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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動~一学期後半~・Ⅰ
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転校生の秘密

 俺の名前は相沢草太。西台高校に通う極普通の男子高生である。

 試験を翌週に控えたある日の昼休み、俺は男子トイレに連れ込まれていた。


「待てよ! そんなに引っ張んなよ!」

「うるさい。とにかく貴様には確認してもらう!」


 バタバタドンカチャ。

 女子の制服を着た人物に個室に押し込まれ、鍵もかけられ、壁にドンと押しつけられた。

 小便器の前に男子が何人かいて俺たちのことを見ていた気もするが、そんなことお構いなしに明は俺の首を絞り上げる


「苦しいって……!」

「俺は貴様のせいで比較にならない苦しみを味わっているんだ!」


 それはよく分かる。聖もそうだからよく分かる。切っ掛けを与えた俺に当たり散らしたいのもよく分かる。


「でもそれは……お前が進んで望んだから……リスクの説明も聞かなかったろ!」

「聞かせるつもりはなかったんだろ!」

「聞く前にてめえが無理矢理やっていったんじゃねえか!」


 とにかくそのことで今の俺を責められてもどうしようもない。

 何故俺が大っきな胸の女子に責められているのか、詳しく説明するには少し時間がかかる。

 なので簡潔に説明すれば、俺のせいで双葉明という男が女に性別が変わり、元に戻すことを俺に期待しているという次第だ。

 性別が変わってしまったのは、明が超人に変身するためのタウラスデバイスという特殊なアイテムの影響である。

 本来なら性別が転換するほどの影響はなかったのだが、その力を完全に引き出すために俺の能力だったアイアンウィルを使ってしまったがために、代償を背負ってしまったのだ。

 明と同じ力を持つ一野聖。彼もまた彼女になってしまった被害者であり、いつか元に戻りたいと言っている。

 俺も元に戻してあげたいのは山々だが、残念ながら俺の能力アイアンウィルは視力とともに失われてしまった。

 失われた力は俺の所属するサークル、ボランティア倶楽部の四之宮花梨先輩の体に救っていた強力な魔女を封じるため、彼女の体に移ってしまった。

 力と視力の喪失に後悔はない。先輩の友人でボランティア倶楽部の部長である音無彩女先輩や、二人の先輩の友人で中学一年生の鈴白音央さん。彼女たちが、魔女に支配されていた四之宮先輩の無事な姿を見て笑ってくれているだけで俺は満足だ。

 満足なのだが、聖や明には不満に違いない。二人を戻すには、俺の失われたアイアンウィルが一番可能性が高いはず。だから二人のためにどうにか力を取り戻したいと思ってはみるが、その方法がさっぱりである。


「とにかく! 俺もなんとかしようとは思うから……不便とは思うけど、しばらく女として過ごしてくれよ。俺たちのサポートが必要だから、ここに転校してきたんじゃねえのか?」

「……」


 明は黙った。どういう経緯でこの高校に転校してきたのか、詳しくは知らない。けどライバル関係である聖がいるにも関わらず転校してきたっていうことは、誰かが何かしらの手引きをした可能性が高い。

 まず思いついたのは真神風里さん。商店街にお店を構えるマジカルシェイクというスイーツショップの店長であり、移動販売車でよく公園に出店している面倒見のいい元気な女性だ。スペシャライザーという特殊な能力を持つ人に対しても理解が深く、明を助けることもしそうだと思った。

 次は、聖を助けた協力者。聖の性別が変わってしまうことを見越してあれこれと手を回してくれていた。おかげで聖の書類上の性別変更はスムーズに進んだのだが、残念なことにその人は既にこの世にいないらしい。その人が明にまで手を回してくれている可能性はどれ程あるだろうか。

 最後は、個人ではなくマガツ機関という大きな組織が思い浮かんだ。明が性転換することになった戦いの舞台となった人工島を所有する洋上の学術研究都市であり、そういう面倒そうなこともパパパッと済ませてくれるんじゃないかと考えたが、そこと明にどういう繋がりがあるかさっぱり読めない。


「誰がお前を転入させてきたのか、教えてくれよ」


 結局、黙っている明から事の真相を伝えてもらうのが一番早い。


「…………ない」

「はい?」


 とても小さな声で呟かれて訊き返していた。


「俺は女じゃない」

「ああ……そうだろうな」


 彼だけじゃない。先にデバイスの力を受け入れて性別が変わっている聖の気持ちもその通りである。自分が女であると、受け入れたくない気持ちはよく分かる。


「俺は女じゃないんだ!」


 明は俺の手首を掴むと、その手を己のスカートの中へと導いた。


「おおおぉい! ちょっと待て! いくらなんでもそれは」


 むぎゅ。

 と、俺の手は生温かく弾力があるモノに触れた。この触感は覚えがある。俺の体にも付いているモノだ。


「え……あれ……?」 


 俺の手はそれが何か確かめるように何度も揉んだ。普通これは、女性には付いていないモノだ。

 それくらい保健体育の授業や大人の本でちゃんと勉強している。


「確かめたか? ……俺は貴様のせいで、この歪な体で過ごさなくてはならないんだ! その苦しみが分かるか!?」


 分からん。正直分からん。理解ができない。

 聖の気持ちなら分かる。だから同じ体の明の気持ちも分かると思っていた。けど違った。

 こいつの体は、男のモノとも、聖のモノとも違っている。

 何と言うか、俺はもう申し訳ない思いで胸がいっぱいだった。タウラスデバイスのせいだから俺を責めるなと酷いことも言えなくなっていた。

 謝ってもどうこうなるモノではない。


「……すまん」


 だがどうしても、謝罪しておかなくてはならないと思った。


「相沢くん」


 バギィ。

 鍵を閉められていた個室の扉が嫌な音を立てる。鍵部を破壊され、ギギギと開く扉の前に立っていたのは、女子制服を着た金髪長髪の一野聖。ついでにトイレを利用していた男子や、大野や岡田といったクラスメイトの声も聞こえる。


「君は個室で何をしてるんだい?」


 視力の落ちた俺の視界の先で、聖は笑っているように見えた。でも目は笑っていない。それだけはよく分かった。


「スカート弄ってるぞ……」

「女子のスカートに手を入れてるぞ……」

「女子の下半身を……」


 言い逃れなどできない状況に、俺は嫌な汗をダラダラと流し続けた。


「君は最低だ!!」


 聖の怒号と共に俺の首は跳ね上がって、気を失った。

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