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言の葉のチカラ  作者:
侯爵家? ありえない
6/27

お前は大嫌いだ

 何なんだ、あの、義兄だとかのたまう馬鹿は。あれで侯爵? 大丈夫か、この国は。

 馬鹿な私でも、爵位の順番くらいは理解してる。確か、上から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵だったはず。

 つまり、あの義兄だとのたまう馬鹿は、この国で二番目に高い爵位を持っていることになる。

 ………早く、言の葉の力を使えるようにならないかな。そしたら、その力で日本に戻ってもう一度自殺するのに。


 私が自ら刃を突きたてた胸の傷は、完全ではないが、大体癒えた。

 その辺は、アレグラの治癒魔法とか言うもののおかげだろう。そのおかげで、既に日常生活くらいならば、問題なくこなせる。


 なのに、何故、まだベッドの上に縛り付けられていなければならない。


 ちなみに、これは比喩ではない。実際に、魔術を使ってベッドに縛り付けられているのだ。

 言の葉の力が使えるのならば、そんな魔術、破壊してやるのだが、今は何故か使えない。

 アレグラ曰く、私の今の魔力値が最低値を下回っているからだろうとのこと。

 と言うわけで、私はあの馬鹿の来訪を、自力で阻止することが出来ない。


 ――――チッ。


「こんにちは、アキラ。今日こそ楽しくお話をしましょう」

「消えろ。二度と姿を現すな」

「そんなことを言わないでください、義妹いもうとよ」

「妹言うな。そして、消えろ」


 この義兄だとのたまう馬鹿は、紹介を受けたあの日から、毎日のように顔を出しに来る。

 何度、来るなと言ってもしつこくやって来る。


 この、私を縛り付けている魔術が何とかなれば、逃げ出すのに。

 だと言うのに、アレグラの診察と一緒に来るようになった魔術師は、絶対にこの魔術を解除しない。

 畜生。この魔術を解きやがれ。逃げさせろ。


 *****


 アキラが目を覚まして、数日の時が流れた。アレグラは毎日数度、アキラの様子を見に行き、その都度、魔術師に同伴してもらい、アキラが勝手に起き上がったりしないよう、魔術をかけてもらっていた。

 今のアキラに、無茶は絶対に禁物であるが故だ。


「《(バインド)》」


 魔術師は、今日もニコニコと微笑みながら、アキラに束縛魔法をかけていく。

 そんな魔術師を睨み付けるアキラの目は、恐ろしい。


「アキラ、お願いですから、術を解こうなんて、しないでくださいね?」

「うるさいっ! 解けっ! もしくは、あの馬鹿何とかしろっ!!」

「あの馬鹿……?」

「妹なら、兄をしっかり制御しろ!」


 あの馬鹿=兄、クレメンス侯爵ウェンリル。ようやく、アレグラの脳内でその式が完成した。

 そして、それを聞いたアレグラと、魔術師は吹き出す。そして、大爆笑した。


「何で、そんなに笑う!?」

「いえいえ。で、兄にどうしてもらいたいんです?」

「来るなって言え! 迷惑だ!」

「来るなと言えばいいんですね? ですが、そろそろあなたの傷も癒えてきましたから、家に移ってもらいますよ? そうすれば、自然と顔を合わせることになりますが……」


 アレグラが言った瞬間、アキラの表情はとても嫌そうなそれに変わった。そんなアキラに、アレグラは優しく微笑む。


「大丈夫ですよ。兄は優しいですから、きちんと言えば聞いてくれます」

「何回も言ってんだけど」

「もうしばらくの我慢ですね」


 そうしていると、扉がノックされた。その瞬間、アキラは義兄が来たのかと、表情を歪ませる。

 だが、来たのは義兄ではなく、王だった。


「お久しぶりですね、アキラ嬢。私はジェームズ・ジャン・アレグリウス。気軽にジェームズと呼んで下さい」

「は?」

「おや? 呼んでくださらないんですか?」

「知るか」


 王に対しても不遜な態度を取るアキラ。その様子に、アレグラと同席していた魔術師が焦っていたことは、最早言うまでもない。


「あぁ、かまいませんよ。私は異世界の方に畏まられたくはありませんから」

「―――で、一体何の用ですか? ジェームズサマ?」


 アキラの言い方に、敬いの気持ちは一切ない。


「くくっ。いやいや、こんな少女も楽しいですね」


 王は、そんなアキラの様子を楽しんでいる。

 まぁ、アレグラと魔術師は始終焦りっぱなしだったが。


 それが、王を迎えに来るものが訪れるまで、延々と続いた。


「いたーっ! 陛下、まだ執務は終わっていません。戻りますよ」

「宰相補佐殿……。予想よりも早かったですね」

「ええ、探し回りましたよ。宰相殿もお怒りです。戻りましょう。――アレグラ殿、失礼いたします」


 宰相補佐と呼ばれた男は、そう言って王の首根っこを掴み、引き摺りながら客間を去っていく。

 アキラは、その様子を唖然とした顔で見つめていた。


「――アレグラ。王って、偉いんだよね?」

「もちろんでしょう。それがどうかしましたか?」

「王を引き摺ったりして、いいの?」

「あー、まぁ、宰相様と宰相補佐様なら……」


 アキラに問われたアレグラは、正直にそう答える。

 宰相は、この国の筆頭公爵家当主であり、宰相補佐は、次点公爵家の跡取り息子である。

 オマケで言うとしたら、現在の宰相は王妃の弟であり、宰相補佐の末の妹姫は、第一王子の婚約者だと影で噂されている。

 影で噂されている理由は、本人(公爵家)が婚約者だと言うことを認めず、反対派の筆頭にいるからだ。

 故に、正式に婚約者とは呼べず、ただただ、公爵家の末の姫君と呼ぶだけに終わっている。

 但し、末の姫君は、滅多に外に出ることもなく、社交界に顔を出すことも殆どないが。


「まぁ、いずれ、宰相様や宰相補佐様にも正式に挨拶に向かいましょう」


 アレグラの言葉を、嫌そうな表情で聞き続けるアキラの姿が、そこにあった。


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