敵は心の内にあり
お久しぶりです。
やっと完成したのでアップします。
確認する余裕がなかったので、
誤字脱字あるかと思いますが、
見つけたらお知らせくださるとありがたいです。
暗い。真っ暗だ。でも、落ち着く。白よりは黒のほうがいい。
まわりには誰もいない。でも、落ち着く。人がいるよりも、一人のほうがいい。
ここは、とても快適な空間だ。
ここに味方はいない。まぁ、もともと味方なんていないのだが。
それと同様に、ここには敵もいない。敵となりうる人自体がいない。
だから、ここは快適なんだ。
流れに逆らわず、闇に飲まれてしまえばいい。闇に包まれていれば、何も苦しいことなんてないのだから。
―――私に、光なんて必要ないんだ。
あぁ、闇の中は気持ちがよすぎる。闇の中は眠たくなる。逆らわずに眠ってしまおう。どうせ、ここには私以外誰もいないんだから。
*****
「アキラ! アキラ!?」
突然気を失ったように倒れたアキラをアレグラは急いで抱き上げ、様子を診る。深く眠っているのか、何をしても反応の無い少女。なんの反応も返せない、哀れな少女。
何もかもを拒んで、魔力を発動させた。何もかもを拒み続けて、魔力を暴走させた。
人を信じられないその心が、魔力のコントロールを怠らせた。
「アキラ、あなたは私たちが守りますから。だから――死なないでください」
「アレグラ、馬車へ。屋敷へ戻ろう」
「はい。アキラ、今から屋敷へ戻りますからね。大丈夫です、何も怖くありませんから」
アレグラは眠るアキラを抱き上げて馬車へと乗り込む。それでもアキラは目を覚ます気配は無い。眠ったままだ。
いつもならば、アキラは軽い眠りにしか落ちないため、眠っているときに手を少し触れただけで目を覚ました。だが、今は違う。
完全に深い眠りに落ちているため、いくら触れようが、何をしようがアキラは何に反応も見せなかった。――それが、アレグラを心配させた。
「このまま、目を覚まさないなんてことは、許しませんからね。絶対に、あなたは目を覚まさなくてはなりません」
「アキラの様子はどうなんだ? 大丈夫なのか?」
馬車の中で、アキラを抱きしめたアレグラにウェンリルは問う。その表情は、本当に心配そうで、悲しそうで。
「呼吸が少々弱いですね。ただ、命に別状は無いと思いますが、このままずっと目を覚まさなければ危険です」
「……屋敷へ急いでくれ」
慣れない場所よりも、慣れた場所のほうが落ち着いて、目を覚ましてくれるのではないかという希望を元に、ウェンリルは馬を操る御者に告げる。
その間も可愛い義妹を見つめるが、その表情は何だか朧気で、何かあったら、違う、何もなければいつの間にか消えてしまうのではないかと思えるほどだった。
彼らは、アキラが今一番落ち着ける場所にいることを知らない。
アキラがその場所に執着していることを知らない。
アキラは、今の場所、暗闇を心から愛していた。
白い色がキライな少女。白がキライだからか、反動的に黒が好きだった。
今のアキラの目の前の色は、前面が黒。大好きな色に包まれた空間をアキラは愛していたのだ。
「目を、覚ましてください、アキラ」
「起きてくれ。僕が悪かったから、お願いだ」
だから、今のアキラに二人の声は届かない。漆黒の闇は内からの音も、外からの音も全てを遮断してしまう。
アキラは完全に、独り、だ。
「……最後の手を使います。お兄様、日が変わっても私が目を覚まさなかったらそのときは、――お願いします」
この場合のアレグラのお願いとは、呼べということだ。アレグラは最後の手段として、医療従事者としてアキラの心に入ろうとしているのだ。
だが、人の心というものはどうなっているか分からない。単純に場所かもしれないし、複雑な迷路のようになっているかもしれない。
その中で、戻ってこられないときのために、呼んでもらうのだ。人は、自分と一番かかわりの深い人間の声には、意識がなくても反応できる、耳に届くのだ。
何かあったら、その声を頼りに帰ることができるが故に、アレグラは兄にそう頼んでいるのである。
「アレグラ、アキラを頼む」
「任せてください。絶対に、連れ戻します」
*****
「随分と真っ暗ですね。これがアキラの心ですか」
アキラの心の中に入ったアレグラは、まず状況を確認するためにあたりを見渡すのだが、広がるものは一面の闇、だ。
「アキラの心に、光というものは存在しないのですね」
それが、とても悲しくて。自分たちではまだ光になることができないということをまざまざと知らされているのだ、悲しくもなるだろう。
だが、アレグラ自身は気づいていない。この闇の中で自分の姿が視認出来ることの不自然さに。
普通、一片の光も射さない場所では、何も見えないはずだ。その場にいるのならば、自身の姿の視認などもってのほかのはずである。
それでも、アレグラには自身の姿の視認が出来ていた。だが、その不自然さには気づくことが出来なかった。
そのことがこの世界で一番大きな鍵を握っているというのに、その鍵を持っているのに使うことが出来ない。それが致命的だった。
内からの音も、外からの音も遮断される世界。ここで、そのことに気がつかないのはアレグラ自身の命すら危険に晒していることに、アレグラは終ぞ気づくことはなかった―――。