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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の課外活動・3
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戦いの終結・1

 レヴァテインの身に起きた一連の出来事の結果のみを相馬和人から通信で伝えられた特別部隊の四人は、一斉に戦い方を変更した。


『ちょっとあんた達!?』

「案ずるな」

「要するにぃ」

「どこかの誰かさんが現着する前に」

「あいつしょっ引きゃいいんだろ!」


 大門真希奈は未だブチ切れているルイアナに真っ向から挑み、後ろ手に忍ばせていた煙幕弾を二人の間に投げつけた。


「!?」


 突如視界を遮られ困惑する少年の頭上を、腰のポーチの一つからワイヤーアンカーを射出した真希奈が飛び越えていく。

 アンカーは倉庫の屋上の縁に掛かっており、巻き取られたワイヤーが彼女の体を空高く放り上げた。

 上空から自分以外の三組の状況を把握し、まず向かうべき宇多川健二とヒサの場所を確認した。


「あっちか」


 自由落下を始める前に、先程ワイヤーを使ったものと対の位置に提げたポーチから同じくワイヤーを射出し、女装メイドとほぼほぼ裸の白衣の巨躯がいる倉庫にアンカーを命中させる。

 ワイヤーの巻き取りと同時にヒサは助っ人が向かっていることに気付いた。


「助かる」


 数の上で有利になれば捕らえるのは容易い。敵の討伐よりも彼の捕縛を優先した今、一瞬の任務遂行が急務だった。

 戦闘を続け消耗していた宇多川健二は事態への対処が遅れていた。倉庫の上を駆けるヒサの後方に着地した真希奈も体勢を整え即座に走り来る。


「くぬ……おおぉ!」


 己の不利に苛立つように叫んだ健二は、跳躍したヒサを焦りと恐れの混ざった眼で追うが、その姿は轟と風を切る音と共に消し飛ばされた。

 ナイフを突き立てんとしていたメイドが左方から襲い掛かってきた大蛇に吹き飛ばされたのだ。


「横槍かよ!」


 先陣を切っていたメンバーに攻撃を加えられながらも足を止めない真希奈であるが、思わず横槍を入れてきた相手を視認した。

 見たことのない爬虫類の顔をした者であったが、この場にいる敵で顔を確かめられていないのは一人しかいない。


「あいつは何してやがる!」

「失敬失敬。思ったより周りが見えていたようで先を越されてしまいましたよ」


 あまり悪びれた様子のない声は蛇男とは反対側、今しがたヒサが吹き飛ばされた方から聞こえたので真希奈は首を巡らせた。

 隣の倉庫の屋上には大蛇の直撃を受けて左腕に傷を追ったヒサを抱き留める菊池景子が立っていた。


「ヘマしやがって!」

「そのまま貴女が確保してくれれば問題無いですから」


 ヒラヒラと手を振る様子にイラッとするが、走る速度を上げた。景子の激励が効いたわけではなく、横合いから手を出してきた敵の更なる追撃を警戒したからだ。

 真希奈はポーチから再度ワイヤーアンカーを射ち出した。標的は宇多川健二の肥大化した右腕。


「うぎゃあッ!」


 アンカーは逸れることなく突き刺さり、後は巻き取ると同時に目標をぶっ飛ばして掻っ攫えば完了だ。


「もらった!」


 蛇男の追撃も間に合っていない。真希奈が健二に到達する方が早い。

 真希奈が到達を確信した直後、健二の傍の屋根が弾けた。倉庫の中から天井を突き破る爪先が、真希奈の腹部を的確に蹴り上げた。

 完全なる不意打ちに何かが折れる音を立てる体はくの字に曲がる。アンカーが健二の腕の肉を抉り真希奈と一緒に空を舞った。腕を抑え悲鳴を上げる男の声が遠く響く。


「骨が折れたか、な?」


 にやりと呟く少女、ローゼンクロイツは蹴り飛ばした真希奈へ向け跳躍した。

 目の前に星が散った真希奈は即座に対応できずにいた。幸いにして骨は折れていない。砕けた音はバトルスーツの衝撃吸収外骨格であったが、体の芯に届く一撃は身体機能を著しく麻痺させていた。

 眼前に迫る少女に対応できない。対応したのは、少女を足止めしていた女性だった。


「ちょっとちょっとぉ。駄目じゃない他の子に手を上げちゃあ」

「もう追いついたか」


 割って入った巻菱蓮がローゼンクロイツの追撃の手を刀の刃で受け止めた。そのまま少女を下へ弾き飛ばし、自身は上に飛び。


「ごめんなさいねぇ。あの小さいお爺さんすばしこくて」


 真希奈にニコニコと謝罪すると、襟を掴んで景子たちの元へポイと放り投げた。


「さて。時間はもうなさそうねぇ」


 蓮は一人でどう攻めるか考え、即座に行動を起こす。強引な中央突破。ローゼンクロイツを退け、宇多川健二を奪取せんとす。

 アポフォスも蓮を阻もうと動き出す横で、空中から倉庫へと落下する真希奈がヒサを抱える景子の胸へと埋もれる、


「ぅぉおおお!」

「ひょい」


 ことなどなく。

 ズガガガガ、と倉庫の屋根を激しく転がる真希奈はようやく引っくり返って動きが止まった。


「いや……」


 流石にヒサもドン引きである。


「まだ動けますよね」

「……あ、ああ問題ない」

「では私は蓮さんの援護に。貴方は隙を見て目標を」

「分かった」


 まだ左半身は痛むが泣き言など口にせず、しかし後ろで目を回す女性はどうするのかと問い掛ける前に景子は戦線へ飛び込んでいた。


「……」


 ヒサは気を取り直し、戦闘の最前線にいる二人に隠れて暗躍を始める。


「何を焦っているかは知らんが、そのように雑な攻め手で私を抜けると?」


 巻菱蓮を迎え撃つべく宇多川健二の前に立ちはだかるローゼンクロイツだったが、二人が再度火花を散らす前にアポフォスが横から足を出してきた。


「あらあら?」

「フフフフ。私とも遊んでもらおうか」


 蓮の刀が蛇男の足を斬り上げる。剣閃は足を両断するかに思われたが、寸前で蹴り足は蛇の如く刀に絡みつくように蠢いた。切り結んだ格好で二人の動きが一瞬硬直した。


「ちっ。貴様には手の余る女だ、退け!」


 獲物を横取りされた苛立ちを顕わにするローゼンクロイツだったが、自分にも横槍が迫っていることに気付き視線をそちらへと向けた。

 いない。

 咄嗟に背後を振り返り、唐竹に斬りつけてくる模造刀を両手で挟み止めた。


「反応しますか」


 ポータル転移による完全なる不意打ちを白刃取りされて若干忌々しげに吐き捨てる菊池景子とローゼンクロイツの二人は、視線を交わし薄ら笑った。


「まだまだ底が浅いな」

「足止めできればいいんですよ」


 二人が二人を相手取っている隙にヒサが宇多川健二の元へ辿り着こうとするが、誰にも焦りはない。

 何故ならば。

 そこへ到達したのはヒサだけではなく、ルイアナもいたからだ。

 倉庫の屋根を爆進してきた少年は無我夢中ながらもすべきことを理解しているかのようにヒサへ向け、


「どっしゃおらあぁ!!」


 向かっていたのは真希奈もまた同じだった。目が覚めた瞬間に状況を判断し、彼女もまたすべきことを実行した。

 ルイアナを全力で殴りつけた左の機械腕は損傷し、芯は砕け、引き換えに敵を弾き飛ばす。

 残った右手が立てる中指は、ローゼンクロイツの先にいる景子に向けてのものだった

「捕らえた……!」


 三人の助力によりヒサは健二の間合いへと踏み込むこととなった。元々戦闘には向かず、慣れぬ戦いに色濃く消耗の度合いを見せていた健二に抗う術はないはずであった。

 手を伸ばせば触れる、というところでヒサの動きは止まった。突如として辺りに広がった目に見えぬ重圧のせいで、体が強張った。

 ヒサだけでなく、その場にいた全員が……敵を含め全員がはたと動きを止めていた。

 一様に上空を見上げた八人が目にしたのは、月明かりを背負いこちらを窺っている黒いシルエットの姿だった。

 ヒサたち四人はマントを羽織る鎧の人物に見覚えなどない。しかしそれが先に相馬和人から報告のあった未知の敵だと即座に思い至った。

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