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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動二
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魔法少女と悩み事

 俺と鈴白さんが誕生日会についての案を捻出しだしてしばらくの時間が流れた。

 テーブルには、彼女が広げていた勉強道具とは別に俺の開いたノートがある。そこに部室の見取り図を書き、どこにどういう飾り付けをするか、黒板にどんなメッセージを書くか、少しずつではあるが形にしていた。

 その間にも、マジカルシェイク移動販売店には何人ものお客さんが訪れ、ある人はテーブルに落ち着き談笑したりし、ある人は買ったスイーツを手にそそくさと帰宅したりし、ある人は真神店長をナンパしたりしていた。


「少し休憩しよっか」


 デコレーションに必要な材料をいくつか上げ、誕生日プレゼントは何にするか、予算はいくら必要かといった難しい問題に取りかかるところで、一旦頭を休めることにした。


「はい……そろそろ頭が疲れるところでした」


 椅子に座る鈴白さんの体がふらふらしている。頭がオーバーヒートするところだったに違いない。


「お疲れい。これ、サービス」


 休憩を挟んだタイミングで真神さんがコップを二つ、俺たちのいるテーブルに差し出してきた。オレンジジュースだ。


「ありがとうございます」

「えへへ……かざりさん、ありがとう」


 疲れた体に程よい酸味が染み渡る。一気に全部飲み干してしまいそうなほど飲みやすい。鈴白さんも、小さなお口でこくこくと飲んでいる。ぷふぅ、と一息つく様子も可愛らしい。


「どうかしました?」

「ん? ああ、いや」


 眺めていたのに気付かれて、咄嗟に曖昧な言葉しか出てこなかった。可愛いからじっと見ていたよ、なんていくら実の妹のように可愛いからといって口にするのはご遠慮したい。まあ、俺に実の妹なんていないんだけど。


「そういや、宿題? ノート広げてたけど、あんまり進んでないみたいだったなって」


 だから俺はノートを広げる前にテーブルにあった彼女のノート類のことを話題にすることで、話を有耶無耶にしようとした。


「分からないところがあるなら、休憩の後に見てみるよ」


 だけど彼女は答えてくれない。俯いて口を閉ざす様は、今日ここに来た時に目撃した彼女の雰囲気だった。


「何か嫌なことでもあったの?」


 俺は心配になり、お節介かとは思ったが訊ねずにはいられなかった。可愛い妹のこんな様子は見ていて気持ちのいいものじゃない。


「そういうんじゃないです。ちょっと考え事……自分のことで」


 彼女自身のことで思いつめるような何かがあったのか。ますます心配になってしまう。


「言いづらいことなら無理に聞いたりはしないけど。話せることなら、俺で良ければ聞くよ」


 そう言ってからもしばし俯いていたが、やがて顔を上げると、周囲の様子を確認するように首を巡らせた。

 今は辺りにお客さんはいない。店長も車の中にいて、この席からは姿は見えない。今は俺と彼女の二人しかいないようなものだ。


「わたしの……力のことなんです」


 彼女の力。忘れもしない、俺を守ってくれた彼女の力だ。変身した時の格好は忘れられない。まさに魔法少女って感じのかわいい衣装だった。

 そんな彼女の能力は、召喚術だ。陣を描き、龍や精霊を呼び出して戦わせたり支援をさせたりと、彼女が命令……じゃなく、お願いして言うことを聞いてもらうのだ。


「自分の力が、どうかしたの?」


 少しずつ話してくれる彼女が考えているのか、ゆっくりとした声音で聞き出そうとする。


「この間、お兄さんが襲われた時のこと……覚えてますか?」

「ああ、勿論」

「その時思ったんです。このままだと、あやめさん達みたいに誰かを守ることなんてできないって」

「いやいや、そんなことはないと思うぜ?」


 落ち込んでいるのが手に取るように分かる。何故そうまで思い悩んでいるのか理由に思い当たらないが、正直に感じたことを言う。


「現に君が俺を庇ってくれたおかげでこうして無事なんだ。俺自身が一番そう思ってる、間違いないって」


 そう告げるのに、彼女の表情が晴れることはない。


「ダメなんです。途中で力尽きちゃって、お兄さんも怪我しちゃって。かりんさんが来なかったら、もっとひどい目にあっていたはずです。それじゃダメなんです」

「気にし過ぎだって思うけどな。自分じゃ納得できない?」


 鈴白さんは小さくこくりと頷いた。


「お兄さんと一緒にあやめさんとかりんさんにたくさん迷惑かけていこうって言いました。けど、わたしができることはわたしでやりたいんです」


 その気持はよく分かる。俺は戦う力なんてないから、そういう面で先輩たちに迷惑をかけるのは当然のことだ。だからこそ、ボランティア倶楽部の活動くらいは精一杯支えていきたい。だから先輩たちと同じく戦う力を持つ鈴白さんなら、可能な限り自分の力を使いたいのだろう。


「その気持は分かるけど、じゃあどうしたもんかな……」


 俺の手には余る問題に思える。戦う力のないタイプのスペシャライザーの俺にどんなアドバイスができるというのか。


「実力をつけるっても、簡単にできるもんじゃないよね?」


 自分の能力についてさえ、四之宮先輩に効くかどうか試すまで分からない程度にしか把握してない俺が、他人の能力についてあれこれ口を出すのもおこがましい気がする。

 それでも、折角話してくれたのだから何か言ってあげなくてはという気にさせられたので言ってみたのだが、なんとも参考にならないことしか口にできないのだった。


「それは……もしかしたらすぐできるかもしれないんです」

「そうなの!?」


 たまげてつい声が大きくなってしまった。周囲に人はいないから変な目で見られることはないが、大声でする話でもないので声のトーンは元に戻す。


「鈴白さんって簡単にパワーアップできる能力なの?」

「いえ、ちゃんと説明するとそうじゃなくって」


 そういえば彼女が自分の力について話してくれるのはこれが初めてだ。俺は大人しく話に耳を傾ける。


「二年前に契約が解けてしまった相手とまた契約すれば、あの時くらいの力になるかもって思ったんです」


 二年前? どこかで聞いたことのあるワードはすぐに思い当たった。二人の先輩が一時、力を喪失することになったのと同じ時期だ。


「大戦があったのと関係がある?」


 鈴白さんは頷いた。


「そこで少し無理させちゃって、契約がトンじゃった子たちもいて……」


 契約か。彼女が魔法陣を使って召喚する相手とは、それが必要になるのか。


「だから、また契約をしたら今よりも強くなれるって、そう思うんです」

「そっか。でもそれから二年もあったなら、契約し直す暇もあったと思うんだけどな。どうして今になって?」

「それは……」


 言い淀んでいるのか言葉を選んでいるのか、しばし間を置いて続けてくれた。


「……ドラゴちゃんやルナちゃんがいればいいよって、他の人が言ってくれたんです」


 他の人っていうのは、彼女の知り合いのスペシャライザーだろうか。


「だから再契約しにいくことはしませんでしたし、それで十分でした。この間までは」

「他の人はどうしてそういうことを言ったのかな」

「みんな優しい人たちばかりだから、これからはわたしが戦う力を持たなくてもいいって……それに甘えちゃったんです」


 なるほどと思った。大きな戦いを経て、戦う力を減退させてしまった鈴白さんを戦場から遠ざけるために他の人たちってのもそんなことを言ったんだろう。確かに彼女は、戦場にいるよりも日常で笑っている方が相応しく思える。


「だけどそれじゃダメなんだって、思い知ったんです。お兄さんのおかげで、わたしはわたしがどうしたいのか、なんとなくですけど……」

「うん。分かるよ、その気持ち」


 彼女が見上げてくる。俺なんかが言っても薄っぺらくしか聞こえないかもしれないが、彼女の気持ちが分かるのは本当だ。


「俺も先輩たちにはたくさん迷惑かけるつもりだけど、やっぱり自分でやれることがあるならやりたいよね」

「あ……はい!」


 こうして彼女の気持ちを後押ししてやるくらいが関の山だ。もしも俺に戦う力があったなら、彼女と同じように考えていても不思議はないし。


「俺にも鈴白さんみたいな力があったら先輩たちと一緒に戦えたんだろうけど、そんな能力じゃないみたいだし。こうして話を聞くしかできないけど……他にできることがあるなら言ってくれよ。俺は君の役にも立ちたいんだからさ」


 俺にできることは本当に限られたことしかないけれど、それでも手伝えることがあるならと思った。

 そんな俺を見て、何か閃いたらしき彼女が体を前のめりにして言ってきた。


「あの、じゃあ、わたしと境回世界に行きませんか!」


 それを聞いて、俺はんん? と聞き返した。どこかへ行こうと誘われたのだと思うが、聞き慣れぬ単語のせいで理解できなかった。


「お兄さんも自分のお力のことで考えてることがあるみたいだし、もし悩んでるところがあるなら、きっとそこで何かヒントが掴めると思うんです」

「う、うん?」


 確かに俺も自分の能力“鋼鉄の意志”については把握してないこともあるし、鈴白さんの相談を受ける一方でそれについて理解を深める機会が得られれば願ったり叶ったりだが。


「そんなに時間はかかりませんから、今から行けば夕方くらいには戻ってこられると思いますし」

「そうだね。明日はケーキ作りもあるし、部室の飾り付けもあるし」


 今日済ませられる用事なら今日中に済ませた方が楽になるはずだ。


「じゃなくって!」


 肝心なことを教えてもらっていない。鈴白さんの目を見て問いただす。


「ええと、そのだね……どこに行くって?」

「ですから……境回世界です」


 ごめんなさい。出来の悪い僕にも分かるように説明してください。そう瞳で訴えてようやく彼女にも俺の苦しみが伝わったのだった。改めて、彼女が説明してくれた。


「ドラゴちゃん達がいる、召喚獣の住む異世界です」


そうか。よく分かった。俺みたいなやつにも理解できる説明だ。そうかそうか。


「行けるわけがない!?」


 声を荒らげて抗議した。


「行けますって。すぐですよ」

「そういうんじゃなくって!?」


 どう説明すれば分かってもらえるのか。俺は何故行けないのか丁寧に説明することにした。


「あのね……俺みたいに何の取り柄もない人間がそんなご大層な世界にお邪魔するわけにはいかないよ」

「どうしてですか?」

「どうしてって……だから俺が普通の人となんら変わらないからなわけで……そう! 弱っちいから召喚獣なんてものがいる場所に行ったらすぐボコボコにされちゃう!」

「大丈夫です。みんないい子ばかりですから」

「鈴白さんからすればね!? 俺からすればちょっと怖すぎるよ!」

「怖くないです! 本当にいい子ばかりなんですけど……嫌ですか?」


 そんな上目遣いで訴えかけないでくれ、かわいい妹みたいな存在の君にやられたら罪悪感で堪らなくなる。


「嫌、とかそういうわけじゃあないんだよ……。ただね、行ったことのない世界にいきなり来てって誘われたら躊躇うのは普通じゃないかな……」

「……そうですよね。わたし、頼りないから一緒じゃ安心できませんよね」

「よし一緒に行こう」

「本当ですか?」

「ああ。だから鈴白さんもそんなに暗い顔しないで、ね」


 親指を立てながら笑いかけた。鈴白さんはホッとしたようで笑い返してくれた。

 内心、やっちまったあああああああああああああよおおおおおおおおおん……という後悔の怨嗟が駆け巡っていた。

 だってあんまりにも鈴白さんが凹んでいるものだから元気付けようとしてそんなことを口走ってしまうのも仕方のない事だと理解してもらいたい。


「ありがとう……ございます」


 ともあれ俺が承諾しただけで微笑みが戻ったわけだし、それに誘ってくれたということは俺がその世界に行っても大丈夫だと彼女が判断してくれてのことだろうし、彼女の言葉を信じて付き合っても平気かもしれないと思い始めていた。


「あの、では人目がないうちに急ぎましょう!」


 テーブルの上の勉強道具を片付けてから椅子を鳴らして立ち上がった彼女が俺の手を引く。大した力ではないが、素直に従って腰を上げた。若干足取りが重いのは、心の片隅にある不安が完全に拭えていない証拠だ。


「ええっと、どこに連れて行かれるのかな」


 腕を引く鈴白さんは公園の茂みを通り、木々が屹立する雑木林を進んでいく。振り返ってみれば、移動販売車の姿は木々に阻まれて見えなくなるところだった。


「ここ、ここまで来ればいいです」


彼女に連れられ木々の中。二人だけしかいない空間で俺たちは向かい合った。

 鈴白さんが両の掌を打ち鳴らす。ゆっくりと離す手の間、何もないはずの間隙から現れたのはステッキだ。

 彼女が変身や召喚をする時に用いている道具である。


「今から世界をつなぐ陣を描きますね」

「う、うん」


 俺は彼女の言うことに頷くしかできない。何もかも、彼女任せにするしかない。

 手にしたステッキの先端、羽の飾りがついた方を地面に走らせると、尾を引くように光が走る。この間、彼女が使い魔のドラゴちゃん達を召喚した時と同じ光だ。異なっているのは、空に描くか地に描くかの点だ。

 見たことのない図形の陣を地に描き終え、溢れる光が辺りを明るく染める。木々に遮られていなければ外から丸分かりだろう。人の目につかないようにするため、ここまで引っ張ってきたのか。


「できました。あとはここに飛び込めば、境回世界に行けます」

「飛び込む……」


 地面に描いたこの丸い図形にか。色々と大丈夫だろうか、胸中に不安渦巻く俺の手を、鈴白さんが握ってきた。


「そ、それじゃあ行きましょう!」


 緊張してる? 少し声を上ずらせた彼女が魔法陣の上に飛び乗った。かと思うと、その姿はすっと吸い込まれていく。手を引かれた俺は疑問に思う間もなく、彼女に続いて光り輝く地面へと没入していった。

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