飛甲翔女の回想・3
スイーツ移動販売車、マジカルシェイク。商店街に店舗を構える以前、三年前はこの販売車こそが本店と言える頃、少女たちは足繁くそこに通っていた。
「九条さんの鳩ってさ」
「ポポちゃんがどうしました?」
店先に並べられたテーブルの一つで玲奈と彩女は向い合っていた。デザインの違う中学校の制服に身を包み、勉学に勤しむ日中に会えない代わりに放課後の僅かな時間を時折こうして共にしていた。
二人の前には、この店の店長である真神風里が新たに考案したトリプルカスタードシュークリームを乗せた皿があり、試食を頼まれていた。
あまり手が進んでいないのは話に夢中だからというわけではなく、甘味がくどすぎて一気に食べきれないせいである。
「本部との伝達以外にも何かお仕事してるの?」
「んー……伝達手段でしか働いてもらってませんわね。それを除けばただペットとして飼っているようにしか見えないでしょうね」
話の最中に二人の会話の席に舞い降りてきたのは、件の白い鳩である。自然な動作で玲奈が掲げた左手に止まった鳩の足には筒が取り付けられ、その中に組織と玲奈の間で必要な情報のやりとりが行われている。
今は丁度、本部から彼女の元へ帰ってきたところであった。
「こう言っちゃなんだけど、随分アナログな連絡手段だよね」
「デジタルな通信は便利ですけれど、セキュリティなどあってないようなものですから。肝心要の情報はこうして紙によるやりとりが安全安心ですわ」
筒から取り出した紙をブレザーの懐に仕舞い、左手をスッと振ると、鳩は空へと羽ばたいて近くの街灯の上で羽を休めはじめた。
「賢いなあ。うちのペットとは大違い」
そう言う彩女の頭は、普段よりボリュームが倍近くある黒髪が乗っているようだったが、その黒髪の半分は彼女の相棒、アギトだった。彼はそこで穏やかな寝息を立てていた。
「ペットだなんて言うと、パートナーだと怒られますわよ」
「いいんだよ別に。戦い以外に関しちゃ食っちゃ寝食っちゃ寝して庭駆け回って遊んでるだけだもん。日常じゃマジでただのペットよ、ペット」
世話を焼いていることを思い返してか、彩女が表情を歪めるのを玲奈は微笑んで見ていた。
「何をお話してるんですか!」
そこへ勢い良く飛び込んでテーブルに体重を預けてきたのは、茶色い髪を両サイドで小さく結んだ小さな女の子であった。背中に赤いランドセルを背負った小柄な少女は天真爛漫に二人に話しかけた。
「ちょっとオトナの話をね」
「あやめちゃんもれなちゃんも、わたしと四つしか違いません! ぜんぜん子どもです!」
「音無さんの冗談ですわ。お互いのパートナーのことについて少し語っていたんです」
小学四年生の女の子は街灯の上にいる白い鳩に大きく手を振り、次いで彩女の頭上ですやすやと寝入っているアギトに目を向けた。
「お寝んね中ですか?」
「うん。起こす?」
「起こしちゃかわいそうですから、このまんまでいいです」
「音央さんはお優しいですね」
玲奈に褒められた少女の表情が蕩けているのは、彩女の頭で眠る仔犬の無防備な姿に見惚れているからだ。
「音央ちゃんも学校帰り?」
「はい。誰かいるかなって思って来ちゃいました」
音央がテーブルから体を起こすと、桃色のスカートがふわりと揺れた。中学校の制服を着た二人と私服の小学生が親しげなことには訳がある。彼女らには共通の秘密があり、それを共有している数少ない面子の一員であった。
「これ、シュークリームですか?」
「ええ。真神さんの新作ですよ」
「ふぇぇ……二人だけずるいですよぉ」
シュークリームに羨望の、二人に批難の眼差しを向ける音央だったが、
「風里さんに試食させてくださいって言えばきっと喜んでくれるはずだよ」
「本当ですか!」
彩女からそう聞かされるとすかさず店長のいる移動販売車の方へと駆けていった。
「けどもらうのはいいけど」
「ちゃんと食べ切れるか心配ですわね……」
中学生の二人ですら辟易している暴力的な甘味に、果たしてあの少女が打ち勝てるのかどうか二人は心配で仕方がなかった。
こうして共に時間を過ごしているうちに、自然と二人の仲も密になっているのだと、玲奈は思っていた。少なくとも、魔法少女としての彩女と一番長く接しているのは知り合いの中では自分だと自負していた。
だから彼女と一番親しいのは自分であると思い込んでいた。それはただの思い違いだと知る発端の出会いは、数カ月後の元日のことであった。




