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季節は桜の花びらが舞う四月の始め。
今日は富士見学園の新学期、そして高等部二年生にとっては初めての授業の日だった。
舞台は二年A組、ホームルーム前。
他のクラスからは賑やかな声が響いてくるというのに、このA組だけは気味が悪いほど静まり返っている。
理由は二つある。
ひとつは“学園一の変人”として名を馳せる 高本晴臣 がこのクラスにいること。
そしてもうひとつは“学園一の問題児” 佐藤亮太 が同じくA組に割り振られたことだ。
晴臣はまだいい。奇人ではあるが、害はない。それに学年一位の成績を持つ優等生でもある。
しかし亮太は違う。未成年喫煙、飲酒、校内での喧嘩や性行為、さらには問題行動の数々……教師でさえ手を焼く超級の不良だ。
《学園一の不良には、学園一の変人をぶつけるしかない》
────どうやら、それが学校側の苦肉の策らしい。
要するに、このクラスに配属された生徒たちは、運悪く“最低最悪の組み合わせ”に巻き込まれてしまったわけだ。
「さて、私がお相手する不良クンは……」
晴臣が静かに席を立ち、教室内を見回す。
亮太の顔と名前は事前に知らされていたし、そもそも悪名高い彼を晴臣が知らないはずがない。
おい、変人が早速絡みに行くぞ……!
とクラスがざわめいたが────
「……あれ、いないのかい?残念だね」
亮太が座っているはずの席は空っぽだった。
(新学期早々サボりか……。ふむ、問題児と言われるのも頷けるね)
探しに行こうと晴臣が教室を出ようとした、その瞬間。
────ドンッ。
「あ?なんだテメェ」
入ってきた生徒と肩がぶつかり、晴臣がよろける。
180cmを超える長身。目元にかかる黒髪。血を思わせる赤い瞳。
間違いない。
彼こそが“学園一の問題児”佐藤亮太だった。
「君が佐藤亮太くんだね。私が……」
「ウゼェ。退けよ」
小柄な晴臣はその肩で押し飛ばされるが、怯むどころか、その瞳はむしろ珍しい玩具を前にした子どものように輝いていた。
龍と虎が睨み合う……そんな緊張感が教室を満たし、生徒たちは息を呑む。
まさに一触即発。しかし、誰も止められない。
A組の生徒たちは心の中で思っただろう。
「なんでこんな外れクラスに当たってしまったんだ……」 と。
────その時だった。
「Вот она, японская школа! Как же волнительно!
(ここが日本の学校なのね!なんてワクワクするの!)」
明らかに場違いなほど明るく弾んだ声が響き、しかも聞き慣れない言語だった。一斉に入口へ視線が向く。
「あぁ?なんだこいつ……外人か?」
「なるほど。君が聞いていた留学生だね」
そこに立っていたのは金色のウェーブ髪、淡い青の瞳を持つ、まるで奇跡のように美しい少女。
彼女は輝くような笑顔で晴臣と亮太を見つめていた。




