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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅲ
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ボランティア倶楽部の帰還

「あの子がたまに口にしていることだけれども」


 時間は少し巻き戻る。

 柱の上で一対三を静観するマジシャンズエースと、その下で独り戦うブレイブウルフを見守る聖と明のやり取りは続いていた。


「自分の強さのピークは二年前。大戦の時……中学生の頃が一番充実していた、と言ってるわ」


 二年前のことを聖明の二人は知らない。その頃の二人は別の物語を紡いでいたのだから。

 この街に来て他者と関わり交わることで当時の話を第三者の立場で知り始めている段階である。その点は今ここにいないもう一人のボランティア倶楽部一年生も同様でああった。


「その言葉に嘘はないし間違ってもいない。確かにあの当時の彼女……だけじゃないわ、多くの魔法少女、スペシャライザーに言えることだけど、全力以上の力を出さなきゃならない状況だったから。あの時が一番力がノッていたと感じてる子は少なくないでしょうね」


 どれ程の状況をくぐり抜けたというのか、それを体験することはできない第三者は客観的な情報を元に推測するしかない。

 当事者とそうでない者に生じる齟齬を感じつつも、二人は当事者の言葉に耳を傾けていた。


「あたしには二年前の彼女と今の彼女に大きな差があるとは思えない。確かに能力のキャパは以前より少なくなったし我武者羅な勢いも減ったわ……けれど苦難を越えて過去の経験を糧にしている今の方が危なっかしさは感じさせないし……安定してるのよ」


 彼女たちが見ている先では、宙空での攻防から蹴りの一撃で建物を倒壊せしめる光景が展開されていた。


「どこかで今の自分に自信が持てなかったんでしょうね。本人には絶対に言ってあげないけれど、あたしは今のあの子の強さの方が好きよ。……強くあってもらわなくちゃならないの。あたしの物語を完結に導くには、自分の物語を終わらせた貴女の力が――」


 遠方から木霊してくる轟音が彼女の語りを掻き消した。


「……そこまで言わせるなんて、余程頼りにしているんですね」


 音に遮られて終わった言葉を受けての聖の台詞に、マジシャンズエースは薄く笑って返すだけだった。


「憧れますね、あの強さ」

「妬ましいの間違いだろう」


 明からの訂正に聖は表情を若干険しくしたが、言い返しはしなかった。あながち間違いではないと心の中では思っていたからだ。


「言っておくけど貴方たちと彼女の間にこそ大きな差なんてないわよ? 力もスピードも引けをとってないでしょ」


 ブレイブウルフの動きは聖明共に目で追えていた。時折二人以上の疾さで動いていたが、マジシャンズエースに言われるとそこまで差があるとは……いややっぱりあるかもと思ったり思わなかったりしてしまう。


「貴方たちよりほんの少し多く積んだ経験の分、紙一重ってところで彼女が上回ってるところがあるだけよ」

「積み重なった紙一重、ですか……」

「随分と分厚い紙だ」


 戦い終えて撤退する姿勢をとる先輩に視線を向ける後輩たちを目にし、花梨はもう一人の先輩としてつい声を掛けたくなる。


「まずはあの子と本気で戦いあえるようになるといいわ。そうすれば今日貴方たちが戦って勝てなかった相手とも充分に渡り合えるようになるから。保証してあげる」

「…………はい」

「俺は逃げられただけだ。勝てなかったわけじゃない」

「言い訳しないの」

「むぅ……」


 黙らされてしまう明の隣で、聖はふと考えた。

 僕たちに戦いをさせたのはそれを説きたかったからではないか。

 その考えはすぐに掻き消えた。いくらなんでも考えすぎだと。

 三人の話が途切れたタイミングを見計らったように、その場に黒い影が飛来してきた。


「よっ。ととっ」


 戦いを終えて退避してきたブレイブウルフは聖たちの傍に降り立つと力のない足取りで電柱に手をついた。


「お疲れ様。少し苦戦してたようね」


 頭上から降りてきた奇術師の労いの言葉に、柱にもたれる狼はヘイヘイと手を振って答えた。


「どうせあたし独りじゃ相手になりませんでしたよ。ていうかあんた、見てたんなら加勢に来なさいよったく」

「可愛い後輩を介抱せずに放ったらかしになんてできないじゃない。ねえ?」


 同意を求めてくる花梨に対して聖は愛想笑いを、明は顔を背けた。


「コラコラキミタチ」

「……全然介抱できてないじゃない」


 彩女は重たい体を引きずりながら、二人の後輩に体を預けるように寄りかかって耳元で呟いた。


「お疲れ様。ゴメンね……折角手を貸してくれたのに何の成果も出せなくって」

「いえ……僕の方こそ」

「それは……嫌味だ」


 戦闘で成果を出せなかったのは部長だけではない。ここにいる四人全員である。言い換えればボランティア倶楽部全体の責任でもある。

 訂正。全員ではなかった。


「戻ろう。彼が待ってる」


 気が付けば聖と明の負った傷は癒えており、入れ替わるように変身を解いた音無彩女は二人に支えられる形でグースカと寝息を立てていた。


「まったく。貴女がそんなんだから副部長のあたしの仕事が増えるのよ」


 肩を竦める副部長はちらりと後方を一瞥した。そこには既に四人の敵の姿はなく、戦闘の爪痕が残る倉庫群の光景が広がっていた。


「誰かに見つかる前に行きましょうか。後のことは相馬くん達に丸投げしておけばいいから」

「そう、ですか」

「もとは最初からそうする手筈だったのだから本来の既定路線に戻っただけよ。あたし達のワガママの方がイレギュラーなんだからここは素直に手を引くわよ」

「分かっている」


 聞き分けのいい明が背負うのはすっかり寝入った彩女である。


「では一先ず病院に戻ってそこで解散。家に帰るまでが倶楽部活動よ?」


 こうしてボランティア倶楽部の活動は実を結ぶことなく終了し、全ての事柄はマガツ機関特別編成隊へと引き継がれた。

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