2-7
亮太はアーリャを横目で見ながら、舌打ちする。
「……ロシア女。テメェ、まだ漫画のキャラと俺を重ねてんのかよ」
その声は呆れと苛立ちが混ざっていた。嫌悪の温度は高いのに、なぜか完全に突き放す訳でもない。ただ、その表情は心底気持ち悪い理解出来ない何かを見ているような表情だった。
アーリャは胸に手を当て、息を整えながら答える。
『……りょ、亮太……あなたは、その……“リョウ”に……』
言い終える前に、亮太の眉がぴくりと跳ねた。
「……マジで気持ちわりィなテメェ」
そう吐き捨てながら頭をかく。
けれど、次の瞬間、亮太の口元に悪いことを思いついた少年特有の薄笑いが浮かんだ。
「……ああ、そうだ。いいこと思いついたわ」
アーリャが小さく首を傾げると、亮太は一歩近づき、彼女の肩に手を置いた。
拒めないような力じゃない。けれど逃がす気は一切なさそうな、強引さ。
「ロシア女。お前、そいつに似てる俺に興味があるんだろ?」
アーリャの心臓が跳ねる。ご名答だった。
「…………っ!」
亮太は、にやりと笑う。
「だったら……お前、今日から“俺のオモチャ”になれ」
アーリャの肩が震えた。怖いのに、心臓が熱くなって……ドクンドクンと打つ。
「オモ……チャ……?」
アーリャはカタコトの日本語でそう繰り返す。
「そうだよ。なんでも言うこと聞け。俺が呼んだらすぐ来い。嫌って言う権利はねえ」
その内容は一方的で、理不尽そのものだった。
だが、アーリャの胸はドクンドクンと、高鳴っていく。
(……オモチャ……“リョウ”が女に言いそうな台詞だわ……!)
どこか恍惚とした瞳で亮太を見つめるアーリャ。その反応に、亮太は心底イラついたような瞳で彼女を見返した。
「……なんだよその顔。気持ち悪ィ」
『……お、オモチャ……って……えっちなことしたりもするの……!?』
その質問は、純粋というより“漫画の続きを期待する読者”そのものだった。
亮太は即座に吐き捨てる。
「しねぇよ。誰がお前を喜ばせるようなことしてやるか」
アーリャの瞳が大きく開き――少しだけ残念そうに震えた。でも、すぐに頬を赤くして俯く。
(……オモチャ……私が“リョウ”の、オモチャ……)
嬉しい。怖いのに、胸が熱い。ページをめくる手が止まらないあの感覚が襲ってくる。
亮太はそんな彼女の様子に、深くため息をつくように煙草の煙を吐き出した。
「……ハァ……ホント扱いに困る女だな。でもまあ……都合は良さそうだし。利用してやるよ」
アーリャは小さく息を呑みながら、コクリと頷いた。最低なことを言われている筈なのに、胸が詰まるほど熱くなる。
「……ウゼェ」
亮太はアーリャの肩を軽く押し、突き放すように言った。
「じゃあ決まりだ、オモチャ女。勝手に俺の周りうろつくなよ。呼んだときだけ来い」
その“呼ばれる日”を想像し、アーリャの心臓はさらに速く跳ねた。
(……わたし、本当に“リョウ”の物語の中に入ったみたい……)
そして、亮太はもう一度だけアーリャを睨み……面倒くさそうに踵を返した。
……勿論、この会話もしっかりあの男……晴臣に聞かれていた訳で。
(何だこれ何だこれ……!!面白すぎるじゃないか、この展開!)
(よし決めた!これから私はこの二人の動向を追い続けるとしようじゃないか!あぁ……!ワクワクしてきたなあ……!!)
それはもう、とても不健全なストーカー宣言だった。
第三話へ続く……




