魔法少女と誕生日会
十時五十八分。
それまでは鈴白さんやクラスメイトと呑気に待っていた俺も、流石に焦り始めていた。
みんな何も言わない。
けど言いたいことがあるのはヒシヒシと感じる。
「……」
俯いて主役の到着をまつ鈴白さんの頭上越しに、横の席に着いている四之宮先輩に視線を送った。
「……」
彼女がコクッと頷いたので、俺は席を立った。
「どうしたんだよ?」
向かいの席に座っている大野が声をかけてくる。岡田、柏木さん、委員長も俺に注目していた。
「ちょっと電話してくるわ。すまん、もう少しだけ待ってくれ」
「貴方が謝ることでもないでしょう」
四之宮先輩がメガネの奥の瞳をこちらに向けてそう言ってくれる。
「それとも昨日までのようにあたしがあの子に連絡取ろうか?」
「いえ! これは企画した俺の仕事です! 今日は先輩は何も気にせずみんなと待っててください」
そう先輩に告げた時だった。
ドン、と腹に響く音が聞こえたかと思うと、部室が、校舎が揺れる衝撃を感じた。
足元がふらつき、倒れそうになるのをひとり堪えた。
「おいおい地震か?」
「京子ちゃん……」
腰を浮かせて警戒する彼女の腕に委員長が擦り寄っている。
「何かしら……まさか」
「カリンさん……?」
何事か感じた四之宮先輩に身を寄せながら、鈴白さんが不思議そうに見上げていた。
「大野くん……」
「やめろよ気持ち悪い!」
ダブルオーの二人は相変わらずだ。あんなに抱きついて……岡田は大野が好きなのか。
揺れはほんの一瞬だった。更に揺れがやってくるかと思い少しの間身構えていたが、その気配もなさそうだ。
「ちょっと外の様子も見てきますね」
とにかく俺は外に出て音無先輩に連絡を入れてみようとした矢先、ダンダンダンと激しい音がこちらへ近付いてきた。旧校舎の廊下をギシギシと鳴らし、部室の扉を開けて現れたのは、
「ギリギリ! セーフ!」
ハァハァと息を切らせて汗に濡れる額を拭う音無先輩であった。
「アウトよバカ」
室内から飛ぶ四之宮先輩の声。彼女が携帯電話で確認している時間は十一時〇一分を示していた。
「まままま! ようやく来てくれたんですからとにかく中へ!」
手を横に広げて促すと、先輩は肩を窄めてトコトコと入ってきた。
「みんな……遅れてゴメン」
珍しくシュンとしている先輩が頭を下げたところに最初に声を掛けたのは鈴白さんだった。
「いいんです。ちゃーんと来てくれましたから」
「そっすよ。一分くらいどってことないっす」
「今日は参加させてもらってありがとうございます」
「女の人の誕生日を祝うなんて初めてです。なあ?」
「俺はママの誕生日を祝ったことがあるぞ」
「……ま、誰も気にしてないようだし今回はいいんじゃない?」
「ですね。ほら先輩、早くそこの席に座ってください」
ちょっと遅れたくらい、ここにいる誰も気にしてはいない。四之宮先輩だけ呆れ顔をしていたけど、すぐに微笑んでいた。
俺に言われるまま音無先輩は唯一空いていた席に着いた。そこは鈴白さんが案を出して、委員長と岡田が書いた黒板のメッセージが一番良く見える正面の席。
先輩へ向けたお祝いの言葉。俺たちの作ったメッセージ付の花の折り紙。可愛い犬の絵。
黒板を見て呆けてる先輩に気付かれぬように俺の音頭に合わせ、みんなが声を揃えてくれた。
「音無先輩!」
そして鳴り響くクラッカー。
『誕生日おめでとう!!』




