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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅰ
139/260

小さな変化

「ぱくぱくもぐもぐ。はぁ美味しい」


 両手におにぎりを持って頬張る音無先輩は本当に美味しそうに食べている。この電車に乗っている乗客の中で一番幸せそうなんじゃなかろうか……とは言うものの、乗客は俺たち以外にはいないけど。

 あの後、聖と明が荒らした田んぼを整えて全員で田植えに勤しんだ。勿論昼飯の時間は返上だ。

 原因となった二人は着替えさせ、とにかく電車の時間に間に合うように作業して、身支度を整えて。

 かなりドタバタしておじさん達の家から駅まで急いだ。


「稲刈りもちゃんと来るんだぞ!」

「これ後で食べてね」


 駅でおにぎりを手渡して見送ってくれた二人が俺たちを見送ってくれた。

 田んぼを一枚荒らしたというのになんと寛大なお二人であろうか。全員で頭を下げたのも効いているのかもしれないが。


「慌てて食べると喉に詰まるわよ?」

「んぐぅ!?」


 窓際に座る四之宮先輩が忠告するとタイミングよく音無先輩は顔を蒼くし、ぐったりとして旅立ってしまった。


「言わんこっちゃない……」


 呆れる先輩を笑ってみている俺は、二人の向かいの席に座っている。そして隣では、昨日今日で疲れ切った様子の鈴白さんが船を漕ぎ始め、やがて俺の肩に頭を預けてきた。

 小さな体でお昼を返上して田植えを手伝ってくれたのだからこうなるのも仕方ない。起こさないようになるべく動かないよう努めよう。

 前の座席を見ると、四之宮先輩も隣の人に肩を貸していた。


「……大丈夫なんですか、先輩?」

「そのうち生き返るでしょ」


 あっけらかんと答えられた。先輩がそう言うなら平気だろう。音無先輩の呼吸が止まっている気もするけどきっと気のせいだ、うん。

 そして通路を挟んだ横の座席では、来た時と同じく窓の外を眺めている明がいる。違うのは、隣に座っているのが俺じゃなくて聖だという点だ。

 二人の間に会話はない。隣り合ってるのに我関せずって感じで黙って座っている。

 相変わらず顔を合わせない二人だけど、昨日までとは大違いだ。


「二人に何があったのかしらね」


 死んでいる音無先輩を無視してハムっとおにぎりを口にしながら四之宮先輩が呟く。


「貴方のおかげ?」

「俺は何もしちゃいませんよ」

「謙遜ならしなくっていいわよ」

「本当ですって。あいつらのわだかまりが解けたなら、それはあいつら自身のおかげですよ。俺はただ、話を訊いたり見守ったり……それくらいしかできませんから」


 そう。

 それだけ呟いて、四之宮先輩はおにぎりを頬張り続ける。


「……いい加減重いからそろそろ退いてくれない?」


 ようやく鬱陶しくなったのか、先輩は隣の人に文句を言った。


「っはにゅ!? ごご、ごめんなさい!」


 何故か反応したのは俺の隣の人だった。


「いやいや、鈴白さんはいいんだよ……」


 相変わらず死んでいる音無先輩、唐突に起きて事態を分かっていない鈴白さん。

 やれやれと溜め息を吐く四之宮先輩と苦笑し合い、通路向こうの席を再び見れば聖も小さく笑っていた。

 窓の向こうを見る明も、いつかこちら側を見て一緒に笑ってくれるだろうか。

 そうなれればいい、そうなるようにしたいなと思いながら、いつもの日常への帰路に着くのだった。



――――――



 四之宮花梨の勘違いではなかった。

 あの場には確かに第三の影があった。

 ただ、蜥蜴と蝙蝠の二匹が単に利用された立場であったのに対し、中核を成していた蛇は術者の思惑によって動いていたのだが。

 地を這う蛇が草木を掻き分け向かう先には、それを使役する者の姿があった。

 成る程、成る程。

 頭から全身をすっぽりと覆うローブを纏った者の声は誰に聞かせるでもない独り言のために、酷くくぐもって聞こえた。

 薔薇の言葉通り、中々中々面白い。

 布に隠されたその表情は果たして口で言うように愉快なものであるのか、知ることはできない。

 戻ってきた蛇は人影の足元からローブの中へ滑り込み、主の中へと還っていった。

 ローブの人物はこの結果に得心するように何度も頷きながら、その場を後にした。

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