堕夢喰いのバグバク
夢というものは甘美で脆い。よく脆い。
プロ棋士だとか。サッカー選手だとか。
勉強だとか。才能だとか。
小さいころからあこがれる。
手を伸ばせばすぐ、手に届きそうで。
だからこそ。努力する。夢に向かって全力で。
壁にぶちあたっても、ライバルが現れてもそれでも前に進んでいく。
そして、気づく。
初心者だったころには気づけない急激な坂道に。
一歩の歩幅が1ミリにも満たないことに。
隣を歩いていると思っていた奴との差がものすごいということに。
真の天才には、真の努力家には、到底勝てやしないということに。
自信が喪失する。希望が失墜する。夢が、終わる。
輝かしくも消えゆく星のように。
燃える炎が溶けゆくように。
甘美な幻は蕩けて沈む。
ただ、俺はそれが見たい。その絶望を味わわせたい。
ただそれだけが目的であるならば、俺自身は天才でも努力家でもなくてよい。
逆に言うと、本物との絶対的距離を知っているからこそできる嫌がらせだ。
燃えカスのような白色矮星。夢を喰らううつけもの。
「だから君はバクって名乗っているんだね。おもろいねぇ」
本来バクと名乗るきことすらおこがましい。
生来の、天性の、本物のバクにすらなれるわけがないのだから。
言わば皮被り。マスクド・なんちゃら。プリテンダーですら程遠い。
あいつらに届くレベルですらない。俺はただ、失墜した夢の先で待っているだけの者。
ただ、言いたいこととしては。
その冷え切った星にでも、そこらへんの石ころを蹴とばすことならいくらでもできるということ。
そこら辺の石ころだった俺だから言える。そこら辺の石ころ程度でできるお仕事だ。
その底辺で切磋琢磨という生ぬるい友達ごっこをしているやつらに現実を叩きつけることなんて夜食前だ。
本当にくだららない。ペクチェはねぇし、くそでも喰らえと吐き捨てたくなる。
不味い夢なんて追うものではない。きっとそんなものは真の夢ではない。いつか壁に激突する前に。
時速1000kmで衝突する前に、時速10kmの段階で俺程度のクッションにあたっておけばいい。
人間ってのは、たったその程度で折れちまうってことを自覚すべきだ。
弱いやつを、夢見がちな芽を、調子に乗っている世間知らずのガキを、そいつが最高の状態で潰しきる。なんて楽しいことだろう。
ああ、本当にバグってる。まずい飯を喰べ続ける。そんな毎日を送るだけ。
「ああ、それでバグバクなのかい。自虐的というかなんというか、もっといい名前にしたらいいのに。まぁ僕が言う権利なんてないけれど」
俺がバグってるのか。世界がバグっているのか。そもそも夢なんて泡沫がバグなのか。
どうだっていい。俺はただただ喰い続ける。
「どうしようもなく君は人間のことが好きなんだね」
そう見えるお前もバグっているのか。それを認識すらできていない俺がバグっているのか。
いやそもそも、この世間がこの世がバグっているのかもしれない。
どっちだっていい。なんだっていい。
目を背けてしまえばいい。逃げてしまえばいい。追いかける必要なんてない。何かに追われる必要すらない。
そもそも何かと比較することが間違っている。そんなことでは真の夢には届くはずがない。
俺はバグバク。不要でくだらない夢だけを喰い殺す。浮足立ったその足元から食い千切る。
たとえ、そのせいでどれだけの人から憎まれようとも。それが俺の役割だから。
「真の夢とは。本当に目指すべきものとは。他者と比べるものではない、と。相対的評価ではなく、自己を中心とした絶対的評価で突き進む者だと。他者はあくまで参考でしかなく、そもそも評価軸が違うと。そういうことなのかな。いやぁ本当に君は面白い」
俺もお前もバケモノだ。だが、与える恐怖が根本から異なる。
「土俵が違うよね。君は正々堂々人に立ち向かう。与える恐怖が将来の希望に変わることを信じて」
お前は人がお前に立ち向かうことを拒絶する。人にお前という存在を介在させることを許さない。
与える恐怖が将来陳腐化されることを恐れて。
「人に嫌われるわけがない僕と、人に嫌われにいく君。どっちが救われるだろうね」
どっちも救われねぇだろうが。お互い損な役回りだ。
「お互い、救われるといいね」
ああ、本当に。
この甘ったれた夢で舌が腐り落ちる前に
その日が訪れることを祈るよ。
それ以降あいつの声は聞こえない。あいつが誰かも分からない。
そうして俺は今日も、吐き気のする甘美な夢を喰い続ける。




