魔法少女と待つ面々
「……なあ」
「どうした」
「あの二人近くね?」
ボランティア倶楽部の部室の清掃を終え、未だいない主賓以外の参加者は思い思いの席に着いていた。
黒板を正面に見据えることのできる席だけが空いており、他の机にはこの場にいる七人が座っているのだが、
「やはりそう見えるか。俺もそう思う」
ダブルオーの一人、岡田がメガネを光らせて向かいに座るその二人をじっと監視する。隣に座る大野の感じたことは彼の思いすごしではないようだ。
「そうか? あのくらい仲良かったと思うけど」
大野の隣に座っていたもう一人の人物、柏木京子が二人の会話に口を挟んだ。
「なあ?」
京子は逆隣の中園智花に更に話を振った。
「ん? うぅん……そうだね、ちょっと近いかな」
「えぇ? あんたもそう見えてんの」
なんでそんな風に映るのか分からないと首を捻る京子の視線は、他の三人と同じく向かいの席でアルプス一万尺を口ずさみながら手遊びをする相沢草太と鈴白音央に向けられていた。
「あいつって子どもの相手上手いんだな」
「知らなかったそんなの……」
京子も大野も、彼のそんな一面を見るのは初めてでありそう呟く。
「羨ましいな……」
「……羨ましいね」
岡田と智花は二人で同じ感想を口にして手遊びする男女を見つめていた。
「「イエーイ!」」
パンパンと手を叩き合わせていた二人は手遊びの最後に手の平を合わせた。
「鈴白さん上手だね。ついていくのがやっとだったよ」
「お兄さんもすごいです! 男の人でこんなにできた人、わたし知らないです!」
「小さい頃にやってたから。最近は全然やってねえしうろ覚えだったけどね」
きゃっきゃとはしゃぐ二人は静かな室内では少し異質だったかもしれない。
えへへと笑う二人であったが、音央の後ろで携帯電話を片手に時間をチェックしている四之宮花梨の姿に、草太は気が付いた。
「時間気になりますか?」
音央の頭越しにそう訊ねる。声に釣られて音央も背後の花梨に向き直り、彼らを見ていた四人も携帯電話を仕舞う女子生徒に注目した。
「ただ確認しただけよ。十時四十分……まだ慌てるような時間でもないわ」
「ハハハ、そんなに心配しなくっても大丈夫ですって」
「だといいんだけど」
この場にいる面子で音無彩女という人物を一番理解しているのは四之宮花梨で間違いない。その彼女が少なからず懸念しているという現実に、他の参加者が少しばかりの不安を覚えてもやむを得ないだろう。
「大野、なんか盛り上げてくれ」
「俺に振るなよ!?」
「こういう時はお調子者で剽軽なお前に頼るのが一番かと」
「変な評価下してんじゃねえ!」
草太の無茶ぶりに席を立って声を上げる坊主頭は、隣のメガネ男子に話題を投げた。
「お前、なんかやれよ」
「俺もアルプス一万尺がやりたい」
「しょうがないなあ……いいぜ」
「お前じゃない座ってろ」
岡田の申し出に仕方なくといった様子で応じた草太だったが、即座に拒否された。
「お前が戯れていた少女とやらせてもらう!」
「つっても、鈴白さんならもう委員長と戯れてるし」
「なにィ!?」
珍しく狼狽える岡田が横を向いた先には、楽しく手遊びに興じる音央と智花の姿があった。
「いいんちょさんも上手です!」
「ふふ、私も小さい頃よくやってたから、体が覚えてるの」
「じゃあ、次はお兄さんとですね」
「へ!?」
話に気を取られたのか、それまで完璧に息の合っていた手合わせがスカッと外れ、そこで二人の手遊びは止まってしまった。
「あ……もう一回、最後までやりませんか?」
「う、うん。次はちゃんとやるね!」
二人はまた最初から始め、
「終わったら次はお兄さんとですね」
「へ!?」
スカッと外れ、また最初からやり直していた。
二人の様子を羨ましそうに見ていた岡田に話しかけたのは京子だ。
「よう、そんなに手遊びしたいなら私がやってやるよ」
と、机にどんと右肘を置き、クイクイと手招きする。
「……手遊び?」
「それどう見ても」
「腕相撲じゃねえか」
京子を前に呆然とする男子三人を他所に、いつの間にか花梨も音央と智花の手遊びに混ざっていた。
いくらあの子でも今日という日に遅刻なんかしないだろう。
何故不意に不安になったのか。
本人もあずかり知らぬ無意識の内に彩女の身に何か起きているのを感じたのかもしれない。
しかしそれを確かめるすべもなく、皆と一緒にここでのんびり待つしかないのであった。




