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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動-サマーシーズン-
245/260

お叱りからの

「――ひじりさん」

「はい」


 ベース基地となるログハウスに戻ってきたしばらく。

 変身を解いた三人の中で年上の二人が地面に正座して年下の言葉を聞いていた。


「わたしはあきらさんを連れて帰ってくるよう言いました」

「はい」


 音央は私服姿でトゥインクルバトンを手にしており、ジャージ姿の二人の頭にはいくつかたんこぶができていた。


「なのに二人揃ってたたかってるってどういうことですかぁ!」

 プンプン!


 顔を真っ赤にした少女の声に、聖はいたく反省していた。

 心配していた音央のことを忘れ、明の言葉に乗せられてしまっただなんて迂闊だった。何事もなかったとはいえ。


「何事もなかったからいいじゃないか」


 聖が心に思ったことを明が口にしたものだから一瞬胸の内が読まれたのかとドキリとしつつ、明のことを諌めようとした。


 ぽこんっ。


 それより早く、音央の手にしたトゥインクルバトンの先端が明の頭を小突いており、またたんこぶが増えることになった。


「痛い」

「わたしはもっと胸がちくちくしてました!」


 瞳を潤ませて訴えてくるものだから、さしもの明もそれ以上の反論せずに黙しておいた。

 二人は揃って反省しているのだが音央の心には届かなかったらしく、少女は小さな溜め息を零した。


「残念です……。ちゃんと言うことを聞いてくれないなら、もう戻りましょう……」

「それは」

「困る」


 すかさず二人は異を唱えた。ここまでお膳立てをしてもらっておきながら、ほとんど何もせずに帰ることになるなど受け入れられることではない。


「でもお二人のためを思って自分勝手な行動はひかえてほしいのに、いきなりこれじゃあ……」

「もうしない」

「僕も気をつける」

「「ごめんなさい」」


 素直にぺこりと頭を下げてどうにか機嫌を直してもらおうとするのだが、二人に向けられるのは懐疑的な眼差し。

 鈴白さんにこんな視線を浴びせられるとは。

 いつも柔和で可愛らしい表情を浮かべていたため、このギャップはひどく胸の内を抉りとても辛いものだった。

 隣の明もじっとして頭を下げ続けているのは相当のことだと聖は思いながら、音央の言葉を待った。


「…………本当ですか?」


 ブンブンと縦に振られる二つの首。ようやく音央の考えも修行の続行に傾くかと思いきや、


「やっぱりダメです!」


 はっきりした拒絶の言葉に二人はぐっと息を呑んだ。

 ここまでかと肩を落としていたところ、


「どうしてもと言うんでしたら」


 希望を孕んだ台詞が紡がれる。ハッと顔を上げた二人に対し、音央のキラキラした笑顔が向けられた。


「お風呂にしましょう!」




 ログハウスに据えつけてある手作りのお風呂をちらりと覗き見ていた聖は、およそ三人で入るには狭すぎるサイズの浴槽に対して尻込みしていた。

 これまで体験したことのない窮屈な入浴になる予感を得ながら、これまた狭い脱衣スペースで明と体をぶつけ合いながらジャージを脱いでいた。

 とはいえ既に鈴白音央は浴槽に浸かって二人の入浴を待ちわびているし、きっちりご機嫌を取っておかないとまた帰る帰ると言われてしまいかねない。なのでここは甘んじて少女の提案を受け入れておくほかないと自分に言い聞かせていた。


「おい」

「なんだよ」

「もっと端に行け」

「これ以上行けないよ。そっちこそこっちに気を遣えよ」


 がすがすと肘を当てこすり合う二人の声が聞こえたのか、戸を一枚隔てた風呂場から音央がくぐもった声をかけてくる。


「まだですかぁ? お肌がふやけちゃいますよ」


 そう急かされるとぐずぐずしてはいられない。脱いだ下着を小さなカゴに放り込み先に行こうとする聖の背に、オイと明が小声で訊いた。


「本当に入るのか?」

「はあ? そうしないと何も進展しないだろう」


 今更そんなことを訊くなと言わんばかりに眉根を寄せた返答に小さく唸る明を置いて、聖は先に湯気の立ち込める浴室へと赴いた。


「えへへ。待ってました」


 湯船から頭だけ出す音央がにぱっと満面の笑みで聖を出迎える。その顔は既に仄かに桜色に染まっていた。

 髪を上げて留めている少女の視線が聖の体を上から下までちらちらと追い、


「きれいですねぇ」


 と、感嘆の呟きを漏らしてくる。


「あんまり見ないでくれよ」


 はにかみながらそっとタオルで体を隠すのだが、薄いタオル一枚では体のラインを隠しきることはできない。

 音央に見つめられたまま、湯浴みすべく腰を落として風呂桶を手にとったところで、背後の戸が再び開く音がした。


「あきらさぁ」


 最後に待ちわびていた相手が入ってきたことで音央の笑顔は更に明るさを増したのだが。


「ん」


 タオルを肩に乗せ隠す素振りのない体を一目見た音央の顔が瞬時に強張った。そして青ざめたかと思えば茹で上がったように真っ赤になって、わなわなさせた唇からつんざく悲鳴が木霊した。


「ふにゃあ!」


 という声を数百倍大きく甲高く騒がしくした絶叫に聖は耳を塞ぎ、明は堂々としていた。


「どうした」

「かかか、隠してくだしゃい!」


 顔を手で覆い背を向けた音央の要請を、とうの明は鼻を鳴らして受け流す。


「風呂を希望したのはそっちだろ」


 音央が腰に手をやり胸を張る明の何から目を背けているのかといえば、女の子にはついていないはずのものからである。

 鈴白さんは明が中途半端に体の構造が変わっていることを知らなかったっけ。

 ひとりパシャパシャと湯を浴びる聖が横から口を挟む。


「明……からかうのはそのへんにしておけ」

「別に俺はからかっているつもりはない」


 そう言いつつ一歩一歩と歩みを進める明に対し、ついに音央が手をあげた。


「いい加減にしてください!」


 引っ掴んだ固形石鹸を思い切りぶん投げたところ、ものの見事に明の股間に直撃してしまった。


「……」


 無言で蹲る明の姿に聖はお腹の冷える感覚を覚えながら、的確な攻撃に賞賛の拍手を小さく送ることにした。

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