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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅲ
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球技大会 2

「四之宮先輩とかには会って行かないんですか?」


 話題を変え、このメガネとの出会いの切っ掛けを作ってくれた先輩の名前を口にした。顔見知りの間柄なら、というお節介の精神からだ。


「バカ言え。こちとら仕事中だ、いつまでも遊んでらんねえよ」


 その合間にわざわざ俺に珠玉を渡しに来てくれたのだから、もう少しだけ遊んでいってくれてもいいと思ったのに。もしかして会うのが照れ臭いとか、だろうか。


「お前からよろしく言っといてくれ」

「分かりました」

「それと」


 付け加えてくる真希奈さんの視線が、俺を真っ直ぐ射抜いてくる。その眼光に思わずビクリと背筋が悍ける。


「そいつはお前の仲間か?」


 違う、彼女の視線は俺の背後を見据えている。

 そのことに気付いた時、ハッと後ろを振り返る。

 顔がある。


「わお!」


 あんまりにも近かったから思わず飛び退いてしまった。


「び、ビックリさせるなよ……」


 気配を感じさせずにそこにいた明のせいで、心臓がバクバク高鳴っている。


「誰だ」


 しかし明は狼狽える俺には目もくれず、傍らにいる真希奈さんを見ていた。というか、睨み付けているというか。


「てめえこそ誰だ」


 真希奈さんも真希奈さんで明の言葉に釣られるように刺々しい雰囲気を漂わせている。

 あ、まずい。

 直感がそう訴えた。


「ワーワー! 真希奈さん! こいつは俺のクラスメイトでボランティア倶楽部に所属してる双葉明!」


 一際大きな声でわざとらしい程明るく振る舞い、一方的に明と肩を組んでそう紹介した。


「それでこの人は大門真希奈さん。俺に色々と教えてくれた……先生みたいな存在だ」


 続いて明にも真希奈さんを紹介する。


「これで自己紹介済んだよな? 済みましたよね?」


 お二人とも、もう知らない仲じゃないんだからそう喧嘩腰にならないでくださいと胸の中で強く念じた。


「ハンッ。てことはそいつもスペシャライザーか」

「はいそうです!」


 明に変わってそう答えた。


「勝手に明かすな」


 頼むから真希奈さんを睨んだまま口を開かないでくれ。


「真希奈さん! お仕事忙しいんですよね頑張ってください!」


 貴女も鋭い視線を隣りにいるクラスメイトに向けないで下さい。


「ああ」


 幸いにも彼女はそう呟き、手にするヘルメットを被ってくれた。


「仲間の躾はちゃんとしとけよ」

「む」

「ああはい分かりましたから! お疲れっす! さよなら!」


 身を乗り出すと思われた明の肩をがっしりと捕まえておき、真希奈さんにお別れを告げた。

 エンジンを掛けられたバイクは爆音を轟かせ、タイヤの焼ける匂いを撒き散らしながらあっという間に坂道を下って走り去ってしまった。


「…………はあぁぁ……」


 ただ単に真希奈さんから珠玉を受け取るだけだったはずが、思わぬ人物の登場で不必要な心労を被ってしまった。


「あの女は何者だ」

「言っただろ? 俺に色々教えてくれた先生だって」

「何を教わった」

「だから……色々だよ」


 意外としつこく訊いてくる。明にしては珍しい……初対面で火花が散りそうだったから気になってるのか。


「ていうか! お前はここで何してんだよ!」


 そうだ、よくよく考えれば何故この場にこいつがいるのか謎である。女子は体育館でバレーの試合中のはず。


「お前の背中を見かけた」

「だから追ってきたって? うんうんそうかってそうじゃねえよ!」


 話が噛み合わないことに頭を抱えてしまう。いかんいかん、ちゃんと丁寧に質問しないとな。


「今、バレーの試合中じゃなかったのか?」

「俺は出場できない」


 できない? しないじゃなく、できないだって?


「どういうこっちゃ?」

「参加するなと大人に言われた」


 大人とは教師を指すのだろう。だとしたら、教師が明に対してそう言う事情があるってことだ。


「……聖もか?」


 明は否定しなかった。肯定と受け取らせてもらおう。

 二人揃って出場禁止を言い渡されたなら、その理由は想像に難くない。

 二人とも、元は男子だったのだ。それが今は女子として学校に通っている。今回の事情もその辺りに起因してのことか。


「折角の球技大会だってのに、残念だな」


 俺は頭を掻き、出場禁止の言葉を聞かされた時の二人の心中に思い巡らせた。どんな気持ちでその台詞を受け止めたのだろうか。


「どうでもいい」


 うん。明はそうだろうな。試合に参加できないからって、それを気に病みそうにはない。


「聖はどうしてんだ?」

「応援している」

「女子の試合の?」


 頷かれた。

 なるほどな。試合に出れなくっても、聖はクラスの一員としてみんなと一緒に戦ってるのか。


「お前も戻って応援したらどうだ?」

「必要ない」

「なんで?」

「その必要を感じない」


 思わず溜め息を吐きそうになった。

 明はもっとクラスに馴染むように努めた方が良さそうだ。


「とりあえず体育館に行くぞ」

「戻るのか」

「元々そっちに行って女子の試合観るつもりだったの。真希奈さんに呼び出されたから校門まで来たけど……まだ試合終わっちゃないよな?」

「さあな」

「ええいもう! いいからお前も行くぞ!」

「俺は別に」

「一人でウロウロしててもしょうがないだろ」


 ほら来いよ。

 そう手招きしながら体育館へと足を向ける。

 明は渋々といった様子ではあったが、俺の後をついてきてくれた。

 案外素直に従ってくれるんだよな。その素直さでクラスにも溶け込んでくれたらいいのだが……明には難しい相談だろうか?

 こうして俺は明を引き連れ、グラウンドを横目に通り過ぎて体育館へと辿り着いた。

 体育館に入ってすぐ、コートの手前側では一年生のバレーボールが行われていた。一階には女子ばかりである。応援に来ている男子は二階の観覧席から声援を飛ばしている。


「じゃあ俺は上に……」


 そう言いかけた時、明から刺すような視線を向けられた。不満たらたらと言わんばかりだ。半ば強引に連れてきたっちゃそうなんだが、そんな睨まれる程とは思わなんだ。


「……みんなのトコ行くか」


 明を放っておいたらまた体育館を抜け出してどっかに行ってしまいかねないのではという懸念を抱いてしまったし、仕方なしに俺はこいつをクラスメイトのところまで連れて行くことにした。


「スイマセンチョットトオリマスヨ……」


 女子生徒だらけの一階に非常に居心地の悪さを感じてしまう。なるべく彼女らに気付かれないよう存在感を消しながら、体育館の壁際をそおっと進んでいく。

 ちらりと後ろを見れば、明は堂々とついてきている。ハートが強いのか図太いのか……周囲を気に掛けないだけかもしれない。

 そうして黄色い声援を送る他クラスの女子の後ろをすり抜け、どうにか自分のクラスのところへ辿り着いた。

 みんな試合に集中しているせいか、俺に気付く女子なんて一人もいない。それはそれで悲しい。

 コート脇のスコアボードの得点は接戦の様相を示していた。応援に熱が入っているのもそのせいか。そして応援する女子の中に聖の後ろ姿を見つけた。


「ちょいちょい」


 聖の後ろに近付いて肩を指でちょんと突いて呼び掛けた。


「相沢くん? どうしてここに?」

「ちょっとぉ。男子は上でしょ!」

「邪魔よ、邪魔」


 おぉう、聖にだけ呼び掛けたというのに俺に気付いたクラスメイトからは辛辣な言葉の数々。思わず心が挫けそうになるぜ。


「……明連れてきた」


 もうちょっと元気良く言えるかと思ったが思ったより沈んだ声が出てしまった。

 とはいえ伝えるべきことはちゃんと伝え、俺の後ろに控えていた明を歩み出させた。


「明くんどこ行ってたの!」

「早く早く! 勝ちそうなんだから!」

「いや俺は……」


 女子の輪に呑まれそうになり後退ろうとする明だったが、俺はその背中にそっと手をかざしてあげた。


「おまッ」


 睨まれたかもしれないがそっぽを向いてるので気付かないぞ。

 逃げることなどできない状況に追い込まれた明はたちまち女子に連れられて俺の元から去ってしまった。

 困惑している様子が見て取れるが、まあどうにかなるだろう。


「わざわざ探して連れてきたのかい?」


 入れ替わりにこっちへ来た聖の質問に頭を振った。


「まさか。たまたま一人だったのを見つけたから応援に駆けつけるついでに引っ張ってきただけだ」


 寧ろ明が俺を見つけて傍に来てなかったら、今もあいつがどこにいるか知らずに独りにさせていたことだろう。折角のイベント時にそれは少し寂しい。


「委員長と京子は?」

「今はコートの上だよ。二人に用かい?」

「いや……あの二人に明のことを任せようかなって思ったんだけど。他の女子には邪険に扱われたし……」


 思い出したら凹んできた。早くこの場から逃げて上に行きたい。


「けどまあ、みんないい感じに明を構ってくれてるからこれでいいかもな」

「そうだね。あとはあいつ次第……またいつの間にか姿を消したりしないか不安だよ」

「そうならないよう見張っててくんね?」

「……出来る限りね。また目を離した隙にいなくなって、君に迷惑を掛けるわけにもいかないし」

「迷惑とは思わないけどな」

「優しいね」


 うむ。それが取り柄のいい男だからな。なんて思う時点でいい男じゃないんだけども。

 女子に囲まれてコート上の選手に声援を送れずにいる明を見守りながら……場に馴染めてなさすぎて段々可哀想になってきた。


「じゃあ俺は逃げる! 後は頼んだぞ!」

「うん。そっちも応援と、次の試合頑張ってね」


 おう、と答えてすたこらさっさと二階の観覧席に逃げ出した。

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