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言の葉のチカラ  作者:
侯爵家? ありえない
12/27

見抜かれた記憶

 アキラが公爵家を訪れて数日後、アリサの熱が下がり、アキラたちは公爵家に招待されていた。


「お招きに預かりまして、クライシス侯爵妹、アレグラとアキラ、貴家を訪問させていただきました」

「そんな堅苦しい挨拶は止めてちょうだい、アレグラ。今回は家が呼んだんだから」


 公爵夫人は、そう告げながら近くにいるアリサを見る。それだけで、今回の招待はアリサが望んだことだと言うことがよく分かる。

 そしてその後、公爵夫人はアリサを見、優しくアリサにこう告げた。


「アリサ。アキラ嬢と、アリサのお部屋で遊んでなさい」

「うん! 行こう、アキラちゃん」


 公爵夫人()の言葉を聞いたアリサは、嬉しそうに微笑みながらアキラの手を取る。そして、目を輝かせてアキラを自身の部屋へといざなって行った。


「アリサ、無理はしないようにねー」

「うん! 分かってるよー」


 答えを返すアリサのその声は、喜びを感じさせていた。


 そして、アリサの部屋につくと、アリサはすぐに爆弾を落下させた。それは、巨大な爆弾。少なくともアキラにとってはとてもダメージの大きい、ありえない爆弾だった。


「アキラちゃん、日本って言う国、知らない?」


 何故、ここでその名前が出てくる。アキラは目を見張らせながら考える。その考えに嵌まり込んでいるがゆえか、今のアキラに答えを返す余裕などどこにもなかった。

 だが、アリサはアキラのその表情でアキラが返そうとした答えが分かったのだろう。淡く微笑みながら、紙と書くものを取り出し、その紙に何かを書き込んでいた。


「なら、モガミって言う漢字はこう書くのかな?」


 その紙に書かれていた文字は、最上。それは、正真正銘アキラの日本で使っていた苗字。自分で書いたりしない限り、二度と見ることのないだろうと思っていた文字。

 信じられない。こいつは、何者だ。そんな意味を込めてアキラはアリサを睨み付けた。


「何故、それを知ってる」

「………私が、前世の記憶を持った転生者だから。――私はね、元日本人なんだよ」


 それからアリサは、ゆっくりとアキラに説明をしていく。日本で事故に遭って死んだこと、それで転生を果たし、こうして生きていることを。

 そして、説明を終えたアリサは、まっすぐにアキラを見る。そして、静かに口を開いた。


「ねぇ、アキラちゃん。本当の年齢はいくつなの? 日本では十歳は、こんなに大人びてないでしょう? 本当は何歳なの?」

「――――っ」


 分かってくれる人がいる。私を年相応に見てくれる人がいる。その事実が、アキラを喜ばせた。そして、無意識に涙が流れた。

 嬉しい。その気持ちが、アキラの体を駆け巡る。その気持ちが涙に変わり、次々に流れ落ちていく。

 そのことで、アリサが焦っていたことは、最早言うまでもない。


「あ、アキラちゃん? どうしたの、大丈夫? えっと、一応ごめん?」


 アリサはそんなアキラに、おろおろとしながら一応謝罪の言葉を発し、そして同様に涙を拭くようタオルを差し出した。

 タオルを受け取ったアキラは、礼を言うこともなく、ただただ静かに頬を伝い落ちる涙を拭いとる。その後、ゆっくりと口を開いた。


「謝らなくていい。寧ろ、突然泣いた私が悪い。で、どうして分かった?」


 アキラが問いかけると、アリサは淡く微笑む。それは今のその体の年に似合わない微笑みだった。


「言ったでしょ? 私は、元は日本人だよ? 同胞の年くらいは大体予想はつくよ」

「なら、いくつくらいに見える?」

「んー、私の死んだときと近い感じ出し、大体十四・五ってところ?」

「あたり。本当は十五歳だよ」


 そこまで分かってくれる。アキラはそれが嬉しかった。同じ(元)日本人ならば、自分のことを分かってくれるかもしれない。そう考えたのだ。

 そう考えていると、突如アリサがアキラの手を握る。アキラは咄嗟にその手を離そうとしたのだが、アリサは離さなかった。


「離れろ! 離せ!」

「………ねぇ、アキラちゃん。日本で何があったの? 私が死んだ後に、日本は何か変わったの? 特に、子供に対する周りの接し方とか、変わっちゃったの?」


 その質問を放つアリサの表情は悲しそうで、それを聞かされたアキラの表情も、はっきりとは分からないが悲しそうだった。

 どうして、分かるのだろう。実は、日本で知り合いだったとか、そう言う可能性があるのだろうか。アキラはその悲しそうな表情のしたでそう考える。

 だが、もちろんアリサはアキラの境遇など知らない。アキラの反応見て予想をしていただけだ。


「本当に、何があったのさ」


 アリサはそう告げながら、優しくアリサを抱きしめた。


「は……なせっ!」


 アキラはそう言いながらも、抵抗はしていない。それは、アキラがアリサを受け入れ始めているいい証拠だった。

 そして、受け入れたがためか、分かってくれる人がいて安心できたのか、アキラは泣き始めた。アリサの胸の中で、思い切り泣き出したのだ。

 そんなアキラをアリサは優しく見守る。アキラが泣きつかれて寝入るまで、ずっと見守り続けていた。


 こうしてアキラとアリサのふれあいは終わりを告げる。

 与えられた安心。それが、アキラの心の氷をほんの僅かではあるが溶かした。

 ドーリス公爵家末子、アリサ。彼女はこの日、アキラの中で本当の自分を分かってくれる存在一位に君臨したと言う。


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