魔法少女と試験勉強中
メールが来たことに気付き、四之宮花梨は携帯電話を開いた。
差出人はボランティア倶楽部の後輩。内容は案の定、明日の予定に関してのものだった。
「明日は十一時に部室に来てくださいですって」
「あ、草太くんからの連絡? あたしの方には来てないみたいだけど」
彼女と同じテーブルに着く音無彩女はスマートフォンを手にするが、新着メールの通知はなかった。
二人がいるのは音無家一階のリビング。一学期の中間テストの日が徐々に迫る中、二人で勉強会を行っていた。専ら、花梨が彩女に教えてばかりの現状であったが。
「主賓に詳細を知られたくないから時間だけ教えておいてって、彼からのメールに書いてあったわ」
「見せて」
「ダメよ」
ちぇっ、と小さく拗ねる彼女だが、続く花梨の言葉を聞けば表情を明るくさせた。
「貴方好みの賑やかなパーティになりそうだから、明日はちゃんと笑いなさいな」
「本当? もしかしてさっきの電話で許可するとかなんとか言ってたのが関係してる?」
「余計な詮索はしないの。明日になれば分かるんだから」
「ハーイ……そんじゃあ明日は一緒に十一時前に学校着くように行こっか」
「はい残念。貴方以外の参加者は三十分前に集合して当日の支度をしなくちゃならないの」
「ありゃ、そうなんだ。なら明日はみんなより遅れて学校に行くことになるんだ」
「遅れすぎて遅刻なんてしないでちょうだいよ」
「しないっての!」
雑談に華咲く折を見て、花梨はテーブルに広げたノート類を片付け始めた。
「そろそろお暇しましょうか。お夕飯に遅れてしまうわ」
「もうそんな時間……」
スマートフォンで時間を確認する彩女の言葉がプツリと途切れる。
「どうしたの?」
不審に思った花梨が訊ねると、強張らせた表情のまま顔を上げた彩女の口から恐ろしい言葉が零れた。
「この問題が分からないの……」
「……それ一年生でも解ける数式じゃない」
「習った覚えがないわ」
パーマがかった癖のある髪をくしゃりと掻くと、花梨は溜め息を吐きつつペンを手に取った。
「これ教えたら帰るわよ」
「へへえ。ありがとうごぜえますだ」
「応用よ応用、いい? まずは」
この調子で中間テストは本当に大丈夫だろうか、と思い悩まされる花梨であった。




