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言の葉のチカラ  作者:
働く? あぁ、金のためですね
22/27

仕事というもの


 この世界で成人して、私は無理やりウェンリルの仕事を手伝わされることになった。

 まぁ、この世界では年を勝手に五歳誤魔化されていたのだから、実際に日本で考えても今の私は成人しているのだが。


「アキラ、この書物を図書室へ返してきてくれるかい?」

「ん」

「それと、昔のクリアリブであった謀反について書かれた書物を、司書さんに聞いて数冊持ってきてもらえるかな?」

「ん」


 働くということ自体は面倒だが、何もせずただただあの家に暮らしているよりはよほどいい。なので、私はウェンリルの手伝いという仕事を受けている。それに、ウェンリルなら私の実力が分かっているから無理な仕事はさせようとしないし。


「あぁ、重たかったら司書の人に運んでもらうんだよ、いいね?」

「分かってるよ」


 人を完全に信用せずとも、生きていけるということはこの世界で初めて知った。

 人を適度に信用することが、生きていくことに一番いいのだと、この世界で知ることが出来た。

 両親のいないこの世界で、初めて家族と呼べる人を得て、やっと少し幸せになれた。



「あれ? アレグラのところの……、アキラちゃん、だったかな? 私が分かる? アリサの姉なんだけど」

「……ドーリス公爵家の、ジャスリーン様、ですよね」

「よかった、覚えていてもらえて」


 まぁ、今はドーリス公爵家じゃなくて、エドアルド公爵家の人間なんだけどね。ジャスリーンさんは小さくそう呟いていたが、聞かなかったことにした。


「今日は、どうしたの?」

「義兄から、この本を返してクリアリブであった謀反についてかかれた書物を数冊借りてくるよう言われてるんです」

「あぁ、ちょっと待ってね。あ、返却する本は預かっていくね」


 ジャスリーンさんは、そう言って私の持つ本を手に、すたすたと奥へと向かっていく。………とりあえず、ここらにいればいいのかな?

 ていうか、この図書室で自分で探し物をしようとしても、この冊数を、この高い高い本棚を見るとやる気が失せる。なので、この図書室に慣れている司書であるジャスリーンさんが戻るのを待つことにした。



「はい、お待たせ。まず、こっちが大まかに説明してある本。で、こっち側が詳しく書いてある本ね。……このくらいで大丈夫かな?」

「細かい冊数は指示されていないですが、多分大丈夫だと思います」

「そっか、それはよかった。……じゃあ、行こうか」


 本を持ったジャスリーンさんはそう言って歩き出す。ちょ、そのくらい自分で持つって!!


「こんな細い腕で何言ってるの。子供は大人しく大人に甘えなさい」


 丁寧に訴えてみたが、ジャスリーンさんはそれを聞き入れず、とにかく歩き続ける。………って言うか、私、もう大人だから。成人したから。


「あー、そっかそっか、一応成人したんだっけ。……アリサと同い年だからつい、ね。ゴメンね」

「いえ……」


 ……なるほど、末の妹、アリサと同い年だからということで、私は子供扱いされていたわけだ。まぁ、この人、と言うかドーリス公爵家はとにかくアリサを溺愛しているようだし、その結果、私もそれだけ幼く見えるということだろうか。

 そうしている間に、いつの間にかウェンリルのいる部屋の前についていたらしい。ジャスリーンさんがノックしていた。


「あぁ、ジャスリーン様、ありがとうございます。アキラもお疲れ様。しばらくは頼む仕事もないからゆっくりしていてくれ」

「ん」


 んじゃ、隣の部屋で寝とくわー。おやすみ、ウェンリル。


「また用事が出来たら呼ぶからね」

「ん」


 というわけで、ベッドに横になって、っと。………ぐぅ。



「アキラ、起きなさい。帰ろう」

「ん?」

「もう今日の仕事は終わった。帰ろうか」

「あぁ、もう終わったの?」

「……アキラ、外を見てごらん? もう、という時間ではないんだよ、今は」


 仕事を終わらせたらしいウェンリルに起こされた。……うん、外?

 うおぅ、いつの間にか随分と暗く……、って、これ、もう相当遅い時間じゃん。今日の仕事、結構かかったんだなぁ。


「先に帰してもよかったんだが、あまりにも気持ちよさそうに寝ていたからね」

「ん、よく寝た」

「お腹が空いただろう? 早く帰って食事にしよう」


 んー、確かにお腹が空いたような気もするな。うん、早く帰ってご飯食べてお風呂入って、寝よう。

 そう思っていると、ウェンリルは帰り支度を始め、通信機を取り出して馬車を城の入り口に呼んでいた。おっと、私も帰り支度をしなくては。


 そして家に帰ると、アレグラは既に帰ってきて、私たちの帰りを待っていた。


「お帰りなさい、お兄様、アキラ。お腹が空いたでしょう?」

「うん、ご飯、まだ?」

「もう少しですから、それまでに着替えていらっしゃい」

「そうする」


 まだなら、遠慮なく着替えに行こう。着替えれば、戻ってくる頃にはご飯の準備が出来てそうだ。

 ……うん、さっきからお腹がぐーぐー鳴り出してるんだよね。それ聞いて、着替えを手伝ってくれてるメイドさんがクスクス笑ってるからなー。


「もうすぐで食事の支度も整うと思いますので、もう少し我慢してくださいね」

「分かってるから、笑わないでよ……」


 恥ずかしくて、顔が赤くなるからさ。うん、ホントやめて。居たたまれない、居たたまれなさ過ぎる。


「アキラ様、食事の支度が整いましたよ」

「あ、今行くっ!」


 着替えも済んでるし、何の問題も無い。よし、ご飯だご飯。食事だ食事!!


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