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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅳ
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みんなで遊ぼう

 作戦その一。


「ようおはよう!」

「おは……」


 とにかく接触する。

 登校した時に校門付近で柏木京子の姿を見かけたので追いかけて声をかけた。

 一瞬挨拶を返してくれる素振りをしたが、俺の顔を見ると苦い表情を浮かべてさっさと行ってしまう。めげるものか。


「教室まで一緒に行こうぜ」

「いや」


 め、めげるものか。


「つれないこと言うなよぉ俺とお前の仲だろ」

「一緒にいたくない」


 ストレートな物言いは流石にめげました。


「……あ、挨拶できただけ善しとするか」


 俺を置いて早足で去っていく彼女の背中を見送りながら、早朝の成果を噛みしめた。

 失敗。




 作戦その二。


「お前が調子悪いと心配する人がいるわけよ」

「……」


 しつこく接触する。

 先に教室に着いて席に座っている京子に対して朝のホームルームが始まる前に声をかけた。

 担任のメロン先生が来るまでは彼女も教室を離れられまい。今こそ好機。


「委員長も……もちろん俺も心配だぞ」


 語りかけているものの、相手は俺の言葉など意に介さずといった様子でこれみよがしに英単語帳なんて開いてみせる。お前は進んで勉強するタイプじゃないだろという野暮なツッコミはしないぞ。


「俺のせいって言われたのも、昨日はわけが分からなくて困惑したよ。ただまあ、なんとなく察してはいるからさ」


 相馬さんから聞いた話は十中八九正しいだろう。しかし事の仔細を口にしては、彼女の心を刺激してしまうだけなので匂わす程度に留めておいた。これ以上頑なに避けられたくはない。


「だから」

「邪魔」

「俺はね」

「うっさい」

「君をね」

「あっち行って」

「…………」


 こうやってコミュニケーションがとれるんだから無視をされるより断然マシだよね!

 俺は挫けてなんかないぞ。


「みんな席着けー……何泣いてんだ相沢?」

「泣いてないもん!」


 教室にやってきたメロン先生の容赦無い言葉に目から溢れた汗を拭って自分の席にパタパタ走って逃げるのだった。




 作戦その三。


「でね。俺は色々考えたわけよ」

「色々って例えばどんなこと?」

「……」


 頑張って接触する。

 お昼休みに教室でランチタイムと洒落こんでいた委員長と京子の二人の中に勇気を超振り絞って突撃してみた。


「例えば……そう……そうだねえ……」

「本当は何も考えていないんじゃないかい?」

「考えのあるツラには見えん」


 俺に言葉を詰まらせる辛辣な台詞を送ってくれるのは京子の席に机をくっつけて左右を固める聖と明である。二人の協力によって彼女に圧をかけることで逃げることなど不可能な状況……は言いすぎだが、こうして会話の輪から離れにくい空気を作らせているのである。

 手伝ってくれる二人にはありがたやありがたやと感謝の念もあるのだが、もう少し手心を加えた会話をしてほしい。


「ちゃんと考えてますー。今はまだ内緒にしたいだけですー」


 俺はちゃんと自分の考えがあることを主張する。


「内緒にしちゃうような妙案があるんだね」


 委員長だけだよ俺のことを優しく見守ってくれるのは。

 隣に座る委員長に得意げに頷き、


「じゃあ今日の放課後、みんな忙しいだろうしあんま時間取らないから集まっちゃくれんかね」


 寄り集まる四人を見回しながら告げた。


「私はいいよ」

「僕も」

「……」


 明さん頼むから返事してください。


「……構わん」


 ありがとうございました。

 目で訴えたのが通じたらしい。そして最後の一人、面と向かって座っている無口な彼女に対しても瞳をキラキラさせて訴える。


「うっ……」


 気持ち悪いものでも見るような苦そうな表情をされるが、挫けるものか。


「…………分かったよ」


 本当に渋々といった表情と言い方だったけれど、俺より先に彼女が折れてくれた。それもこれも委員長や聖明のおかげでもある。


「それで何を考えてるんだい?」


 満足気に笑顔を作っていたところに聖が訊ねてくる。


「訊きたいかでは教えてしんぜよう」

「内緒じゃないのか」


 明の小言は聞こえない聞きたくないから敢えて無視して話を続ける。俺は胸を張って自分の策を披露した。


「京子、あとでキャッチボールしようぜ!」

「は?」

「え?」

「なんだって?」

「何を言ってる?」


 京子以下四名の疑わしげな眼差しがこちらにビシビシ突き刺さってきた。




 最終作戦。


「ばっちこーい!」


 親睦を深めよう。

 ということで俺は昼食の場で誘った四人にダブルオーの二人を加えた計七名で、放課後に中央公園にあるちょっとしたグラウンドにやって来た。

 グローブ片手に両手をあげて呼びかける先には、ピッチャー大野、キャッチャー岡田、そしてバッター委員長がスタンバっていた。


「っしゃー! いくぞいいんちょ!」

「わ、わわわっ」


 大野の気合に押される委員長がバッターボックスでわたわたとしている。それでなくとも運動は得手ではない彼女だ、元野球少年の大野が全力を出してしまえばボールにかすりもしないだろう。

 大きく振りかぶった大野が勢いのある投球フォームから繰り出したボールが、ふわりふわりと宙を漂う埃のような勢いで……勢い? 勢いの欠片もないスピードの超スローボールじゃないか。

委員長相手に空気を読んだのか、ハエが止まりそうなくらい打ちやすいボールだ。


「いける、いけるぜ委員長! かっ飛ばせ!」


 外野から精一杯声を上げて委員長にエールを送る。俺の声援が届いたのか、委員長はしっかりと目を瞑って振り慣れない様子で思いっきりバットを、


「え、えぇいっ!」


 こつんっ。

 ぽてぽて。


「はいアウト」


 委員長の足元に落ちたボールはミットを構えていた岡田の手により回収され、敢えなく彼女はタッチアウトとなってしまった。

 とぼとぼとボックスを去る委員長と入れ替わりに立つのは、後ろで長い髪を結う聖だ。二、三度素振りをする姿はしなやかで、速い。

 守備位置をかなり後方に下げたところで大野が投球に入る。


「ふはは一野! 打てるものなら打ってみろ!」


 自信満々だなあいつ。


「遠慮なく」


 バットを構える聖に向けて大野の豪速球が投げられた。

 委員長相手に放ったのとは全然違う本気の投球だ。球技大会で見せたのと同等のピッチングは打者の実力を評価してのことだろうか。

 一応あいつも今は女の子だから加減してやりゃいいのに。

 なんて思っている俺の耳に快音が響いてきた。


「なん……だと……」


 驚きの声を漏らす岡田が高々と舞う白球を見送っている。そしてその視線の先のボールは俺の方までぐんぐん伸びてくる。


「お? お? お…………っ!」


 頭上に掲げたグローブの中に確かな衝撃。打ち上げられた打球を見事にキャッチできたのだ。


「アウト、か」


 一球で打席を終えた聖が少し悔しそうにバッドをさげて立ち去っていった。




 その後投手と外野手を一斉に入れ替えたところあぶれてしまったので、俺はベンチ……といっても公園の芝生の上だけど、そこで待機することになった。


「……」


 次の打席が回ってくるのを待つ京子と一緒に。

 すぐ隣に腰を下ろしたから少し距離をとられないだろうかと懸念したが、幸いにも彼女は逃げる素振りを見せなかった。そう思われるのが癪だったのかもしれない。

 ともかくこれは好機。顔を合わせてくれずとも、これだけ近けりゃ声は届く。


「なんでこんなことするん?」


 と思ったら向こうから声を届けてきた。避けられて話はしてくれないと思い込んでいたから一瞬面食らってしまうが、京子の質問に真摯に答える。


「悩んでるようだったから力になりたくってな」

「頼んでないし」

「勝手にやってるだけだし」

「勝手にやんないでほしいんだけど」

「そりゃ……悪かった」


 小さく頭を下げると、謝意が通じたようで逆に京子がバツの悪そうな表情を浮かべる。


「別に謝ってほしいわけじゃない」


 じゃあどうすればいいのだろうと、それを女子に訊ねるのは愚策だろう。なので懸命に自分の頭で考える。


「……俺のせいで調子悪いだなんて我慢できないんだよ。俺はお前にゃ元気でいてほしい」

「元気だよ……」

「嘘つけ」


 広場では、明が気怠そうに投げたボールが聖の構えるミットに吸い込まれるところだった。

一拍置いて巻き起こった風がバットを握る岡田を枯れ葉のように吹き飛ばした。嵐でも起きたかのようだ。俺が立ってなくてよかった。


「ソフトボール、好きなんだろ?」


 当たり前の問いかけに返事はなく、彼女は黙ってみんなの遊ぶ光景に視線を向けていた。その横顔に一抹の寂しさが見え隠れしているように思えたのは、彼女の調子が上がらないことに起因しているのだろう。


「俺のことなんか忘れてバット振ってみろよ。お前の重荷になるほど、俺は立派な男じゃないぞ」

「私だって」


 消え入りそうな声だった。注意してないと聞き逃しそうな、小さな呟き。


「思い切りやりたいよ……。でもね、人がいると……ヤな光景ばっかり浮かんでくる」


 記憶になくとも、その手には俺を叩いた時の感触が残っていて、それが無意識に影響して嫌なビジョンを脳裏によぎらせている。

 誰かの枷になっている。そんなことは到底容認できない。


「京子」


 だから俺は俺の手で、俺という枷を外してあげたい。


「一勝負やろうぜ」

「は?」

「俺が投げてお前が打つ。打てたらお前の言うこと一つだけ聞いてやるよ」

「賭けでもしようってえの?」

「ちょっとしたお遊びだよ。打てなかったら俺の言うこと一つだけ聞いてもらうぞ」


 いつもなら負けるわけないしと勝ち気に言ってきそうなものだが、やはり自信に翳りがあるせいか即座の返答はない。

 彼女の返事を待ち続ける俺のもとに誰かが近づいてくる。


「代われ」


 と告げる明が放り投げてきたボールを掴むと立ち上がった。ナイスなタイミングだぜ。

 芝生の上のピッチャーマウンドに向かう俺の後ろに遅れてついてくる気配がする。振り返って見ると、無言の明の視線に追い立てられたのか京子がバットをひきずって岡田が消えたバッターボックスに向かっていた。


「……」


 明に視線を送るとプイと目を逸らされた。後できちんと感謝しておこう。


「ちゃんと球ぁ投げれるのかよ!」


 退けなくなったからか、これまでの憂いの気配を振り払うように京子が大声で俺に野次を飛ばしてくる。


「心配すんな! どんなヘロヘロ球でも今のお前に打たれる気はしねえよ!」


 あんにゃろう……。というバッターの怒った眼差しを感じる。

 これでいい。俺のことで思い悩んだ瞳をしてるより、怒ってやる気になってもらってる方が万倍いい。


「ふふふ……さっき大野にちょこっと投げ方レクチャーしてもらったからな。いくぜ! 俺の魂を込めた第一投!」


 大きく振りかぶって投げました白球は、ミットを構える聖のもとへ大きな山なりの軌道を描いて向かっていく。


「あら」


 スッポ抜けたボールが大野のスローボールよろしくふわっふわと漂いながら……これなら委員長にすら打たれそうである。

 ボールを待ち受ける聖の溜め息が聞こえた気がする。頼りない球ですみませんね。

 そして京子は腰をひねる。揺れるスカート、見えそうな下着、健康的なお御足が力強く芝生を踏んで。

 いいぜ、そのままかっ飛ばせ!


「……ッ!」


 パスッ。

 聖がボールを静かにキャッチする音だけがした。

 京子はバットを振ろうとしていたのに振れず、ただボールの行く末を見送っていた。


「……」


 聖から黙って返球された球を俺も黙って受け取る。お互い浮かない表情をしていたけれど、一番悔しいのは俯く京子だろう。


「はは。タイミングずれちゃった。今度は気の抜けた球投げんなよ」

「ああ! 分かってるよ!」


 彼女はバットを構えて待ち受ける。乗り気じゃなかったさっきとは違い、真正面から立ち向かっている。だから俺もそれに応じる。


「次は真っ直ぐど真ん中いくぜ! 外野しっかり準備しとけよ!」


 後方の広場で守備をしている大野と委員長に声をかけると、二人とも手を振ってくれた。ちなみにピッチャーを交代した明と吹っ飛んだ岡田は傍らで休憩中である。


「ピッチャー振りかぶって……投げた!」


 自分で口に出しながら、今度は手から抜けることなく綺麗に投げることができた。聖が微調整するがストライクゾーンのほぼ真ん中。球速もそんなにないしかなりいい感じじゃないか。


「んっ!!」


 今度は振りやがった!

 けどスイングはボールを捕らえることはできずにミットに吸い込まれていった。一投目より良くなっているけど、当たらなければ意味がない。彼女の自信につながらない。


「どうした、後一球だぞ!」


 発破をかけるつもりで声を上げたけど返事はない。悔しそうで、苦しそうに歯噛みしている横顔を見ているしかできない。

 それが辛い。駆け寄って声をかけたくなるが、俺じゃあ心の傷を抉るか拡げるか、追い詰めるしかできない気がしてそうできない。

 だからこうして敵役になってるのに、俺が励ましたら台無しじゃないか。


「……」


 その時だった。

 これまで黙って俺の球を受けていた聖が腰を上げると、口元を歪めている京子に耳打ちする素振りを見せた。


「――」

「――」


 口元をミットで隠しているために声はこちらに届いてこないし、唇の動きも分からない。分かっても読唇できるわけじゃないから意味はないけど。


「――――」

「んなッ」


 京子が驚いた様子を見せたところで話は終わったらしい。聖は柔らかい表情で目を伏せて跪き……京子はまた怒った目つきでこっちを睨んでくる。


「この……変態!」

「えぇ!?」


 突然の評価!

 なんでいきなりそんな酷いことを言ってくるのか分からない。聖のやつ、何を吹き込んだ!


「……」


 聖の野郎笑ってやがる……俺には悪魔の微笑に見えた。


「ぜ、絶対打ってやるからな!」


 何はともあれ、俺を変態扱いすることで彼女にやる気が漲ってきたようで良かった……良かったのかな……。

 嫌われるのは覚悟してたけど変態呼ばわりされることは想定してなかったから意外と心が傷ついてる。


「だが俺は負けないぞ……全力でやるからな!」

「来い!」


 最早言葉は不要。

 全力の気持ちを込めた最後の一投。真っ直ぐに小悪魔……じゃなくって聖の構えるミットに向けてぶん投げた。

 二投目と同等の球威とコース、先ほどの再現としては申し分なし。

 もう俺にできることは全部やった。後はバッター次第。お前はさっきのを再現しちゃいけない。

 打て。

 白球を目で追いながら口の中で呟いた。


 カンッ。


 乾いた打撃音と同時に、小さかった白い点が急激に大きさを増す。


「――!」


 強い衝撃を顔面に受けた俺は背中から広場に倒れこんでいた。


「あ……」

「相沢くん!」


 頭の中で鐘が鳴り響いてるようで、聖の声がとても遠くに聞こえた。


「大丈夫かい?」


 差し伸べられた柔らかな指を、二三度宙を掴んでから手にとった。鼻が痛い、潰れてるかと思った。

 ピッチャーに向けて打ち返された球だったけど、咄嗟にグローブを着けた左手を構えて直撃だけは避けることができた。衝撃は消せずに倒れてしまったけれど、痛いのはグローブが当たった顔だけで他はなんともない。

 ボールはというと、一度捕らえたかと思ったが今は俺の傍らをコロコロと転がっていた。どうやら倒れた時に零してしまったらしい。


「へへっ。お前の勝ちだな」


 聖に立たせてもらいながら、未だバッターボックスから動かない京子に歩み寄っていった。茫然とした顔で赤くなった俺の鼻を見ているようだ。


「あ、あん……」

「何?」


 折角打てたんだからもっと喜んでもいいんだ。賭けもそっちの勝ちだし。


「……怖く、ないん?」


 何を怖がれと言うのだろうか。愚問である。とはいえ、彼女の憂う表情を見ると何がしか俺のことを案じてくれてるのだと思う。

 ぽりぽりと頬をかいて返答を考えた。


「お前のことなら……まあ、怖くはないな」

「私のせいで傷ついてるじゃん!」

「傷のうちには入らないって」

「でも」

「しっかり見てる。もう見失わない。だから安心してバット振れよ、今みたいにさ」


 んぐ……と漏らすと、そこから何も言い返してはこなかった。代わりに踵を返すと控えている明と岡田のところへと進んでいった。


「彼女……もう大丈夫じゃないかな?」

「お前はそう思うか?」


 静観していた聖がこっちに声をかけてくる。


「さっきまでより随分いい顔をしてたよ」


 こいつがそう言ってくれるならそう思える。もしも大丈夫じゃなかったら、その時はまたみんなに手伝ってもらえばいいし、ひとまずは様子見を……。


「そういや直前に耳打ちしてたけど、あいつに何吹き込んだんだ?」

「あああれ?」


 あれのおかげで京子が打てたのかもしれないけどあれのせいで俺は変態呼ばわりだ。どういうことか問いただすと、聖はしれっと答えてくれた。


「賭けがどうのこうのって聞こえていたから、柏木さん負けたら彼に体を好き放題弄ばれるよって危機感を持た」


 バシィン!

 と聖の頬を両手で挟んで顔をむにむにと押しつぶした。


「お前は何を言っているんだああ!」

「ごえんごえん」


 笑って謝罪されても誠意を感じられないわ!


「お? やってるねえ!」


 聖の顔を弄んでいたところに聞き慣れた、けどこの場にいなかった人の声が木霊した。


「先輩! 用事があったんじゃ……」


 広場を訪れてくれたのは音無先輩、そして四之宮先輩だった。

 みんなを誘った時に先輩たちにも一声かけてみたけれど、二人とも所用があるとのことで残念ながら断られていたのだが。


「二人揃ってタイミング良く終わったわ。だから貴方たちの様子を見にきたのだけれど」


 四之宮先輩はその場にいる面々を見回しながら、もう終わったみたいねと呟いた。雰囲気から察したようだ。


「あらまあ遅かったか」


 先輩が残念がっていると、いつの間にか全員が集まって輪を作っていた。どうやらこのまま終了の予感だ。

 やがて俺たちは先輩に誘われるまま、公園にあるスイーツ移動販売車店舗・「まじかるシェイク」にやってきて一息ついた。少しの間駄弁ってから一人、また一人とその場を去って、残ったのはボランティア倶楽部の面々だけとなった。

 店主の真神風里さんに断りを入れて営業の邪魔にならぬよう端のテーブルを五人で使わせてもらうと、さっきまでみんなでニコニコ談笑していた空気から徐々に神妙な面持ちへと移り変わっていった。

 真神さんがテーブルの空いた食器を下げた後、音無先輩が口火を切った。


「あんまりダラダラするのもアレだからサクッと話すね」


 息を呑んで続く言葉に耳を傾ける。


「今夜悪夢の魔女と決着をつけるから」


 しばしの沈黙が辺りを包み、俺の息を呑む音だけが聞こえ、


「って今夜ですか!?」


 そう確認したのも俺だった。


「うん」

「急じゃあありませんか?」


 平然と頷く先輩におずおずと訊ねたら、


「試験も迫ってるし、引き伸ばさない方が都合がいいでしょ?」


 四之宮先輩が合いの手を打ってくる。自分のことだっていうのに試験と天秤にかけるだなんて……まるで大したことではなくちょっとした用事を済ませに行くような言い草である。


「当事者の四之宮先輩がそう言うなら……。けど、具体的には何をするんです?」


 決着をつけるということは倒すのだろうが、一体どうやるんだ。

 呼び出して戦うのなら、マガツ機関の敷地内であったように四之宮先輩の体に魔女を宿すのか?

 それはかなりの危険を伴う行為に思える。実際、前回の戦いの舞台となったマガツ機関の施設には大きな被害が出たわけだし。


「まずはある場所に集まりましょう。そこからあたし達は魔女の心象世界へと向かうわ」


 聞きなれない言葉に俺と聖明の三人は眉をひそめた。


「ある場所とは?」


 聖の疑問に四之宮先輩が答える。


「かつて魔女と魔狼が死闘を演じた因縁の場所。物語の終焉に相応しい地よ」

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