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おとぎばなし

悪役王妃の裏事情

作者: 白樺 小人


「鏡よ鏡。この国で一番の苦労人は誰?」


『それはもちろんぶっちぎりで王妃様、あなたですよ♪』



 薄暗い部屋で、魔法の鏡に向かって思わずつぶやいた言葉にどこか楽しそうな返事が返ってきたのにはさすがに一瞬、叩き割ってやりたい衝動に駆られたが何とかこらえた。

 疲れている私の無意識な小さなボヤキにまで反応しないでもらいたい。

 苛立ちを倍増させるこんな軽薄な鏡でも、役に立つときは本当に役に立つのだ。

 だからそう簡単に叩き割るわけにはいかなかった。




 **




 この国に嫁いでからどれくらいの時間が経っただろう。

 ほんの数年前、とそれほど時間が過ぎていないはずなのに、心休まる時間はさほどなかったために十年以上も時間が過ぎたようにも感じられる。

 とにかく一日が長い。

 豊かな、と評されていた国の実情に触れたのは入国してまもなく。

 そして日々をすごすうちに、裏の裏まで腐りきった実情に本気で頭を抱えたくなった。

 実質、お飾り王として玉座に座るだんな

 おまけに、だ。

 先妻が残したといわれる美しい娘が居たのだが、それは別段問題はなかっ……居るだけは問題無い……はず。

 あのポヤヤンぶりを発揮しなければなんら問題ない美しい義娘むすめなのだ。

 ……年がそう違わない、という事実に目を瞑れば。



 だが、である。

 だが、がつくのだ。

 なぜに私がここまで苦労を強いられなければいけないのだろうか。

 今にして思えば、別段、お飾り王妃でもよかったと思う。

 だがどこをどう間違えたのか、必死に国情を回復させるべく影で奔走する、という行動が人知れず身についてしまった。

 それほどまでにひどかった。

 あまりにもひどすぎて、この国いっそ……と考えたりもしたけれど、考えただけだ。本気で実行しようなんて一瞬でも欠片でも考えなかったわけではないが実行はしていないからセーフだ。セーフのはず。

 ゴホン、とにかく話を元に戻す。

 で、ここまで身を粉にして国の状況を回復するべく奔走しているはずの私が、なぜ、どういう訳で、どうしてこうなったと言いたいようなレッテルが貼られたのか。


 この国の貧困の原因が、私の常識無視の浪費のせいになっていた。


 慎ましやかな生活をしているはずなのに、なぜか悪の総大将扱い。

 その上、ポヤヤン義娘をいじめているという評判に、怪しげな裏組織とも手を組んでいるという噂まで。

 そんな事実は欠片ほども無いはずなのに、どう事実を捻じ曲げ伝えられ、曲解されその悪評が広がったのか。

 裏組織とかそんな大層な組織とは手を組んでいな……いや、あれは怪しげ……妖しげ?可笑しげ?愉快な仲間たち??

 えっと、うん。時折ぶっ飛んだことをしでかす一味ですけど憂愁、間違えた、幽囚……は思わず勧誘して部下に加えた。

 そうです。一応とりあえずなんとかギリギリとても優秀な裏組織とは手を組んでいます。そうでないと、この国をどうにもできないですから。



 思えばこの国に嫁いできた理由がいけなかったのだろうか。

 この国には有名な果実があった。

 それは真っ赤な外見、上部からのぞくへたがなんとも愛嬌がある。

 そしてそのままでもほのかに香る芳しい香り。

 その実を切れば、滴るほどの蜜をたたえた姿。


 その名も、りんご!


 そのまま食しても美味だ。一口かじると口の中に広がる蜜の甘みと芳醇な香り。シャリ、というなんともいえない食感。

 最高級のりんごになると、その蜜の甘味は他の追随を許さない。安物と並べて見比べると、その蜜のすごさは一目瞭然である。

 そしてそのりんごを使った有名なデザートがあった。


 それがアップルパイ!!


 サクサクの外側のパイ生地の中に、煮込まれたりんごの甘酸っぱさとのコラボレーション。ほのかなアクセントとして加えられたリキュールの味。あのゴールデンバランスのデザートは、久しく甘味に触れていなかった私の心を一発で射止めた。

 ……今にして思えば、食欲に負けたとも言える。そう、今なら声を大にして言える。



 なぜ食欲を優先したんだ私!!!



 …………。

 今更なことなので、もうこのことは闇に葬るべきことなのですよ。

 葬ろう、クスン。





 とにかくこの国の内情は、一言で言えばボロボロ。

 できの悪い子供の積み木のごとく、ちょっとでも突っつけばほころびがあちこちに見えるのだが、いかんせんこの国の裏を仕切る貴族が悪賢すぎてそういう意味では優秀すぎて困ったものである。

 だから少しでも何とかしようと考え、出番となったのがこの魔法の鏡である。

 返事がとにかく何重にもひねくれ、口が悪く、何度叩き割りたい衝動に駆られたかは数えられないほどだが、それでも他の追随を許さないほど優秀で便利道具なのだ。お役ごめんになったら、本気で叩き割ろうと考えているけれど。

 まあとにかくこの鏡のおかげでいろいろと阻止できた悪巧みもあったので、鏡の評価は差し引きゼロ。マイナスにならずにすんでいる。

 そんなこんなな色々な意味でギリギリ日常を何とか綱渡りのごとくすごしていたのですが、さすがにここにきてヤバイ事態へとことは動いてしまいました。動いてしまったのです。あの考えなしの逆有能バカ集団めぇぇぇ!!!


 人の苦労をぶち壊す真似をするなぁぁぁ!!!


 このままではいけないと白雪姫を追い出した、と見せかけ逃がした。

 だってこのままこの城にとどまり続けたら、確実にあの子、貴族の一派に簡単に殺される。

 何でもかんでもにっこり笑って品物受け取って、そのまま食べるな!!と怒鳴りつけてやりたかった。

 まあ、あのポヤヤンは何を言ってもはて?といった風に首を傾げるだけにとどまるに違いないのだが。

 そしてこれもまた、私が彼女の美貌に嫉妬して追い出した、という話になっていた。

 いや確かにかわいらしいし、きれいだし、何もしていないのにつややかな黒髪、白い肌にふっくらとした唇うううぅぅぅ……はっ。

 コホン、一瞬正気を失ってしまった。

 確かに可愛らしいし、そしてちょっとおバカでも妹のように感じている子に、うらやましいとか欠片も思っていませんから。ええ、そうですとも。

 だから鏡よ。


 私の「誰が一番美しい~」なんていう無意識のつぶやき(歌ってる風)に、即答で『それは白雪姫さ~~♪』って無駄に美声のテノールで返してくるな!!




 **



 正直、頭遺体……間違えた、頭痛い。

 ふっ。

 涙をこらえ、愚痴も堪え、時折向けられる暗殺者を叩き潰したり取り込んだり、無能部下を使えるように厳しく調きょ、じゃなく躾……もとい仕込み、ウザイ貴族連中を震えるこぶしをドレスの中で握り締め殴りたいのも堪え、とにかくただひたすら忍耐の日々。

 このままでいけば確実に老ける。

 死因が過労死、と銘打たれる。

 だが後一歩。

 あともう少しなのだ。

 この数ヶ月でいろいろと事態が動いた。

 というか無理やり動かした。

 もう耐えられない。

 絶対この一件に始末がついたら即刻離縁してやる!

 あっと、間違えた。

 数日前にあのおかざり、何者かに暗殺されたんだった。

 とりあえず代理女王として玉座に座っているのだけれど、また悪評ひとつ追加。

 私が玉座ほしさに王を殺したと噂が広がっていた。

 このころにはもう無法地帯の噂話でたらめにかかりきっていたら、何も解決しないことを学んでいた。

 そんな噂ひとつ悪評ひとつ追加されたぐらいではもうへこたれない。

 この一件が終わったら即刻、白雪姫あのこを連れ戻してこの国のトップに就いてもらうのだ!

 もう嫌だ、こんな苦労の日々。

 女王業を降りたらどこかの辺境で、りんご畑でのんきに甘味充実な生活を満喫するんだ!!

 時折報告で聞く義娘は、のんきにドワーフと楽しく暮らしているらしい。ひとまず外に出たことで、少しは常識を身につけたそうだ。

 ついでに色々と教えてあげて、とこっそり金子と為になる教科書などを渡して教育してもらった。

 元がよかったのか、優秀な子に育っている、という報告をもらった。鏡も優秀さはほめていたからそれは事実のようだ。

 本当にそれだけは、外に出してよかったと思える報告だった。こっそり涙をぬぐったのはもうここだけの話にしておいてほしい。

 あのままいけば、確実に旦那に浮気するだけされても気づかず、そのまま放置される未来が待っているに違いなかったから。

 ただ子供産むだけの道具か、お飾り人形王妃ぐらいの使い道しかなかった。


 とにかく事態を収拾つけるべく使える下僕てしたも使えない手下(バカども)もすべてを適材適所しかるべきばしょに投入しこき使った。

 特に手をかけたのが貴族一派ゲスども。もうこれでもかというぐらい手をかけ罠をしかけ誘導し、時には寝る時間を惜しんで計画の修正や軌道修正を図ったりと、多少時間がかかったものの何とか無事に粛清した。もう本当に泣きそうなぐらい大変でした。

 そして私が居なくなっても国を何とかまわせるだけの優秀な人材の育成と確保を裏できっちり仕込んだ。

 あとは残る無能貴族(クズしゅうだん)の始末と、義娘の帰還を待つばかり、というところで問題が発生した。

 もう本当に、どうしてこうなるの、と声を大にして叫びたい。


 白雪姫、帰還を拒んだそうだ(怒)


 確かに外の自由でのんきで縛りの無い世界はホッとする。

 でもね、あなたがここに帰ってきてくれないことには私が苦労し続けなくちゃいけないの。

 もうここまで苦労したんだからそろそろ自由になってもいいはず。

 粛清とか粛清とか勧誘とか八つ当たりとかマッサージとか飴と鞭の使い分けをしつつ徹底指導とか教育的指導しただけなのに女王様!!とか跪かれたりとか、果てはあなたの鞭の味が……などとのたまわれたのもあった。

 色々と丁重に断ったのも、ドン引きして断るついでに叩きのめしたのも仕事しろと蹴り出したのもあっ……無し。今の無し!ちょっと今のは聞かなかったことにしてっっ!!

 とにかく白雪姫の帰還を待つばかりの現状で、一番の待ち人帰宅拒否とか私の辞職後優雅にのんびり生活計画ぶち壊しじゃないの!

 もうこれは無理やりにでも帰ってきてもらうことにしましょうか。

 というわけで久しぶりの鏡の出番。

「鏡よ鏡……」

『もうあなたがこの国を統治すれば早いんじゃね?』

「ぜっっったいに、い・や・よ!!!だから早く教えなさい。あの子がこの国に帰りたくなるような策!!」

『は~~~~、やれやれだゼ』

 ため息をつきたいのは私のほうだ、とドレスに仕込んだ凶器トンカチを思わず握り締めつつ答えを待った。

 待つことしばし。

『そうだな。旦那を用意すればいいんじゃねえか?』

「は?」

 とっさのことに思わず間の抜けた声が出た。

『だ・か・ら、旦那だよ。夫。女王の隣に並び立つ王のことだよ』

「え?なんで?そんなことで帰ってきてくれるの??」

『あの年頃だからな。少々ドリーミーだしそれなりの夢も持っているから、シチュエーションとキャストを用意しとけば一発さ』

 なんだかこの鏡、人間の姿を持ってたらこの状況を楽しそうに笑っている姿しか思い浮かばない。

 そして鏡よ、それはほぼ同い年の私への嫌味か!

 夢なんて、このろくでもない周囲環境のそろった現実の前では儚いものなのだと悟った私への挑戦だな!!

「…………わかったわ。準備してみるわ」

 罵詈雑言と凶器を投げつけるのを何とか堪え、部屋を後にした。



 まず必要なキャスト。旦那だ。

 隣国にちょうどよさげな優良物件、もとい優秀な王子(弟)が居るという話は聞いていた。

 取り寄せた姿絵で確認したが、白雪姫あのこの隣に並び立っても見劣りするどころか相乗効果で目の保養になるに違いない見た目をしている。

 まあ偽りの姿を描かれる場合もあるので鏡で実際の姿も確認したのだが、立派にそのままどころかあの姿絵描いた画家の腕はいまいちという評価を下せるほどのお姿でした。眼福眼福♪

 ついでに裏から打診したら、快い返事ももらえたしキャストに関しては準備万端!

 あとはシチュエーションかぁ……。


 …………っく、愛しのりんごにこんなことをするのは本気で心苦しいけれど、私の将来の自由の為に、尊い犠牲となって(涙)!




 **



 というわけで計画実行の当日。

 天気は快晴。とっても素敵な計画実行日和。

 ああ、あと少し。

 あと少しで私は自由を得られるのよ!

 けれどここで手を緩めてはいけないわ。

 すべてが終わるまで絶対に油断してはいけないのよ。


 変装し白雪姫あのこが住んでいるという森の奥の自然に囲まれた家へと足を向ける。

 老婆の姿に変装しているせいで、軒並み遅々としか進まないが、ようやく目的の家を見つけた。

 好都合なことに、白雪姫はちょうど外へ出てきたところだった。

 かわいいお嬢さんへのご褒美だよ、といってりんごを差し出すと、さしたる疑問も持たずに食べた。

 …………こういう部分は後の課題かしらね。

 前々から何もかもを疑問に持たずあっさりと手を伸ばし口にしようとするのはやめなさい、といっていたのだが、今回ばかりはこの素直さに本気で感謝である。

 当初の予定通り、白雪姫は口にしたりんごのせいで気を失った。

 本当はこんなことをしたくは無かったのよ。けどあなたが帰りたくないとか言い出すから仕方の無いのよ、と自分に言い訳しつつ、ドワーフの育ての親一行様に次の行動の指示を出す。

 これで落ちないとは言わせないわよ。

 思わず笑みがこぼれた。

 隣国の王は王子を白雪姫の婿として迎えるのに条件として、王子が彼女を気に入れば、というある意味非常に厳しい条件を突きつけてきたのだ。

 だがこちらにも秘策がある。

 そのためのこのシチュエーション作りだ。

 あっちには白雪姫の劣化版の絵姿を送ってある。

 ギャップに一目ぼれするがいい、ふはははははは……はっ、こんなことをしている場合ではない。

 そろそろ王子一向が通る頃だ。

 さて、じっくりと影から眺めるぞ~♪

 そうして意気揚々と城へと帰り、鏡に状況を映させた。



 まあ一言で言えば、計画は大成功!

 そして手と手を取り合い、お互いほほ染めながら入場した二人の姿を見た瞬間、砂を吐きたくなった。会話を進めるごとに、もうこれ以上勘弁してください、と思わず土下座でもしたくなるほどだった。

 二人の作り出すピンクの空気に、周囲の一部では胸焼けしている者や顔を引きつらせる者、あとはこっそり逃げ出す者達の姿が見られた。

 真っ先に逃げ出したやつらには、逃げるに逃げられない私の鬱憤を後で痛いほど痛感してもらうことにしましょうか!



 そしてようやく、私の永の苦労が報われる瞬間が訪れた。

 そう。

 白雪姫の結婚と、王位の譲渡だ。

 内心万歳三唱を何度も繰り返した。

 ああそうだ。

 私にまつわるよからぬ噂は、あらかた払拭した。

 というか、なんだか変な噂が広まり始めていたが、そんなものは些細なことである。

 そんなことよりも、ようやく念願の自由が手に入れられることにもう頭がいっぱいだった。

 王子も噂どおり優秀で、今後が本当に楽しみな雰囲気の人でした。




 めでたし、めでたし。



 **



 …………その後なのだが。

 私はようやく自由を手に入れたはずなのに、なぜにどうしてこうなったの?!



 簡単に状況を説明するならば、隣国の王子(兄)に人質交換のごとく連れ去られ、そのままなし崩しの関係を持ち、あれこれと状況を把握しきる前にできちゃった(再)婚をしてました。

 そして気づけば王子は王となり、結果私が王妃となりました(泣)


 私の自由生活……りんごの木と共に、愛するアップルパイに舌鼓を打ちつつのんびりした生活を送る夢ぇぇぇ……。




 これは後に聞いた話だ。

 どうも以前の私の国の胡散臭い噂はこの国にも届いていたらしい。

 これ以上腐敗が進んだ場合討つことも辞さない状況まで後一歩だったとか、ってどれだけ綱渡りしてたのよ。そもそも国外へまで被害の一端が及び始めていたというのは後から聞いた話だった。

 そんな最中での、私の登場だったらしい。

 状況を静観していると、あれよこれよという間に崩壊一歩前の状況を打開した手腕がすばらしいと目をつけていた、と後から聞いた。

 私の最大の敗因は、婿取りにこの国を選択したことだろう。

 ウサギが狼の穴倉にえさを抱えてやってきたのだから。

 当時、部下達が「え?本気?」って顔で私を見つめていた理由がこうなってからわかったのにはもう完全に手遅れだった。

 というのも私は知らなかったのだが、どうも裏から手助けしてくれていたらしい。ついでに口止めはしっかりと。

 さらについでの話だけれど、城下で違う噂話が流行り始めたのはあちらが故意に流していた噂で、どうも今後の為にしっかりと手回ししていたらしい。

 その当時、もういい加減すぎる無意味な噂話は一切持ってくるな!と宣言していた。だからたとえ当時話してもらっていたとしても、たぶん聞かなかったに違いない。

 なぜ私は聞いておかなかったっ!!

 そして自由の身となった私はまんまと罠に引っかかり、捕らえられ現状に至る、という訳なのだ。


「うう、自由ぅぅ、りんごぉぉ、パイぃぃぃぃ」

「そんなに泣かなくてもあなたのりんごの木は逃げませんよ。それにパイは心配しなくても帰ればすぐ出てきますから」

 そう言ってさりげなく腕の中に捉えられた。

「どどどどど、どうしてここにっっ!!!???」

 ここは王城の中ではない。

 市街地の中にこっそり作っている私の隠れ家のひとつだった。

「あなたが度々抜け出していることぐらい把握してますよ」

「を、をほほほほほほ」

 秘儀・笑ってごまかし!

「以前の部下たちがあなたを慕ってこの国に入っているのもある程度は把握してます。それにしてもあなたの手駒はなかなか優秀ですね。私にも全容をつかめさせないとは。ああ、ついでに部下をこき使って色々手広くやっているのも知ってますし、教育的指導として鞭を振るってるのも知ってますよ」

「をほ、ほほほ、ほ、ほほ……」

 笑みが引きつるのがわかる。笑うだけではどうにもならないことはわかるのだが、一言でも何か言うべきか。

「そ、そんなこ……」

「ああ、それと最近では裏でこそこそしてる貴族一派をストレス解消代わりにしようと、何か計画しているのも知ってますよ」

 にっこり笑顔で告げる夫の姿に、そんなこと、と言いかけたまま止まってしまった。「こ、こ、こ」と、それ以上の言葉がつむげない。いや、むしろ冷や汗が止まらない。

「あ、あの……私、この辺で……」

「さて。そんな楽しそうなことをやるのは大いに結構ですけど、私を一人で置き去りにした罰は受けてもらいましょうか」

 問答無用で連れ去られる私を、部下たちは涙をぬぐうふりをしながらがんばれよ~、と言わんばかりに手を振り眺めていた。

「後で覚え……」


 バタン


 無常な音と共に二人の姿は扉の奥へと消えていった。



以前からなんとなくこんな話を書いてみたいと思いつつ、一日で思わず書き上げてそのまま投稿しました。

なんだか満足です。


1/20追記。

これを書いていて一番なぞだったのが、王妃様のりんごとアップルパイへの愛情暴走劇。どこからどうしてこうなったのかが最大のなぞ。

おそらく自分が食べたかったのが一番の理由に違いない。


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