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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅲ
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放課後の騒動 2

 どうしたものか。先輩たちにはこのまま帰っていいと言われたけれど、これじゃあただ単に早引けしただけになる。

 とぼとぼと廊下を歩いていたら、前方から探していた相手がやって来た。

 傍らに神崎さん……クラスメイトの女子を連れて何をしてんだいと冷やかすつもりにはなれなかった。


「おい、どうしたんだよ」


 小走りに近寄った俺は中村に問い掛けた。左の頬に湿布を貼って怪我をした様子に神妙な面持ちをしてしまった。

 向こうも俺に気付き、隣の女子に何か耳打ちするとその子は心配そうに傍を離れた。

 横を過ぎていく女子をちらりと目で追っていると、


「お前こそどうしたんだ?」


 と言われ視線を戻した。


「そっちが俺を探してるって聞いて様子見に来たんだよ。いるかどうかは分からなかったけど……保健室から帰りか?」


 ああと頷きながら壁に背を預けたので、俺もその隣で倣った。


「俺を探してたのと関係が?」

「気にすんな」


 っていうことは関係ありってことか。


「先輩からの暴力とかか」

「……だから」

「関係ないわけないだろう。俺を探してたお前が怪我してんだぞ」

「いやぁ……実際の所、相沢とは本当に関係が薄いんだ」

「どゆこと?」


 少しずつではあるが、中村は事情を話し始めてくれた。


「お前を探してたのは事実だよ。けどいないならいないで良かったんだ。巻き込まれなくて済んだんだからな」


 巻き込まれるというのは彼が怪我を負った原因についてのことか。


「最近おかしいんだよ……二年生」


 おかしい?

 言葉には出さずに眉根を寄せるだけにして続きを促した。


「お前に絡むようになって少ししてからかな。最初はそのせいで気が立ってんのかなって思ってたんだよ。けどまあその苛立ちっつうか、捌け口の矛先は立場の弱い俺たちにも向いてきてな」


 暴力性が俺だけじゃなくて部内で起きてるっていうのか。


「そりゃあ……問題じゃないか?」

「問題だよ問題。けど三年生に見つからないようやられてるからこっちも困ってんだよ」


 滅茶苦茶不愉快に言ってくる。こうして実害が及んでいるんだから当然だろう。


「それこそ三年に相談できないのか? 部内で暴力沙汰なんて穏やかじゃないだろ」

「今日みたいにあからさまなのは初めてだよ。一年の間でもそういう話は出てっから、もう限界だろう」


 そこまで言うからには本当にきついのだろう。理不尽な行為に辟易しているのは明らかだ。


「けどなあ、あんまり大きな声じゃ言いたくないけど」

「なんだよ」

「手を上げてきた時のあの人ら、普通じゃないつうかなんつうか……」

「普通じゃない?」

「妙な感じ……ぼんやりしてるのに凶暴な……とにかくおかしいんだよ、その瞬間」


 そうまで言わせしめるからには相当に奇妙な様相をしていたに違いない。

 俺はメガネをくいっと上げて考えた。

 日常の中に異常が紛れ込んできたような違和感がある。


「結局お前に色々喋っちまったな……。この件は最上級生にチクっておしまいだ」

「ところで二年生がおかしくなった原因に心当たりねえか?」

「何だよ急に。……特に思いつかないな」

「最近ハマってる事とか、話題にしてる事とかさあ」

「だから思いつかないって」


 しつこく問い詰める俺に怪訝な表情を向けていた中村がふと黙り、何か気付いたように声を漏らした。


「そういや放課後に二年だけで集まってどっか行ってるみたいだけど」

「最近になってか?」

「飯とかカラオケとかそういうのだと思ってそこまで気にしてないけど」


 それでも微かな変化は何かしらのヒントになるかもしれない。

 壁から背を離すと、彼に告げた。


「探ろうぜ、原因をさ」

「……はぁ?」




 無理を言って中村に案内させたのは、部室棟にある野球部の部室。

 汗臭くって鼻がひん曲がりそうだ。


「ったくさあ。お前に会わなきゃ良かったよ今日は……」

「愚痴るな愚痴るな」


 そろりそろりと踏み入った俺は入口の戸の近くに立つ中村に言う。そわそわと落ち着きなく外の様子を見張ってくれている。


「それより誰か来たら」


 足元でくしゃくしゃになっている洗濯された様子のないインナーをつまみ上げる。くっさ。


「ちゃんと教えてくれよ」


 空いたカゴに同じような布っきれをポンポンと投げ入れる。長く持てば持つほど指に臭いが染み付きそうだ。

 ある程度部室内を整理整頓したところで、手付かずのロッカーを前にした。


「二年生が使ってんのはこれか?」

「ああ……絶対他の人のには触んなよ! 絶対だからな!」

「フリか……」

「マジだよ!」


 冗談冗談と場を和ませながら、実際には和んじゃないけどそれは置いておいて、目的の人物たちが使用しているロッカーをそっと拝見させてもらった。


「失礼しますよ」


 開けてみればご多分に漏れず汗臭い。密閉されてた分室内よりもムンムンだ。こりゃやばい。

 中にあるのはくしゃくしゃのシャツや用具。頑張ってつまみ上げてロッカー内を探ってみても求めているようなものはない。

 元通りにくしゃくしゃに戻してから次のロッカーへ。


「これは……!」

「なにか見つけたか?」

「大人にならないと買えない絵本、エロ☆漫!」

「変なもん見つけんな!」


 結局ロッカーからはめぼしい物は見つからず、改めて部室内を捜索していると中村が声を掛けてきた。


「一つ聞いていいか」

「いくつでも聞いてくれ」

「どうしてそこまで一生懸命になってくれるんだ?」


 散らかっている室内を更に片付ける手を休めずに返答した。


「ボランティア倶楽部だからかなぁ」

「どういうこった」

「先輩たちなら放っとかねえだろって話」


 床を綺麗に掃きながら答えを続けた。


「あの人たちと一緒にいるとさ、影響されることが多いんだよ。もしも困ってるお前を見たら絶対手を貸すだろうなって……そう思ったからさ」


 てきぱきと片付けた荷物を部屋の隅に重ねて手をパンパンと払った。


「それに今日はあの人たちは来れないから、なら代わりに俺が手助けしとかなきゃあ、後輩として立つ瀬がないだろ」

「リスペクトしてるな」

「当たり前だろ、同じ部の先輩だぜ?」

「嫌味か」


 俺と中村は顔を見合わせて声を押し殺した笑いを漏らした。笑える余裕があるなら安心だ。

 今言ったことは勿論本心である。けれど俺がこうして野球部の部室を物色している理由はそれだけじゃない。

 日常から乖離しかけた異常が最近の野球部にある気がした。ならそれはボランティア倶楽部としては見過ごせない出来事である。これを見過ごしたとあっちゃあ、それこそ先輩たちに顔向けできない。

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