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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動二
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魔法少女と契り

「まずは手近な者……ネオがいい。しっかり世話をしてやれ」

「あ、はい!」


 龍の王に多少なりとも認められたのかな、と思うと心が浮かれ、ついつい深く考えもせず頷いていた。


「……とは言っても、俺なんて力をようやく使いはじめたばっかりで、鈴白さんたちに逆に世話されなきゃいけないんですけどね」


 頼りない愛想笑いを浮かべてしまうけど、すぐに表情を引き締めて言い直した。


「け、けど言ったからには精一杯頑張りますよ! これでも男なんですからね!」

「よくぞ言った!」


 力強く宣言したら更に力強く言い返された。思わぬ返答にキョトンとしている俺の腰に、鈴白さんの体が跨ってきた。


「では差し当たってまずは契りを結ぶことにしよう」

「え」


 両手首をむんずと掴まれると、そのまま持ち上げられるようにしてクゥちゃんの背中に押し倒された。


「えぇ! なんで!?」

「雄として張り切ると今言ったではないか」

「そういう意味じゃないですよ!?」

「分かっておらんな。もしお前の力が子に遺伝するものならば、より上質な母体を持つ者と契りを結び子を残すことが肝心であろう。万が一お前が死んだ時も、私はその子を観察していればいいのだ」

「なるほど……ってそうじゃなくてですね! 鈴白さんの体で勝手にそんなことしちゃまずいでしょ!?」


 俺はどうにか少女の手を払いのけようと腕に力を込めたが、一ミリたりとも動かない。押さえつけてくる力は少女のそれどころではない。


「心配するな。これでも幻獣奏者として選ばれた巫女の肉体だぞ? 優秀な子を産むことは私が保証してやる」

「違う違う! 俺高校生! 鈴白さん中学生! 分かります!?」

「年上が好みか? ならば問題ない。私は五十以上の周期を生きる幻龍王だ」

「違ーう!」


 人と龍じゃ認識に大きな差が存在するのか、もっとはっきりと拒絶しないと分かってくれないのか。


「ほら、こういうことをするのは本人同士の気持ちというやつが大切なんですよ? ね? だから鈴白さん気持ちを無視してこういうことをするのは僕にはできないんですよ、ね?」

「問題なかろう」

「あるんですってばあ!」

「こやつもお前を好いておるに違いない。体は充分火照っておるぞ」

「好きのベクトルが違うんですってば!」


 彼女の好きはお友達としての好きのはずで、こういうことをする好きじゃないはずだ。勿論それは俺も同じだ、こんなことをされて勘違いしてしまっては彼女に申し訳ない。


「お前は好いてないのか」

「好きですよ!? だからその好きに含まれる意味が」

「ならやはり何も問題あるまい」


 ペロリ。彼女の小さな舌先が首筋を舐め上げる。


「あふん」


 全身がゾクゾクと打ち震えた。超気持ちいい。

 いやダメだって! 何を感じてるんだ!

 必死に理性を奮い立たせた。


「んっ……んむ、チュ」


 よおし音と気持ちよさに惑わされるな。気をしっかりと持つんだ。と懸命に言い聞かせる。

 鈴白さんの頭が首筋に顔を埋めて舐めたり吸ったりするのに気を取られながら、今の俺にできることを頭の回転をフルにして考える。


「わ……分かりました。大人しく受け入れますよ」

「ンッ? はぁ……。そうかそうかようやく素直になりおったわ」


 体を離してくれた時に見えた彼女の唇はぬらりと輝いていた。思わず赤くなった顔を背けてしまう。その様を見て一層いやらしく笑うのが横目で見えた。だからそういう表情は鈴白さんの顔には相応しくない。


「そ、それより手を放してくれませんか?」

「自由になって逃れるつもりか」

「あんたの下から逃げられるわけないでしょ!」


 フフン、と彼女が笑う。俺の力じゃ腰だけで押さえつけてくる少女の体を退かすこともできないのはよく分かる。


「こんなんじゃ……その体を抱きしめることも出来ないでしょ」

「ほう?」


 愉快そうに唸ると、鈴白さんの手が俺の腕を開放する。腕を自由に動かせるようになった俺を、幻龍王の眼が観察してくる。

 あまり見抜かれるとこちらの考えを見透かされそうでいい気分じゃないが、動かないわけにもいかない。


「お? お? お?」


 伸ばした腕を腰と肩に回し、細い少女の体を優しく抱き寄せる。なるべくその目に見られないよう、彼女の頭は俺の真横に引き寄せた。


「先程まで慌てふためいていた初心の割に随分と積極的ではないか」

「嫌いですか?」

「構わん。好きにしろ」


 お言葉に甘えて、俺は彼女の頭を撫で始めた。彼女も、さっきと同じように首筋に唇と舌を這わせてくる。集中、集中だ。

 柔らかな髪の毛に触れているとホッとしてくる。幻龍王が色々してきて体が熱くなってくるけど、それ以上に目が熱を帯びてきたのを感じる。

 再度、目に映る世界に紋章がはっきりと浮かび上がってくる。

 鈴白さんの体をより強く抱きしめる。強い意志を持って。


「こらこらあまりがっつくな。どれ、そろそろ王の技を……」


 言葉が途切れた。今その身に起きている違和感を鋭く察したのかもしれない。幻龍王は少女の右手を眺めながら呟いた。


「……なるほど」


 やっぱり分かったみたいだ。俺が鈴白さんの体に強く触れることで自分の脳力の影響を与えていることに。


「やってくれたなあ、小僧」

「なな、なんのこと……アハハハー」


 耳元で静かに囁かれた声には感心するような色の奥底に、針のように突き刺してくる冷たさも感じさせた。まさか怒らせてしまったのかと思うと、乾いた笑いしかでなかった。


「ネオの身にかけた我が魔法式を体を触れ合わせることで拒絶できるか……さしずめ能力の伝播、意志の分配といったところか」


 鋼鉄の意志を用いた意志の分配。自分と同じ能力を一時的に他人に付与することができる、応用技みたいなものだ。

 以前、この応用の力のおかげで先輩たちのピンチを救うことができた。そして今度は、自分と鈴白さんの貞操の危機を守るために使わせてもらった。

 紋章が視えるようになり、自分の力と向き合うことになった今、あの時のようにちゃんと力の分配ができるのか少し心配だったが、うまくいきそうだ。


「だが無茶をする」

「へ?」

「私が魔力を抑えているからよかったものの、体を借り受けた時と同等の力を出していればお前の頭は壊れていたかもしれんぞ」

「あ、アハハ……で、でも今の紋章の光の強さなら大丈夫かなって……なんとなく」


 鈴白さんの頭上にある幻龍王の紋章は、確かに力強く輝いている。けど最初のように暴力的な強さや、ここに来る前に視た魔女のような禍々しさもなく、いけるんじゃないかという直感があった。とはいえ、


「すみませんでした……」


 幻龍王の言うことも尤もであり、素直に反省しておいた。

「しかしこのような使い方があったとは、見抜けなかった私の不覚とはいえ……少々腹が立つ」

「すす、すみません!」


 さてどうしてやるか、と囁かれた直後、首筋に小さな痛みが走った。

 顔をしかめた俺の前に鈴白さんの顔がくると、その口元には赤いモノが付着していた。


「ふむ。これで勘弁してやろう」

「……ありがとうございます」


 噛まれただけで許してもらったのか。それだけで良かったならもっと噛んでもらっていいくらいだ。


「ほれ、しっかり抱いていないと我が術を退けるのに時間がかかるのだろう。もっと抱け」

「はい! 失礼します!」


 そうだ、とにかくまずは彼女の体を自由になるようにしなくては。そう思い、また彼女の体をギュッと抱き寄せた。

 ここに来てからずっと幻龍王としか話していなかったが、そのおかげで更に自分の能力や知識が増したことには感謝しかない。

 思えば昨日、初めて会った時にこの世界の王は俺の能力の概要がしっかりと見抜いていた。俺が少し成長し、ようやく力を扱えるようになるのを待っていた。

 俺になら世界の真理を見抜ける……かもしれない。

 もしその言葉が本当なら、俺にだって好奇心というものはあるし見てみたい。

 そのためにも、幻龍王の言ってくれた通り少しずつ力を鍛えていくしかない。あの王の言葉を信じるなら、俺の力にはまだまだ大きな可能性があるはずだ。

 自分の脳力について分かってきた。とは言え、魔法式の許容や拒絶といった言葉は幻龍王が教えてくれたもの。この辺りで一度、自分なりにまとめておいた方が今後理解しやすいだろう。

 まず、能力名は鋼鉄の意志……アイアンウィル。あらゆる魔法をその身に受け付けず、うち祓う。もちろん拒絶できる力の大きさには限度があり、幻龍王や音無先輩が強い力をぶつけてくれば破られるし、そのおかげで強制的に音無先輩の癒しの力を受けることもできたのだけど。

 そして、魔法少女のように特別な力を持つ人、所謂スペシャライザーと呼ばれる人の頭上にそれぞれが持つ独自の紋章を視ることができる。今のところ、視るためには強い集中力が必要であり、そのための切っ掛けに柔らかなものに触れていると発動させやすい。紋章を視る技術、紋章視……エンブレムアイとでも名付けようかな。フフフ、真神店長のようにナイスなセンスだぜ。

 紋章が視えるようになったことで、俺の能力がどう働いているのかも少しずつ視えてきた。

 幻龍王の紋章から放たれた魔法式が俺の身に絡み付こうとするが、それが俺の体に触れることはなかった。あれが魅了の魔法であり、触れなかったのは能力が拒絶していたから。もしあれの受け入れを許可していたら、今こうしてじっくり鈴白さんを抱いているだけじゃ済まなかっただろう。


「……」


 思考が止まりかけたの気がしたがきっと気のせいだ。もっとたくさん考えてまとめていくぞ。

 許可していたら魔法を受けていただろうし、幻龍王が更に強い魔力で魅了を続けていたら俺はかかっていたに違いない。アイアンウィルのキャパシティを超える力には抗いようがない。そうしなかったということは、幻龍王が俺の身に負担を掛けまいとしてくれたかもしれない。

 あと、俺の能力は他人に触れることで一時的に同じ能力を与えることができる。密着すればするほど効果は強くなり、体を離してもほんの短い時間ではあるが効果は持続する。俺が今鈴白さんを抱いているのも、こうやって能力を伝えることで幻龍王の支配の魔法を無効化して彼女に正気を取り戻してもらうためであり、事実効果は出ている。効いていなかったらこのように大人しくしていないし、小さな少女の体に力尽くで襲われているはずだ。


「……」


 大丈夫、効いてる効いてる。だからもう俺がドキドキする必要なんてないんだ。すぐにいつもの鈴白さんに戻るはずだ。

 どこまで考えたっけ。そうそう、能力の分け与えだ。幻龍王にも見抜けなかったようだし、ちょっとは自慢できる技術かもしれない。能力の伝播、分配……名付けるならウィルディバイドだな。真神店長にネーミングセンスを褒めてもらえるかもしれないぞ。

 アイアンウィルの能力。エンブレムアイとウィルディバイド。他にも技は増えるだろうか。いや、増やす前にそれぞれの技を鍛えるべきか。

 特にエンブレムアイを使うには強い集中力が必要だし、柔らかなものに触れなきゃならないという制約のようなものがある。というか巻菱さんによって形成されてしまった。

 これをどうにかできればもっと使いやすくなるし、俺自身が能力を鍛えれば長時間使えるようになると思う。まだまだ未熟なのだ、とにかく練度を上げなくてはどうしようもない。


「……」


 大体、考えるべきことはこれぐらいだろうか。できればもっと何かないだろうか。もっと何か考えてないと、さっきまで積極的に俺の首に舌を這わせてきた女の子を強く抱きしめているという事実にドギマギしてしまう。

 分かっている。さっきまでこの体に宿っていたのは暇を持て余したこの世界の龍王。この少女じゃない。だけどそれを今すぐ切り替えられるほど俺は大人じゃない。


「……早く起きてくれぇ」


 やばい、思い出してきたら体が少し熱くなってきた。

 こうなりたくなかったから今の今まで必死に頭を回転させて考えないようにしてたのにちくしょう!

 心臓がドキドキ高鳴ってきた。鈴白さんに聞こえていないだろうか? 少し強く抱きしめすぎだろうか、もっと優しい方が彼女のためだろうか? 

 だから違うって! 邪な心を抱かないようにしていたのに何を考えてるんだ、少女相手に。

 鮮烈に記憶に残る色香のある幻影をそのまま重ねてはいけないと何度も何度も言い聞かせても体は正直に言うことを聞いてくれない。

 自分のことだけにしか気が回っていなかったので気が付くのに遅れたが、腕の中の鈴白さんが小さく震えているのを感じた。

 紋章を視る気力は流石にもう尽きてしまったのか、この細く柔らかくなんとも抱き心地のいい少女に触れていても一向に見えてこないので、こうした変化でしか彼女が変わったかどうか知ることができない。


「鈴白さん……?」


 俺は恐る恐る胸元に頭を埋める少女の顔を見下ろした。どうか幻龍王様じゃありませんようにと祈るような思いで、彼女が正気に戻っていることを期待した。

 だがそんな自分勝手な願いは粉々に砕かれた。

 目が合った彼女の瞳はウルウルと今にも零れんばかりの涙を湛え、ほっぺは桜餅のように色付いて膨らんでいた。


「どうしたの!?」


 後から冷静に考えれば、少しずつ信頼を積み重ねてようやく親しくなれたと思っていた少女が、気が付いたらいきなり密着するように抱きしめられている状況に放り出されれば、理解が及ばず思考が停止して口を噤んでしまうのも当然だ。ましてや本質は恥ずかしがり屋の鈴白さんなのだ。


「何とか言って! お願い!」


 そんなことすら思い至らず、体を放すとへたり込んで俯いて言葉を交わしてくれない鈴白さんをどうにかなだめようと懸命に話しかけた。

 俺には正気に戻った鈴白さんが落ち着きを取り戻すまでの間、彼女に真実を知ってもらおうと一方的に起こったことを伝えるしかできなかったのだった。

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