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(うん……こりゃ、大変なことになってるね……!)
晴臣は体育倉庫の前で息を潜め、中の様子を窺う。
ここが亮太の “そういう場所” だということは知っていたが……まさかドンピシャで襲われている現場を見ることになるとは予想外だった。
(留学生が初日に襲われるとか、大問題だ……。ここは止めに入るべきだな)
深く溜息をつき、晴臣は一歩を踏み出そうとした……その瞬間だった。
「あいや、またれい!」
突如として飛んだ、時代劇ばりの台詞。
晴臣ではない、勿論亮太でもない。では誰の声か。
「……あ、アレ……?チガウ……?」
視線の先には、困った顔でキョロキョロするアーリャがいた。その瞳は、「わたしの日本語、変だったかな……?」と訴えているようだ。
「ククッ……お前、どんな日本語の勉強してんだよ……時代劇でも見てたのか……?」
亮太は肩を震わせ、笑いを噛み締めている。どうやらツボに入ったらしい。
「……はあ、もういい。萎えちまった」
しばらく笑った後、亮太は煙草を一本取り出し、口に咥えた。
「よく見りゃお前、貧乳かよ。興味ねえわ」
「エ……?」
「見逃してやるって言ってんだ。……ああ、日本語分かんねえのか?」
そう言うと、亮太は面倒くさそうにスマホの翻訳アプリを起動し、アーリャに見せる。
画面にはロシア語で、『ここには二度と来るな』と表示されていた。
『午後の授業には出てくれる?』
アーリャの返答が即座に日本語に変換されると、亮太は鼻で笑った。
「は?何言ってんだ。ウゼェ」
『……待ってるね』
「うるせえ、とっとと消えろ」
『待ってるからね』
「しつこいんだよ!!」
肩を揺らされながら怒鳴る亮太に、アーリャはにっこりと微笑む。まるで念を押すように。
「……チッ、気が向いたらな」
その返事を聞き、アーリャは満足そうに教室へと戻っていった。
(……何事もなくてよかった。でも彼女、彼に連れ込まれても無事だったなんて、すごいな……)
(……だけど、何故か心臓が早い。……不整脈かな?)




