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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅲ
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放課後の騒動 3

「それより。さっき一緒だった……」


 クラスメイトとの仲でも蒸し返してやろうかと話を振った時、中村が血相を変えて駆け込んできた。


「キャプテンが来てる!」

「マジか」


 よりによって部活の大将。一瞬慌てそうになったが、


「いいか、打ち合わせ通りに」

「分かってるよ」


 俺たちは二人揃って床に伏せ、ゴキブリのようにカサカサと動き始めた。

 息を呑んでその時を待っていると、やがて部室の入口に人の気配が迫ってきた。


「っ主将! ちわっす!」


 いかにも今初めて気付きましたと言わんばかりの勢いで立ち上がり頭を下げる中村に倣い、俺も立ち上がってぺこっとお辞儀した。


「おう、何してんだ部外者連れ込んで」


 上の者の圧を感じているせいか、中村は言葉に詰まっていた。


「中村くんが部室に財布を落としたかもと相談に来たので、自分が探すのを手伝いに来ました」


 後ろから助け舟を出そうと口を挟むと、上級生の視線がこちらへ向いた。値踏みするような、疑うような眼差し。赤の他人だから当然だ。


「彼、ボランティア倶楽部の一員でそれで……」


 その説明に上級生はああ、と声を上げた。

 サークル名を出すのは利用しているようで気は進まなかったが、この状況で疑いの目を少しでも軽くするには有効だと思ったし、もしかしたら事態は本当にボランティア倶楽部の裏の活動に繋がることになるかもしれない。

 ならこれは決して我が身可愛さからの言い訳ではないと自分に言い訳して納得させていた。


「探し物だけにしちゃあ随分と綺麗に片付けてくれたもんだ」


 主将は室内をぐるりと見回して声を漏らした。


「すいません。勝手に余計なことを……」

「いや、大分汚かったからな。ここまでされると気持ちいいもんだ」


 臭いは消えないけどな、と先輩は苦笑していた。


「探し物は見つかったか?」

「え……」

「財布だよ」


 話を振られて狼狽えた中村が、


「あ、ああそれならもう見つかりました! 持ってます!」


 と口走ったので「あ」と声を漏らしそうになった。


「なら早く戻れ」


 そこはまだ捜索中って言うところだったはずだ。これじゃあ主将が言うようにここから立ち去るしかないじゃないか。

 しまったと言いたげな表情で中村がこっちを窺ってきたがどうしようもない。渋々とその場を離れようとしたが、もう少しだけ粘れないかとも思った。


「主将さんはどうしてここへ? 今日は部活もないようですけど」


 先輩の横を過ぎる前に立ち止まり、とにかく何か訊ねた。もしかしたら俺たちより先に部室を離れてくれやしないかと淡い期待も無きにしも非ずの心境で。


「ん?」


 突然の質問に怪しまれたかと胸が高鳴ったが、


「単に誰かいるのが見えたからだ。ここで悪さしてる奴がいたら咎めないとと思ってな」

「悪さ、ですか?」


 少し引っかかる言い方だった。


「中村……悪さしちゃダメだぞ」

「俺はしてねえよ!」


 分かってる分かってる冗談だよと諭していると、


「悪さしでかしてるのは一年じゃないからな」


 キャプテンのその言葉に俺と中村は顔を見合わせた。


「知……ってたんですか? 二年の先輩がその……」

「最近空気が妙なのはな。一応部長だから……と言いたいところだが、その様子じゃ俺が思ってるより深刻みたいだな」


 中村は自分の頬を手で抑えた。その傷が何なのか知りはしないはずだからカマをかけたのだろうが、それは部内で……二年生に異変が起きていることを認めているってことになるのではないか。


「教えてくれませんか! 二年の人に何か変わったことがあったんなら、それ」

「知ってどうする一年生」

「それが解決できることなら……クラスメイトが痛い目にあってるんです、どうにかしたいと思うのは当然です」

「それはいい心掛けだがこれは部内の問題だからな。部外者に語ることじゃない」


 立ち入ることを拒絶されたようだった。そうなると、これ以上食い下がることはできない。

 どうにかできないか、苦虫を噛み潰した表情で俯いて考えたがすぐに案は出てこない。


「…………すいません、財布を探してたっていうのは嘘です」


 代わりに漏らしたのは真実、本音。嘘偽りのない言葉。


「おま、何をっ」

「本当は音無先輩に言われて最近の運動部で変わったことがないか調べてこいって言われたんです」

「音無が……?」


 そして嘘で塗り固めた虚言。背後で中村が面食らってる気配が伝わってくるが構わず言葉を続けた。


「友達が怪我をさせられて、思い当たる節が貴方にもあると見受けました。だったらそれを教えてもらえませんか?」


 俺は真っ直ぐに先輩を見上げて言った。嘘と真実を綯い交ぜにし、引き合いに出してしまった音無先輩の名前に申し訳ないと思いつつ。


「どうして探し物だなんて嘘を吐いた?」


「確証がなかったからです。そんな状況で家探しなんて本当はすべきではなかったと思っています。ただ、それでもしなくてはならないと直感があったので、嘘を吐いてしまいました。すいません」


 俺は大きく頭を下げて、そしてすぐに上げた。


「けど今は間違ってなかったと感じています。現に先輩も異常を感じていたようですし、だからこそ僕は何か知っていることがあれば教えてもらいたいんです」


 真っ直ぐにその目を見て。本心を伝えた。

 微塵も動じた様子もなく先輩は見返してくる。流石最上級生、どっしりとしている。けど俺だってここで目を逸らしはしない。


「……最近、どこか特定の部活ってわけでもなく全体に及んでの話だが」


 やがて踵を返した先輩は部室内で語り始め、俺は黙って耳を傾けた。


「二年のそう少なくない人数がよろしくない所に出入りしてるって話が出回りだしてるんだが、中村は知ってるか」

「あ……はい……」


 ここに来る前に交わした会話でその話は聞いている。どこかに集まっているらしいという噂を確かめるためにここまで来たと言っても過言ではない。


「あくまで噂だと俺も思ってたんだが、この間勝手にここで屯していたあいつらが落としていったモノがある」


 中村に触るなと言われていたロッカーの一つを開けた先輩は、中から一枚のカードを取り出した。名刺くらいの小さな紙だ。

 どこかの店のカードのようだった。


「噂は噂であって欲しかったんだがなあ」


 そこが二年生の集まっている場所に違いない。


「これもらっても?」

「探してたんだろ」


 頷く俺に先輩はカードを渡してくれた。


「ちゃんと音無に渡してくれよ」


 と念を押されて。


「分かりました……」


 嘘を重ねることにいい気持ちはしなかったがこれで最後だ。


「中村、行こう」


 彼の背中に手を添えて外へ連れ出し、ご迷惑をかけた先輩に頭を下げた。


「お騒がせしました。教えていただいたことは必ずお役に立てます、ありがとうございました」

「堅苦しいな。お前の先輩によろしく言っといてくれ」

「はい」

「失礼しました!」


 最後にもう一度頭を下げた俺たちは、逃げるようにその場を後にして教室へと戻った。


「……どうせなら女子に片付けてもらいたかった」


 だからその後で野球部の主将が漏らしたその呟きを聞くことはなかったのだった。




 そして誰もいない教室へ戻った俺は先を急ぐべく鞄を手に取りすぐに教室を飛び出そうとした。


「じゃあ俺はさっき先輩が教えてくれた場所に行ってみるから」

「待てよ、俺も行くから」

「駄目だ!」


 同じく鞄を手にした中村がついてこようとするのを大声を上げて制していた。

 廊下に一歩踏み出したところで振り返ると、突然声を荒げられたことに驚いた様子の彼の顔が見えた。


「こっから先はうちの部に任せてくれないか? それに行った先で野球部の先輩に会ってまた殴られないとも限らないだろ」

「お前も手を挙げられるかもしれない」

「俺なら心配いらない」

「ボランティア倶楽部を巻き込むような嘘ついて心配するなは無理がある」

「嘘はついてない」

「音無先輩が調べろって言ったってのは?」

「これから指示してもらえば嘘じゃなくなる」


 中村が不服そうなのは俺を案じてのことだろうか。それは嬉しいが、異常事態の可能性があるならばもう巻き込みたくない。


「……さっき一緒にいたのはお前の彼女かぁ?」

「話そらすなよな」

「悔しいがお似合いだったぜ……彼女は大事にしないとな」

「何が言いたいんだよ」

「お前がこれ以上傷物になったら俺が恨まれる」


 俺が廊下へ踏み出すと、入れ替わるように一人の女子が教室の扉の影から姿を見せた。

 教室の中にいた彼からは見えていなかったが、廊下に出た俺からはさっきから彼女が不安げにこちらを窺っていたのが丸分かりだった。


「ずっと借りててごめん。もう用事は済んだから」


 女子にそう耳打ちし、室内で困惑してる中村に手を振ってそれじゃあと別れを告げた。

 背後から呼び止めようとする彼の声がしたが、振り切るように下駄箱へ向かった。

 後は彼女が引き止めてくれることを期待した。もしも彼女を見捨てて俺なんか追ってきたらバッキャロウと叫んで一発ぶん殴ってやろう。

 殴りたくはないから俺は大急ぎで靴を履き替えて校門前のバス停へと走った。

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