淡い光と漆黒の闇
書けたので今日も更新
目を開けて映ったのは見覚えのあるようでないような、よく分からない景色。今までいたはずの真っ暗な世界じゃなくて、光の射す世界。
「よかった、アキラ、戻って来てくれて………」
「アレ、グラ……?」
見れば私はベッドに寝かされていて、そのそばにはアレグラとウェンリルがいる。
あぁ、声を出しているはずなのにその声は掠れている。この声を、アレグラはきちんと聞き届けてくれただろうか。きちんと認識できただろうか。
それよりも、私はどうしてこんなにも醜い世界に戻って来てしまったのだろうか。二度と、戻るつもりはなかったのに。
それなのに、私を包むこの雰囲気はとても明るい。アレグラが私を見つめる瞳は、とても温かい。
――――その優しさが、とても痛い。
「本当に、心配しましたよ?」
「心配してなんて、言ってないよ」
だから、強がりくらいは言わせて。でも、そうやって心配されるのはね、イヤではないんだ。ただ、少し恥ずかしいだけで。
でも、それを悟られたくないから今はそうやって誤魔化すよ。
「心配は、私たちが好きにするものですよ。それよりも、何か欲しいものはありますか?」
「………水」
「分かりました。少し、待っていてくださいね」
アレグラはそう言ってメイドに指示を出す。あー、まだ喉が痛い感じ。喉が極限まで渇いた状態で喋ったからか? ま、いっか。
とりあえず、起き上がるのも面倒なのでベッドに横たわったままで水の到着を待つ。
「お待たせいたしました」
それから少しして、メイドたちがコップと水差しを持って部屋に来た。それを確認して起き上がる、が起き上がりづらいな。
だがそれでも、手を貸そうとするアレグラとウェンリルを阻止して必死で起き上がる。
「大丈夫? 無理しないで、手を貸しますから」
「いい、だいじょぶ、だし……」
実際は結構辛いんだけどね。でも、今は意地でも足掻いてやる。……あぁ、水が美味しい。
「ほかは? ほかに何か欲しいものはないんですか?」
「あとはとりあえず、………寝かせて」
アレグラたちが目の前にいると何か安心できないからさ。それなら寝てたほうがまだ緊張感がなくていいや。
だからさー、どっか行って? ゆっくり一人で寝かせてよ。
「私がそばにいますから、安心してお休みなさい」
………意味なかった。アレグラがいたら寝かせてと頼んだ意味がない。
うん、だからね?
「しばらく一人でいたいから出てけ」
「しかし」
「大丈夫だってば。寝るだけで何故付き人が必要になる」
「ですが、もし何かあったら……」
「何もない。問題ない」
だから出てってよ。一緒にいると何か、こう………何ともいえない感じになるからさ。
「メイドを一人置いておきますから。何かあったらすぐ……」
「メイドもいらないから出てけ」
この部屋に誰も置かなくていいからとりあえず寝かせろ。一人でのんびりさせろ。ただただ、のんびりと落ち着く状態で、あの世界にいたときのことも考えさせろ。
にっこりとそこまで言って、ようやくアレグラたちは部屋から出て行った。やっと一人になれたよ。
「やっと………一人………」
何故私は光の下に戻ってきたんだっけ。あの暗闇は本当に気持ちがよかった、幸せだった。
でも、この光の下もイヤではないと思えてしまう。何だかこそばゆくて、それでも不快なものではなくて。
でも、正直にそれを告げるのも気恥ずかしいのでこのままでいる。強がりを言って、出来るだけ干渉を減らしてもらって、それで生きる。
そして、もう少し大きくなったら私は消え去ろう。これ以上、こんなこそばゆい感情、知らなくていい。知る必要がない。
「ホント、何でこんな状況に巻き込まれてるんだか」
あの日、私は自分の意思で剣を召喚し、自分の心臓を貫いたはずだった。そのまま死ぬはずだったのに。あの親二人に報復して、そのまま死を選んだのに。
なのに、突然この世界に召喚された。召喚されて、生かされた。生かされて、新たな家族を与えられた。
全てが一度は捨てたものだった。一度は捨て去り、放棄したものだった。
どうして、二度目の生を与えられた? 私はあのときに死んだはずだった。自らの命の源に刃を突き立てた。たくさんの血を流し、それを見て、私は微笑みながら果てたはずだった。
私は満足だった。あれで死んでも、何の後悔もなかった。でも今は………、生きたいと思う気持ちが僅かに、僅かでもあるんだ。
アレグラたちは優しすぎる。優しすぎるから、私を受け入れてくれるから、生きたいと思ってしまう。
新たな家族を得て、私は家族の温かさを知りかけている。知ろうとしている。
それは、心地よいもので。もっと知りたい、知りたくない。……知りたくないのに、知りたい。
「何でだろな」
どうしてそんな考えに変わったんだろう。いつからそんなことを考えるようになってしまったのだろう。
死にたがりの私のままでよかった。生きたいなんて考えなくてよかった。死を望む私のまま、そのままでいればよかったのに。
「ホント、何でだよ」
涙が零れる。何故か分からないが涙が流れ落ちていく。横になった状態だから、頬を伝わずに耳のほうへ涙は流れ落ちて枕を濡らす。
この涙は他人には見られたくない。だから、腕を目の上に置いて涙を隠す。私は泣いていない。泣くわけにはいかない。涙を見られるわけには……。
―――あぁ、何か疲れたよ。