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第一章 彩りを読む人 09

 澄み切った鮮やかな秋の空が、抜け落ちた天井から見えた。


 朝の涼やかな空気の中に、灰と炭の臭いが、まだ漂っている。


 ロイとリドリーは、火災現場の書斎だった場所に立っていた。エリスが情動採取した四ヶ所には、情動の風化を防止するため、床に大きな油布(あぶらぬの)が敷かれていた。


 ロイは、書斎の油布だけを外し、検分の準備を整えた。


 ロイには変わらない光景に見えたが、懸念していた通り、出火元に近い二階の一部が崩落した、と現場保全の当番警官が教えてくれた。大事はなかったが、寝室から廊下にかけての区域は、さらに崩落の危険があるとして、夜警団が二階の一部を取り壊す予定にしているという。


 今日は長居はできないだろう、とロイは思った。


 書斎の周辺を見渡すと、ここの二階は既に崩落しているが、壁や柱は残っている。倒れてきてもある程度は法術で防げるが、術式に入ったリドリーを避難させるルートと時間を確保しなければならない。


「僕の声が聞こえたら、なるべく急いで戻ってね」


 そう言うと、リドリーが頷いた。


 リドリーは、その場に直立して、目を閉じ、法杖を両手で正面に立てた。


「安らかに」


 リドリーは、法杖を宙に残して両腕を左右に伸ばした。その両の手のひらを床に向けると、リドリーの足元に、青白い同心円の大きな法印が浮かび上がった。


 ここまでは、いつもの情動感知と同じだった。


 ロイは、その法印に目を凝らした。


 法印の中心から、リドリーの後方に向けた半径上で、それぞれの同心円の線が次々にプツンと切れた。その亀裂から、まるで術力が溢れ漏れるように、法術文字が流れ出はじめた。


 切れた同心円の線は、それぞれに一つ外の線とつながった。


 法印は、同心円状から大きな螺旋状に変化していた。リドリーの足元から、大量の法術文字が泉のように湧き上がり、螺旋に沿って流れ始める。文字は法印の裾まで流れると、周囲の石床にしみ込んで、次々と消えていった。


 始まった、とロイはリドリーの穏やかな表情を確認した。ここから先は、他のどの鑑察官も立ち入れない、リドリーの特殊な能力でのみ見られる世界になる。


 この溢れる法術文字を見るたびに、尋常ではない術量だとロイは思う。実はリドリーにもその出所が分からないという。


 ロイの法杖もまた、先端に小さな法印を浮かべている。周囲の微かな変化に気づけるように、辺りの空間と自分の触覚を共有していた。


 リドリーは、身動きせず目を閉じたまま佇んでいた。ロイはその様子を静かに見守った。

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