、管制室の扉の前に立つとその気持ちは胸の奥へと仕舞い、表情はいつもの笑顔に戻っていた。ほとんど変わらない笑顔ではあるが。


「失礼します」


 扉が左右へ開き、彼女が入室したのは巨大なメインモニターを正面に据えた三層構造の管制室である。

 彼女が入ってきた扉は最上段の中央にあるメインドアであり、そのまま進めばこのマガツ機関を統括する人物が指示を出すために設けられた席がある。今はそこに誰も座っていないのを確認すると、一層目の縁へと歩を進めた。

 端から見下ろせば、段状になった二層目、三層目が一望できる。そこはメインモニターに映る街の地図やその周囲にあるサブモニターに流れる種々の情報を収集、解析など多様な処理を行うオペレーターが着くデスクが縁と一体になって備え付けられている。

 玲奈を出迎えたのはその場にいた四名だった。二層目、三層目に男女が二人ずつデスクに着き、帰還してきた魔法少女に視線を送った。


「お帰りなさい」

「お疲れ様」


 四人はそれぞれ作業の手を止め、口々に労いの言葉を口にした。マガツ機関に於いて数少ないオペレーターという役職に就いている彼らは他の職員とは異なり、男性は水色、女性は薄紅色のウェアを羽織っているためにすぐに違いが分かる。

 マガツ機関は表向きには新興エネルギーや先端を行く科学技術の研究機関である。実際にそれぞれの分野、学会で名を知られている者も少なからず在籍している。

 世間に公開できる研究も数多く行っているが、今はまだ世に出すには時期尚早なものもある。魔法、魔術、多種多様なスペシャライザーが扱う特殊な能力などがそれである。

 レヴァテインの武装である自律型戦闘支援飛行兵器群も、将来は軍用兵器として徴用され、やがて用途を変えて民間にも普及していくのだろうが、現在の近代兵器の水準を大きく超えた性能を有する兵器を公開するには、世界そのものがそれを許容するだけの体制が出来上がっていないのだ。それに加え、特定の魔法少女の魔力を主動力としているなど応用の効かない問題点も多々ある。技術の発表が近い将来になるか遥か遠い未来になるかは、それらの問題をクリアせねばならず、その日がくるまでは陽の目を見ることはない。


「所長は離席中ですか?」


 玲奈は声をかけてきた四人を見回しながら尋ねた。常に忙しい人であり、所在を知るなら誰かに訊くのが一番手っ取り早い。


「あの人なら外出中。知人に会いに行くと言っていたよ」


 耳からイヤホンを外す水色の制服を着た人物に教えられ、玲奈は困ったように首を傾げた。


「そうですか。出撃の報告をしようと思ったのですが……お戻りになられてからにしましょうか」

「そうね。いつ戻るか言わなかったから、時間がかかるかもしれないし」


 爪の手入れをしていた女性がそう告げた時だった。サブモニターの一つに通信が入ったことに気付き、五人の視線が集中した。


「それじゃあ先にスカーフの学習状況とメンテナンスに来てもらおっかな」


 呑気な声と共にモニターへ映しだされた若い男性の顔に、オペレーターの四人はガタガタと席を鳴らせて慌てだした。


「げっ」

「部長! ええ……たった今九条玲奈の帰還を確認しました」


 ある者は音楽プレーヤーを聞いていたことを悟られまいと急いで懐にイヤホンを隠し、ある者は報告しながらデスクの引き出しにネイルキットを仕舞い、また携帯ゲーム機を股に押し込んだり読んでいた小説を背中と椅子の背もたれに挟んだりと、寛いでいたことを悟らせまいと振る舞った。


「知ってるよ。さっき飛んでくるのが見えたからさぁ。九条くん、こっちに来てもらえるかい」

「ええ。魔道研に向かえばいいでしょうか?」

「そうだよ。そこで待っているから」


 分かりましたと答えると、玲奈は四人のオペレーターに向け小さく会釈した。


「それでは失礼しました」


 管制室から退室する玲奈を四人が見送ると、モニターに映る男が彼らに向けてニコニコと言い放った。


「君たち、まだ勤務時間中なんだからほどほどにしておくんだよ」


 居心地の悪そうに俯いたり、苦笑いを浮かべたりしながら、四人はその言葉を受け止めていた。




 管制室のあった中央センターから彼女が目指す魔製道具研究センターまでの道程は遠い。島の中央からほぼ南東までの距離がある。そのため職員には送迎のサービスがあり、無論彼女もそれを利用できるのだが、


「翔翼、展開」


 彼女の場合は飛んだ方が断然速い。中央センターの正面出入口から出るとすぐに魔法の翼を身に着け、空を舞った。

 広大な敷地に対して勤めている職員の数は二百名に満たず、ほとんどの者は勤務時間中は建物内で作業をすることが多く、外で誰かとすれ違うこともない。それに万が一誰かに変身するところを見られたとしても、それに驚いたりする者もいないが。

 マガツ機関で働くほとんどの者はスペシャライザーと呼ばれる異能の存在を認知しており、その中でも精力的に活動している九条玲奈を知らぬ者は皆無に近い。

 車なら五分以上はかかる距離も、彼女が飛べば一分にも満たぬ時間で辿りつけた。

 再び変身を解き制服姿に戻ると、磨製道具研究センターのロビーへ向かった。

 彼女を出迎えたのは受付にいたお姉さん、ではなく、白衣を着た笑顔の爽やかな男性であった。


「やあ待ってたよ!」

「お待たせしました」


 彼こそ中央センターのモニターに顔を出した人物であり、若くして磨製道具研究部を統括する部長である。その笑顔は、マガツ機関所長であり学校の先輩であった人物譲りのものである。


「ここじゃなんだ。歩きながら話そう」


 玲奈は頷き、通路を進む部長の後ろを数歩下がってついていった。


「体は大丈夫かい」

「問題ありません」

「スカーフの具合は」

「良好でした」


 報告を聞いて満足気に頷いて見えるのは、彼が笑みを絶やさないからだ。本当に満足しているのか、玲奈には分からない。


「後で詳細な報告書を頼むよ。所長にも見られてもいいようにしっかりと」

「承りました」

「じゃあスカーフのメンテに入ろう」


 通路の終端、二人の前には扉があり、脇にある電子パネルを男性が操作するとゆっくりと開かれた。

 扉の先にある世界こそ、磨製道具研究センターの中枢たる研究施設である。

 その場にいる十数名の研究員は部長と同じく白衣を着た者ばかりであり、中央センターにいたオペレーターとは雰囲気も異なり、まさに技術者といった風体の職員ばかりであった。

 ここに魔法少女である玲奈がいることに疑問を持つ者はいない。彼女が魔道研開発の武装であるスカーフを試験する、魔道研所属の魔法少女だからである。

 マガツ機関には彼女を含め十名近くのスペシャライザーが協力している。その中で、魔道研に所属しているのは九条玲奈唯一人である。なのでこの研究施設に自由に出入りできるスペシャライザーも彼女のみである。それ以外の職員やスペシャライザーが入場するにはそれなりに面倒な手続きが必要となる。


「おっと、その前に今日君を送り出した成果を聞いておこうか」


 それは彼女が出撃した任務の顛末を掻い摘んで説明しろということだろうと玲奈は理解はした。


「魔女討伐は追い詰めるも敵が一枚上手で逃げられてしまいましたわ」


 報告に際し、彼女は一つ隠し事をした。ブレイブウルフ……音無彩女と出会ったことだ。彼女には、魔女と交戦したが取り逃したと報告するために戦闘を行ったデータが欲しいという理由もつけて誕生日プレゼントとしての手合わせを頼んだ。だから報告はそのように行うし、彼女も無闇に自分の存在を言われるのも困るであろう。

 機関に所属する者としては相応しくない行為だが、彩女の友人としてはそれが正しいだろうと、玲奈は判断したのだ。


「……そうかい」


 しかしその報告を受け、部長の男は困り気味に頭を掻いた。その様子に玲奈はおや、と首を傾げた。何か不備を感じさせる点があっただろうか。

 振り返った部長の表情は相も変わらずにこやかであった。にこやかで、おぞましい。


「それでは本当の報告を」


 パチンと彼が指を鳴らし。

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