公爵家へ行こう
あはははは。やっちゃった。
掴んだ新たな希望とドッキング。
こちらはアキラ主体のお話、
あちらはアリサ主体のお話。
よろしければあちらもお楽しみくださいませ。
同日同時刻に更新していますので♪
あぁ、面倒くさい。心の底から面倒くさい。何故、こんなことになったのか。
今、アキラは馬車に乗っていた。行き先は、公爵家。曰く、アレグラが主治医を務める公爵家のオジョーサマが体調を崩したらしい。
で、何で私まで行かなくちゃいけないわけ? アキラはアレグラに尋ねる。
「アリサお嬢様は、アキラに会うのを楽しみにしていたんですよ。だからです」
「理由になってねぇ」
「立派な理由じゃないですか。――それに、アリサお嬢様は、病弱ゆえにお友達がいません。だから、アキラにはアリサお嬢様のお友達になってもらいたいのですよ」
アレグラが言うと、馬車は公爵家に到着したらしく、従者が馬車を止め、到着を知らせにやって来た。
そして、馬車から降りたアレグラとアキラは、公爵家のメイドに先導され、屋敷内へと足を踏み入れる。
「あぁ、今日はわがままを言ってごめんなさいね、アレグラ」
「いいえ、お気になさらず。それに、お嬢様の今回の発熱の原因には、このこともあるのでしょう?」
屋敷に入るとすぐに、この屋敷の人間、公爵夫人がアキラのほうを見ながらアレグラに話しかける。
一体何なんだ。アキラはそう思っていても、口には出さない。表情にも出さない。その瞳からは、何も伺えない。
公爵夫人はそんなアキラをよく分からないものを見るような瞳で見つめるのだが、すぐにその目は消える。そして、アレグラとアキラを彼女の最愛の娘の部屋へ誘った。
「アリサ。アレグラが来たから起きて」
「………眠い……」
「起きなさい」
公爵夫人は、眠っている娘を容赦なく起こす。その様子を、アレグラは微笑みながら、アキラは無表情のままで見つめていた。
そして、アリサが目を覚ますと、アレグラが仕事にかかる。
「お嬢様。今日は、どんな調子ですか?」
「熱い。だるい。何もしたくない。ところで、後ろの子が………」
何もしたくないと言うわりに、熱を出したと言う公爵家のオジョーサマは、アレグラの後ろにいるアキラに興味津々の様子である。だが、そんなアリサを、アレグラはにっこりと微笑み、黙らせた。
「それは診察が終わってからにしましょう。さ、胸を出してください」
「はぁい」
それからは、アリサは素直にアレグラの指示に従う。そうして順調に診察は進んでいった。
「はい、いいですよ。では、いつものように薬を出しておきますから、きちんと飲んでくださいね? 飲まなかったらいつまでも熱は下がりませんからね」
「分かってますー。で、後ろの子は?」
その後、アレグラがにっこりと微笑みながら告げると、アリサは目を輝かせ、アキラに興味を向ける。
そんなアリサの様子に、アレグラはほほ見ながら、アキラをそばに呼び、アリサに紹介をした。
「この子は先日よりうちの家族になった、アキラです。アキラ・モガミ・クレメンス。年は同じですね。アキラ、自己紹介を」
「アキラ。よろしく」
アキラは無表情で端的に名前だけを告げる。だが、熱に魘されているはずのアリサは、微笑みながらアキラに挨拶を返した。
「初めまして、アキラ。私はアリサ・クライシス・ドーリス。横になったままの紹介で悪いけれど、調子が悪いから容赦して欲しいな」
「気にしてない」
「ありがと。で、年、同じなんだよね? 私、今まで年が同じ友達っていなかったから、仲良くして欲しい」
嫌だ。アキラがそう言葉を紡ごうとした瞬間、アレグラがアキラの口を塞ぐ。そして、代わりにアリサに返事を返した。
「もちろんです。私からもお願いします。仲良くしてあげてください」
「うん。ありがとう、アレグラ。よろしくね、アキラちゃん。私のことはアリサって呼んでね」
アレグラが代わりに答えると、アリサは嬉しそうに微笑む。病弱故に同年代の友達を作れなかった少女。そして、愛を知らない少女。二人はいい友達になれるだろう、アレグラはそう考える。
ただ、アキラは面白くなさそうな顔をしているが。
結果、アレグラは早くアリサを休ませることにしたらしい。優しくアリサに告げる。
「さぁ、そろそろお休みください。元気になりましたら、またアキラを連れて遊びに来させていただきますから」
「ホント!? 約束だよ、アレグラ」
アレグラの言葉にアリサは目を輝かせる。反対に、アキラの目は冷たいままだ。それが、アレグラを若干焦らせた。
アレグラは焦りながらも診察に使った道具類を片付けていく。
その後、アキラを捕まえて、アリサに一言声をかけてアリサの部屋を出て行った。
「奥様、今回の薬です。きちんと飲ませてくださいね」
「分かってるわ。ありがとう、アレグラ。本当に、わがままを言って悪かったわね」
「お気になさらないでください。では、失礼いたします」
こうして帰途に着くまでの、馬車の中がアキラの怒る場所となる。
「さて、アレグラ。何、勝手に答えてくれてんのか、話してもらえる?」
人の考え無視して勝手に答えるなんて、普通しないよねーぇ? アキラが冷たい目のままで問いかけると、アレグラは若干逃げる。
だが、馬車の中では然程逃げることは出来ない。結果、アレグラは容易にアキラに捕まることになった。
「ねーぇ、答えてよ、アレグラ?」
「あ、ははは。怖い、怖いですよ、アキラ」
「うん、故意だから」
アレグラの言葉に、にっこりと作り笑いを浮かべて答えるアキラ。それが、更なる恐怖を呼び込んだ。
「ねぇ、何を考えて、勝手に答えてるの? 教えてくれるかな、お姉ちゃん?」