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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅳ
209/260

誰が一番?

「さ。というわけで場所を校庭に移しまして引き続き三人による『誰がうちで一番強いのか選手権』を行うわけですが」


 テスト期間前のため放課後の部活動には制限がかかっている。おかげでこの広い校庭を少人数でこっそり使えるわけだ。こっそり……のはずだがギャラリーが校庭の周囲にちらほらいるのは、俺達が、というかあの三人が何をしてるのか気になるからだろう。


「申し遅れました実況は私相沢草太と解説は」

「四之宮花梨です」

「以上二人でお送りします」


 頭を下げる俺と先輩は校庭を見渡せる場所に机を引っ張り出して腰掛けていた。


「日除けがなくて大丈夫か心配でしたが、日は陰っているおかげで過ごしやすくはありますね」

「ええ。これから競い合う彼女たちもこの天候だとちょうど良さそうね」


 実況席の近くにも見物人がやってくる。


「はい押さないで」

「ここから先は立ち入り禁止です」


 整理人として雇った大野と岡田はいい仕事をしてくれている。なので俺は実況に専念できるのだ。


「ところで四之宮先輩。これから音無先輩、聖、明の三名はどういった勝負で競い合うんですか?」

「本当なら持久力、瞬発力、体力、その他諸々を別個に競ってもらいたいところだけど、それをやると時間がかかりすぎるでしょう?」

「そうですね」

「期末試験も控えている現状、たまたま外を使わせてもらっているけど、勉強を疎かにしていると見做されては厳重注意モノよ」

「なるほど。そのために時間を掛けずに一回の勝負で決着をつけようというわけですね」

「それに時間を掛けるほど目立っちゃうでしょ」


 二人のガードマンが手伝ってくれているが、あまり人が増えると彼らの手に余ってしまう。それにこれは見世物ではない……見世物のような出来事だけど。

 俺はここに至ることになった経緯を思い返した。

 机が破壊された直後の部室にて、勝負の結末に納得いかない音無先輩がグワーッとむしゃくしゃしだした。


「んもーすっきりしない! 決着つかないし弁償代請求されるし……んがー!」


 地団駄を踏む先輩に同意したのは同じく半端な結末に釈然としない様子の明だった。


「俺も……です。これでは俺が一番だと証明できない」

「全くだよ! ……よし、外で続きやろう」


 先輩の言葉に明はコクンと首を縦に振った。もうこの二人は止まらないなとその時俺は悟りました、はい。


「負けた方が弁償代全額出すってのはどう?」

「問題ない……です。俺は負けない」


 あっさり決まった。審判の四之宮先輩、どうにかこの二人の猛進を止められないですかと縋る視線を送ってみると、彼女は彼女で何か思案してる顔をしていた。所謂悪巧みってやつですね。

 やばい、今日はもう勉強そっちのけになりそうな予感がビンビンする。今回はちょっと本気で点取りにいきたいのに。

 こっちの気配が伝わったのか、隣で聖が苦笑して肩を竦めるのが分かった。お前だけでも俺と同じ心配を抱いてくれてて救われるぜ。


「聖くん! ボケっとしてないで君もやるんだから!」

「え……僕も?」

「当然だ。お前も参加していたんだから」

「僕はもう……やるなら二人で」


 遠慮しているのかもう関わりたくないのか、どちらにしろ聖には参加する意思がないようだった。


「まあまあもういいじゃないですか。乗り気じゃない相手に勝っても意味はないでしょう?」


 助け舟を出すつもりで横から口を挟んだ。無理に参加させても、それじゃあちゃんとした順位付なんてできないだろうと思ったから。


「君は僕が負けると思ってるのか?」

「へ?」


 横から刺すような声が聞こえた。見ると、聖にめっちゃ睨まれていた。ナンデ?


「いやあ草太くんの言う通りだよねえ」

「ああ……そうですね」


 ほらほら見ろよ。先輩も明も俺の言葉に納得してくれてるじゃないか。


「自分がやったわけじゃないのに、弁償代払いたくはないもんねえ」

「負けると分かって参加を辞退……懸命だな」

「やろう。種目は?」


 あれれぇ、おかしいぞお?

 あっという間にこちら側にいた聖があちら側に行ってしまった。後から考えれば、助け舟の台詞選びを誤ってしまったのだろうと思える。


「ハッ」


 そして見てしまった。聖を招き入れた瞬間の二人の顔が、さも示し合わせたように邪悪な笑みを浮かべていたことに。


「はわわわわ」


 ハメられてるよ聖。乗せられてるよお前。

 そう言いたかったけど、口を出させまいという圧力を感じてしまったせいで……俺は黙って聖を見送るしかできなかったのです。


「では何をして競ってもらうかだけれど、あたしが今考えた複合競技でいいかしら」


 ことの成り行きを見守っていた四之宮先輩がようやく口を開いた。三人は頷き、そしてそこから現在へ至るのであった。


「……さてそれでは今回三人に競ってもらう競技ですが……これは先輩が考えたものでしたよね」

「ええ。まあ単純に言えばトラック一周を用いた障害物競走ね」

「なるほど」


 コースはこの一周四〇〇メートルの運動場。我々の目の前にあるストレートがスタート兼ゴールになる。


「まずはスタート直後に目の前のストレートを駆け抜けてもらいます。コーナーに差し掛かって……あれはネットですか?」

「網くぐりよ。彼女たちのくぐり抜ける技術を見せてもらいましょう」

「力や体力だけでなく技術的な面も競い合ってもらおうというわけですね。続いてあちらの直線に置かれているのは、あれは平均台ですか?」

「ええ。今度はバランス感覚を見せてもらうわ」

「しかし直線全部平均台はかなり長すぎやしませんかね?」

「あのくらい一度も落ちずにクリアしてもらわなきゃ期待外れよ」

「はぁ……そして最後のコーナー、そこに待ち受けているのはボックス……ですよね?」


 コースに三つ並んだ箱。上に穴が開いている……腕を入れるのか。中に何か入っているのか。


「最後は借り物競走をしてもらうわ。箱の中にはあたしが知恵を巡らせた最後の勝負に相応しい、いけに……ゴホン、借り物を多数記してあるわ。その中の一つをいち早く手にしてゴールを切った人の勝利よ」

「あのぉ……」

「なあに?」

「それって何を競い合えるんです?」

「運。かしら」

「運……ですか」


 運も実力の内とは言うものの、これは正しく全員の実力を計れるのだろうか。俺は訝しんだ。

 勝負が進めば分かるわ。先輩はそうとだけ言って、それ以上のコメントは得られそうになかった。


「……では舞台の説明が終わったところで、これから私は各選手に試合前のインタビューをしてみたいと思います」


 俺は実況席を離れ、スタートライン付近にいる三人に近付いた。

 最初に声を掛けたのは外周のコースに陣取る音無先輩だ。入念にストレッチを繰り返す彼女は体操着に着替えている。短パンから伸びる太もも、半袖から覗く二の腕に脇、そしてはち切れんばかりの胸。

 素晴らしい。


「調子はどうですか?」


 マイクがあったら差し向けているところだけど、残念ながら今は手ぶらだ。


「ふふん……っと、悪くはないよ」


 くいっくいっと体を伸ばしたり捻ったりする度に揺れたり見えたり……インタビューしにきて良かった。


「目指すはもちろん?」

「トップに決まってるじゃん!」

「ありがとございましたー」


 まだまだたっぷり見ていたかったけど哀しいかな時間が押しているので一言二言だけの猶予しかない。涙を呑んでサクッと切り上げ次だ次。

 真ん中のコースには聖がいた。先輩と同じく体操着にてこの勝負に臨んでいる。


「コンディションはどうだ?」


 いつもと違い、長い金髪を頭の後ろで結って運動の邪魔にならないよう束ねている。

 綺麗なポニーテールだが、それに反して聖の表情は浮かないものだった。


「どうにも上手く乗せられたようで……少し気になってる」

「乗り気じゃない?」

「やるからには当然全力さ。……君は僕が二人に劣ってると、そう思ってるようだからここできちんと見返しておかないと」


 ここに至るまでに俺が口にしたことを根に持ってるようだ。そういうつもりで言ったんじゃないけど、今弁明したところで何にもならないだろう。


「アハハ……似合ってるぞ、その髪」


 バツ悪く愛想笑いを振りまいて話を逸らしてからテクテクと最後のインタビュー相手のところへ赴いた。


「さあさあ最後の走者です。訊くまでもないけど自信の方は?」


 と明に問いかけてみた。こいつだけ、下は短パンではなくジャージを履いている。


「……」


 すんごいブスッとした顔してる。質問が駄目だったのか?

 拙いインタビューで悪かったなと自分を卑下しながら心の中で謝っていると、


「短くて残念だったな」

「はい?」


 何の話だ。インタビューの時間……のことじゃなさそうだ。

 主語を言ってくれ、主語を。明ってばいつも言葉足らずなんだからと困っていたら、自分の髪の毛を弄っていることに気が付いた。

 普段することのない仕草、短い、さっきあいつに言った台詞……バッと後ろを振り返ると、聖も同じように自分の髪の毛先を指で弄んでいた。


「なんだよ……別に髪の長さで競ってるわけじゃないだろ」


 思わず呆れてしまった。いくら対抗心を燃やしているからって、そんなところでまで張り合おうとしなくていいのに。


「フン。どうせ俺に長髪は合わない」


 長さで負けたことがそんなに気に喰わないのか、とうとう拗ねたような言葉を吐き出した。これはこれからの戦いに悪影響がありそうだ。


「そんなことはないぞ。きっと似合う。けど今の髪が一番だと俺は思う」

「一番か?」

「一番だ!」


 その表情に少し自信が戻ったように見えるが、今はこれが俺にできる精一杯だ。


「よし、じゃあ三人とも頑張って!」


 全員にそう声を掛けてそそくさと実況席へ急いだ。四之宮先輩から巻いて巻いての指示が出されていたからだ。

 結局まともにインタビューできたのは先輩だけだった。まだまだ腕がなってないぜ。


「お帰りなさい」

「戻りました!」


 席へ着く頃には、周囲のギャラリーもさっきより少し増えていた。見知った顔もいくつかある。みんな興味津々なんだろう……これ以上伸ばすとちょっとしたお祭り騒ぎになりかねない。

 大人に咎められる前に素早く勝敗を決して頂こうではないか。


「長らくお待たせいたしました。只今より三名のガチンコ勝負を開始します!」


 周囲からはおぉーという声や小さな拍手がパラパラ聞こえる。声にみんながリアクションしてくれる実況って案外気持ちいい!

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