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「じゃ、女子が出る種目は決まったことだし移動してくれ」
先生の一声で女子が教室から出て行く。次の授業である体育の着替えをするために更衣室へと移動するのだ。と、女子の行動はどうでもいい。俺はどうすっかな〜、と腕を組んで黒板を見た。
今、行われているのは三週間後に開催される体育祭に向けてどの種目に出場するか決める、ということだ。
黒板には各種目と出場する女子の名前が書かれている。去年は玉入れを選んだ。別に、運動は可もなく不可もなくだと思っている。でも、どうせなら足が早い生徒がリレーなどには出た方がクラス全体としていいはずだ。そういう理由で去年は玉入れにした。
「それじゃあ、今から男子が出る種目決めてくぞ。出たい種目があれば立候補してくれ」
さてと。今年はどうしようか。特に出たい種目がある訳でもない。クラスの迷惑にならないなら何でもいい。うーん。まあ、今年も玉入れでいいか。何だかんだ楽しかったし。
「最初はリレーにするか。リレーに出ようと思うやつは手を挙げて……候補者なしか。じゃあ、次だ。百メートル走に出ようと思うやつは手を挙げて……こっちも候補者なしか」
先生が黒板に書かれている種目を次々に聞いていくが不思議なことに男子の誰一人も手を挙げない。
どういう空気なんだ。よっぽど出たい種目でもあるのか。
周りを見ても頬杖をついてそっぽを向いている男子がほとんど。状況がいまいち分からないまま先生が二人三脚と単語を口にした瞬間、多くの男子が勢いよく手を挙げた。
「お前らな……先生は言葉が出ないよ」
今どき、問題にならないのか疑問になるけどうちの高校での二人三脚は男女ペアで行われる。どうやら、男子の多くは女子と合法的に触れ合える二人三脚を狙っていたらしい。しょうもない。呆れて先生も頭に手を当てている。
「まあ、先に決めた方が他の種目も決まりやすくなるなら仕方ない。時間も限られてるしな……えー、じゃあ、南條のペアから決めるか」
二人三脚は男子二人、女子二人のクラスから四人が出場する。女子の内の一人、南條の名前が出た途端、男子の熱気がさらに上がった。はいはい、と大きな声でアピールしている。うるさい。
因みに、南條というのはクラスで一番可愛いと男子から大人気の女の子だ。この機会にお近付きになろうとしているのだろう。
「これじゃ、決まらんだろ……女子のもう一人は西宮か」
西宮の名前が出ると空気が一気に静かになった。今の今まであった熱気はどこへ行ったのかと聞きたくなるくらい男子は何も言わない。
「お前らな、男として恥ずかしくないのか。クラスメイトだろ。友達だろ。そんな態度で西宮に悪いと思わないのか?」
先生の言う通りだ。南條がペアとなればあれだけ盛り上がれるのに西宮がペアとなれば黙る。西宮だって南條と同じ女の子だというのに。
「そうは言われても西宮とペアになりたくないんだもん。全校生徒の前で自分よりも背が大きい女子と組むなんて恥ずかしいし」
一人が言うと同意するような声が次々出てくる。嫌だとか無理だとか西宮がもう少し小さかったらとか。次第には西宮と身長の差が一番マシな男子に誰かがお前いけよと言い出し、それを断ったことにより西宮の押し付け合いが始まった。よっぽど西宮と組むのが嫌らしい。
そもそもの話、西宮に足が速いんだからと二人三脚を勧めたのは男子だ。なのに、いざ自分が西宮のペアになりそうになると嫌だと断る。あれ、なんかだんだん腹が立ってきた。別に、俺がイライラする理由はどこにもないっていうのになんでか無性にイライラする。
「あーもう。いい加減にしろお前ら……って、どうした東野。手を挙げて。何か言いたいことでもあるのか」
「西宮のペア、俺がやりたいです。いいですか?」
「お、おお。先生は構わんが」
「じゃ、俺の名前書いといてください」
西宮の名前の横に俺の名前が書かれる。ん、なんか周りから見られてるな。お前マジかって目で。誰も西宮と組みたがらないんだし、いいだろ。俺が西宮と組んだって。
それからは任せていたら決まるものも決まらないとのことで先生が体育の成績を見て誰がどの種目に出るか決めていった。
「ってな訳で西宮の二人三脚のペア、俺になったからよろしく。頑張ろうな」
「えっ!? えっ!?」
体育に向かう途中、たまたま会った西宮にペアになったことだけ伝えると目を丸くして驚いている。経緯までわざわざ伝える必要はない。西宮を傷付けるようなことしたくないからな。
「俺、二人三脚とかするの初めてなんだよね。西宮は?」
「ぼ、ボクは中学の修学旅行でレクリエーションで一回だけ」
「経験者だったか。じゃあ、足を引っ張らないようにしないとだ」
実際、西宮と足の速さはそこまで変わらないはずだけど、西宮は二人三脚の他にもいくつか走る種目に出場するほど速いらしい。どれくらい速いのかちょっと不安になるな。
「それじゃ、男子は外だからそろそろ行くわ」
「うん……あの、東野くん」
「ん?」
「二人三脚、頑張ろうね」
そう口にする西宮の顔はだらしなくなっていた。唇が緩んでいるというかなんというか。とにかく、笑っている。気が抜けるような顔で言われてもいまいち気合いが入らないというのが本音。
「目指せ一位、な」
「うん。最速タイムを目指そっ」
拳をこっちに差し出してくる西宮。漫画とかでよく見る約束する時に拳を合わせるカッコいいシーンのやつだ。自分がやるのは少し気恥ずかしい気がするけど、西宮の拳に自分の拳をそっと合わせた。
すると、西宮が満足そうに目を細めた。つられて俺も自然と口角が上がってしまう。約束するっていいな。
「あっ」
呑気に思っていればヤバいことをした時に出てくるような声を出した後、西宮の頬が赤くなった。力強く目を閉じて、何か後悔しているみたいだ。
「何かあった?」
「ちょ、ちょっと待って……もう少し。もう少しだけだから」
そう言って西宮が拳を何度もグイグイと押し付けてくる。痛みを感じるような、強い力じゃない。弱くて少しくすぐったい。女の子の拳って感じだ。
女子と触れ合う機会なんてろくになかった俺は変に意識したまま西宮の柔らかい肌に取り乱さないように耐えた。
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