1
「…る、………もり!…ちょっと、いつまで寝てるつもり!!」
あまり目覚めにはふさわしくない甲高い声が頭に響く。
と言うか、うるさい。
なんだって言うんだよ。
俺はまだ寝ていたいんだ。昨日は企業に提出する履歴書作りで正直寝不足だし………って、ちょっと待てよ。
俺、ひとり暮らしだぞ?
何で他の奴の声がするんだ?
そうか、夢か。
それにしても現実のような夢だな。夢の中で眠っているのに起こされるなんて。
なら、まだ寝ていても大丈夫だ、問題ない。
でも、この声、少し引っかかるんだよな。どっかで聞いたことのある声なきがする。でも、俺に女の子の知り合いなんてほとんどいない。せいぜいゼミの同期か後輩くらいだ。
あー、本当に女っ気なかったよな…。これでも花の大学生だったのに。
彼女の一人くらい欲しかったなあ。
「いい加減起きなさいよ!!」
-ドゴッ
「いってー!!」
「ふんっ」
腹に目覚めには似つかわしくない衝撃を受けた。
「ゴホゴホッ!誰だよ、いったい」
「起きないあんたが悪いのよ。この私が起こしてやっていると言うのに、いい身分よね。弁えなさいよ。あー…なんでこんな奴が…」
ぶつぶつと文句を言う目の前の少女…どこであったんだっけ?
――――ああ、そうだ。
なんか急に話しかけてきて、そしたら穴に落ちて………。
「って、ここ、どこだよ?」
良く見たらここは俺の部屋じゃない。
見たことのない部屋だ。
西洋風だし、ベッドも大きい。
それにちょっと古臭い。
「ちょっと、話聞いてる?」
「ああ………えっと。あのさ、ここどこ?」
「魔王城だけど」
「そっか。魔王城か、どうりで………えっ?」
ん?今可笑しな単語を言わなかったか?
「あの、どこって言った?」
「ちゃんと聞いてなさいよ。魔王城よ。ま・お・う・じょ・う」
いや、区切って言わなくても聞こえてんだけど。
「はあ―――――?!魔王城って、あの魔王城?!魔王が住んでいる城のことだろ!?何で俺がそんな所に」
「はあ…。ちゃんと言ったじゃない。あんたが『魔王代理』に選ばれたんだって」
「いや、言われ……そういや、そんなこと言っていたな」
「でしょ?だから今日からここは一応あんたの城ってこと。わかった?わかったら早く支度してくれる?時間が押しているんだから」
「どこか行くのか?」
「あんたの就任の挨拶」
いや、さらっと言ってくれているけど、俺、まだ理解できてないんだけど。
「俺、やるなんて言ってない」
「あんたの意思なんて関係ないわ。これは決定事項なの。あんたに拒否権なんて与えられてないのよ」
「人権はどこに…」
「何それ?聞いたことない言葉ね」
でしょうね!
そもそも人間じゃないってオチなのはわかっているよ。
「早くしてよ。あんたのせいで時間ロスしているんだから」
「…はい」
いや、なんか、逆らえない雰囲気と言うか、圧力と言うか。日本人なもんで。
「じゃあ、これに着替えて」
「これは?」
「一応魔王様だからね。そんなみすぼらしい恰好じゃ困るのよ」
「みすぼらしいって……これが日本人の基本的な戦闘服なんだけど」
確かに吊るしの安物スーツだけどさ。
別に変な格好しているわけじゃないし。
「そんな堅苦しい恰好でどうやって戦うのよ。保護力も弱そうだし」
「いや…そういう意味じゃなくて」
「?」
「…もういいです。なんでもありません」
スーツが男の戦闘服なんて言葉、もう古いのかもな…。てか、死語か?
いや、それ以前の問題か。
文化―――世界が違うのか。
「良くわかんないわね。良いから早く着替えて」
「はい」
俺に逆らうなんて選択肢は用意されていなかった。