何があっても嫌なもの
「さぁ、薬を飲みましょうか、アキラ」
「お断り」
「飲まないといつまで経っても体調は戻りませんよ? わがままを言わずに飲みましょうね」
「だから嫌だっての」
「いいから飲みなさい。それとも、無理やり飲ませて欲しいですか?」
あのクソ不味い薬を誰が飲むんだ、誰が。私は絶対に飲まないぞ。あんなもの、飲むくらいならずっと体調が悪くてもいいね。それほどに、あの薬は飲みたくないね。
「いいから飲むんです。お兄様、アキラを」
「任せろ。アキラ、しばらく大人しくしているんだよ? 薬を飲んだらすぐに離すからね」
しまった! いつの間に近づいていたんだ、ウェンリル!?
気づかぬ間に近寄ってきていたウェンリルにしっかりと羽交い絞めにされた私は抵抗が出来ない。その間にも、アレグラは薬を持ち、にっこりと微笑みながら近づいてきている。ヤバイ、危険だ。
「今日の薬は、アリサお嬢様の姉であるエルミナ様が直々に作ってくださったものです。エルミナ様は優秀な方、きっとかなりの効果があるでしょう」
「知らねーいらねー必要ねー」
「もう少し魔力が回復したら飲まなくていいですからね。今はまだ、飲みなさい」
「拒否。あんな苦いもの、誰が飲むか」
「ですから、薬は苦いと決まっているんです。大人しく飲みなさい」
大体、薬なんて飲まなくても大丈夫だっていうのに、どうして飲まないといけないんだ。
「飲まないといけません。倒れたいですか?」
「動かなければ倒れもしないだろうが」
「このままずっと動けないでいると、寝たきり生活になりますよ?」
「そしたら死ぬだけだろ」
動けないまま、そのまま死ねば倒れもしないし、ただ死ぬだけ。私の当初の目的が果たされるだけだ。
「だから、………とっとと離せやバカ兄がぁぁ!!」
「こらこら、言葉遣いが悪いよ。そして、ただでさえ魔力が少ないんだから無理して暴れない」
くそう、どうしてウェンリルは力が強いんだ。必死で暴れてもウェンリルの腕から逃れられない。その間にもアレグラは薬を持ち、ニコニコと微笑みながら近寄ってきていた。
「さぁ、大人しく口を開けて、この薬を飲みなさい。その後はちゃんと休んでいるんですよ」
「ちょ、待てぇぇぇぇええぇぇ!!! ……んぐっ!」
しまった、阻止の声を出すのに口を開けた分、その隙間からしっかりと薬を入れられた。
「吐き出してはいけないよ。きちんと飲んだら離すから、飲み込みなさい」
「んう! んうぅぅぅうぅうぅう!!」
苦い苦い苦い! 飲み込むことを私自身が拒否している! 飲み込みたくない!!
「早く飲み込んだほうが苦味も早く消える。頑張って飲み込みなさい」
クソ兄! この味を知らないから言える台詞だ!! そう思いつつも、若干無理やり嚥下する。………まっず。
「うえぇ」
「よく頑張りました。さ、後は休んでいなさい。無理はいけないよ? きちんと休んでいるんだよ、いいね」
さっきの抵抗と薬の苦さで既に体力は使い果たした。だから、休めという意見は大人しく聞き入れざるを得ない。というか、無理する力すら残ってない。
というわけで多少ふらつきながらも自力でベッドへと戻る。さて、後はっと。
『出てけ』
その言葉を紡ぐと同時に、望まない退出を促された二人は驚いた表情を見せる、が無視。
『完全封鎖』
後は、とどめにこの言葉を紡げば完了だ。これで邪魔は入らない。後はとりあえず、寝よう。
「お目覚めになられましたか?」
「んあ?」
「おはようございます、アキラ様。何か欲しいものなど、ございませんか?」
「何もない。それより、何で入ってこれた?」
「……一刻ほど前から、アキラ様のお力が及ばなくなったらしくそれで入れるようになりました」
「……どのくらい寝てた?」
「アキラ様がこのお部屋に誰も入れなくしてから、およそ三刻ほどでしょうか」
つまり、約二刻で力を失ったというわけだ。前は寝ていてももう少し持っていたはずだが、やはり魔力量とやらが低いのが原因なのだろうか。
くそう、明確な理由が分からないと対策の練りようがないな。対策を練らなくては、………鬱陶しいのが二人いるし。
そう思っていると、いつの間にかすぐ横まで来ていたメイドが目線を合わせ、にっこりと微笑みながら告げてきた。
「アキラ様、もうしばらくしたらお夕飯の時間ですので、眠たくてもお起きになられてお待ちくださいね」
逆らえない感じがふつふつと沸いてくる。っていうか、いつの間にここまで近寄って来たんだ?
「よろしいですか? アキラ様?」
……って、いきなり肩を突くなぁっ!!
「あら、申し訳ございません。アキラ様を見ていると、つい……」
ちょ、待て! つい、何なんだ!? このメイド、恐ろしすぎるだろ。
アレグラ、ウェンリル。何を考えてこの怖いメイドを採用したんだ。こんな怖いメイド、そばにいて欲しくないな。
………何をされるか分かったものじゃないからね。
「ちなみに、もしお休みになられていた場合は、よっぽどお疲れなのだと判断し、僭越ながら私がアキラ様のお食事の補佐をさせていただきます」
「遠慮する」
「いえいえ、遠慮なさらずどうぞ扱き使ってくださいませ」
「いらねー、出てけ」
「アレグラ様より食事まではアキラ様のおそばに控えているよう命が下されて下りますので、この部屋を去ることは出来ません」
……んだと。まったくアレグラめ、余計なことを。
そう思いつつも、横になっていたせいかまた眠ってしまったことを、後から本気で後悔した。
―――後悔先に立たず、これ名言。
最近調子いいです。
次もそう遠くない日に
更新出来ると思います。